皆さんはじめまして。中村すえこです。少年院出院者が社会復帰するための支えをする「NPO法人セカンドチャンス!」のメンバーであり、自身も少年院出身者として主に執筆活動や講演などをしています。


★塀の中への訪問
2010年3月、東北地方の女子少年院を訪問した。
仙台は5年ぶりの大雪が降り、新幹線の中から見た雪景色はとても綺麗だった。「白って気持ちが落ち着く色なんだな」そんなことを考えていた。
少年院経験がある自分が次に少年院に行くことがあるとしたら、その時は再犯の時だと思っていたので、こんな日がくるとは夢にも思ってなかったことだ。緊張で胸がドキドキしていた。
当時は高い塀に大きな門、そこから先は出口のない迷路のように思えたけど今になって見みると高い塀は思ったほど高くなく、記憶にあった存在感のある大きな門は、鍵もかかっていなく解放的なものに見える。
記憶ってそんなものかも知れない。
施設に入ると、だいたい玄関に受付があり、その先にジュースの自動販売機がある。私はジュースの販売機を確認してなんとなく笑ってしまった。きっとこれは収容されたことのある人間しかわからない気持ちだろうな。
そんな思いで、自分の入ってきた玄関を振り返った。

★人は変われる!そう伝えたくて
教室に案内されて、イスに座ったけど、私はとても緊張していて眩暈がしてきてしまった。音が遠くなる感じがして、もしかして今日は話すことができないかと思った。どうにか言葉が口から出て話し始めたけど今度は息を吸うのを忘れてしまって、声が出なくなり苦しくて、こんなに緊張したのは生まれて初めて。
「しっかりしなくちゃ」そう思うとさらに喋れなくて、まっすぐに私を見ている少年たちの瞳が熱くかった。
離れた場所に座っていた園長がやさしそうにうなずくのが見えて少し緊張が解け始めてやっと話しはじめることができた。
 自分の生い立ち、幼少期、父と母の不仲、家が貧乏だったこと、非行の始まり、居場所、少年院、裏切り絶望、転落、再犯、そして私が変わりたいと思ったきっかけ・・
当時を振り返り、思いだしながら正直に話した。
辛く悲しい思い出になってしまったことも、全部を聞いてもらった。
少年たちを見たら、泣いている。私も涙が流れていた。
なんだろう、この気持ちは。よくわからないけど・・この子どもたちと自分は同じなのだと思った。現在、私はあれから20年経っておとなになったけど、今ここにいる少年は以前の自分なのだと思った。今、一生懸命生きている姿を少年たちに見てもらうことがこの子たちの希望になるんだって思ったんだ。自惚れとか過信ではなくて、普通に生きることができる、ただそれだけでいい。それを伝えらえるのが当事者と呼ばれる私たち、セカンドチャンス!の役割なのだと思った。

★当事者として望む社会
一般的に少年院にいる子どもは加害者だが、少年院に講話に行くようになってからそうではないと思うようなった。
なぜなら、もちろん家庭裁判所の審判で少年院送致になったのだから犯罪に関わっていた子ということは確か。でも、なぜ、犯罪に関わったか、と考えると少年たちが加害者になる前に・・つまり事件を起こす前に、被害者になっているというケースがあるというと知った。特に女子ではそう思うし、今では、もしかしたらほとんどなのかもしれないとも思う。
男に騙されて売春、薬物に手を出してしまった子。もっと、辛いのは親からの虐待、売春の強要、手段を選べない子どもたちは何をすればよかったのだろう。
そして、少年院から帰れない子どもが多くいる。現実を受け入れず子どもを否定する親。全ての親がそうだと言うわけではないが、多くいるということを知った。それが今の現状なんだ。
だがその現状を知る人間は少なくて「少年院に入っていた子」という事実だけで人を判断する。それは自分も感じたことでもあるし、社会からの「白い目」はとても辛いことだ。
10代の少年が一度過ちを犯したらもう幸せになることは許されないのか。

幸せになる権利は誰にでもある、そう私は思っている。
少年たちのセカンドチャンス!を多くの人に理解してもらいたい。