笑わない日々が続いた。楽しいとか嬉しいとかそう言ったものが感じられなかった。
仕事は姉が務めていた大型スポーツ用品店で短期アルバイトとして雇ってもらった。
地元で有名な私を雇ってくれるところはなく、学歴も当たり前の知識もない自分は本当に空っぽだと思った。不良の世界ではエリートだったかもしれないが、社会の中に入ると自分の知らないことばかりだった。アルバイト先の人と日常会話ができない。自分のことを話して離れてしまうかも、と思う気持ちがあって自分から進んで会話に入っていくことができなかった。
ひとりでいると、涙が出てくる。夜が長く感じ、考えたくないことばかり考えてしまって、「自分は嫌な奴だからみんなに嫌われたんだ」「自分がどうなっても誰も悲しまない」どんどん、自分で自分を追い込んでいった。
ちょうどそのころ、知り合いの知り合い程度の知人に偶然会った。知人は「寝れないんだったらこれ使えば」と言い、パケ(覚せい剤が入っている小さい袋)を差し出した。
私はそれが何なのかすぐわかった。以前に見たことがあったし、その白い粉の怖さも知っている。深夜テレビが終わる時間になると「人間やめますか、覚せい剤やめますか」とCMが流れていて、覚せい剤は人間ではなくなってしまう恐ろしい薬で、それをやる人間は
最低な人間だと思っていた。でも、私はだからこそ・・今の自分にぴったりだと思った。
躊躇することなくポンプ(注射針)を注した。覚せい剤を身体に入れると力が漲るように感じ、また軽くてどこにでも飛んでいけるような気がした。何かに夢中になると時間があっと言う間に過ぎて、長い夜もなくなった。一回が、二回になり・・薬の切れ目になると身体がだるく追い打ちをする。いつでもやめられると思っていながら打ち続けていた私は気がつくと毎日覚せい剤を打つようになっていた。高額の覚せい剤だったが売人が雑誌に出ていた私を知っていて、お金がかからず簡単に手に入る状況にあったからもある。
そしてその半月後、シャブ仲間と車で仕入れに向かう途中、警察の検問に合い職務質問を受けた。内心ドキドキしながら何個かの質問を受け、最後だろう質問が「おまえら、シャブやってないだろうな、腕出してみろ」
出さなければ疑われる。私は服の袖は捲った。
腕には無数の針の後がある。そのまま警察署に連れてかれおしっこ検査をして、結果は陽性、そのまま逮捕された。
「どうでもいい」その時、そう思った。
捕まることも、少年院に戻されること(仮退院中)も、この先の自分の人生も「どうなってもいい」そう本当に思っていた。
一瞬、審判の時のお母さんの泣いている顔が浮かんだ。お母さん泣いている顔を見る、それだけは嫌だな・・と思った。
逮捕され、私には10日拘留がついた。
留置場に入れられたが食欲はまったくなく体調が悪い日が続き、吐いてしまうことが多くあった。
「これが覚せい剤が抜けることなのか」
拘留されて6日くらい経ったころ、看守が私を病院に連れてってくれた。
連れて行かれたのは、産婦人科で、私は妊娠していることを告げられた。
医者の言っていることはわかったが理解ができない。
SEXをした記憶はあるから、自分にも十分あり得ること。だけど・・・「自分が妊娠している」そのことが理解できなかった。
吐き気は薬の切れ目ではなく、つわりだったんだ。
「私のお腹に赤ちゃんがいる。」・・・・・・