モリアーティ―ザ・パトリオイット(Moriarty the Patriot)」は、原作が甲斐谷忍による「モリアーティ―ザ・パトリオット」漫画で、アニメ化は2020年に放送されました。本作は、アーサー・コナン・ドイルの名作「シャーロック・ホームズ」シリーズの悪役であるジェームズ・モリアーティを主人公に据えた物語です。モリアーティの視点から描かれる、19世紀のイギリス社会における不正と格差に対する反乱の物語は、単なる「悪役」の物語にとどまらず、社会的なテーマや道徳的な選択にまで踏み込んでいます。今回は、アニメ版「モリアーティ―ザ・パトリオット」の全体的な評価を中立的な立場からレビューします。

 

 

                                                           

物語の概要とテーマ

「モリアーティ―ザ・パトリオイット」は、物語の中心にいるジェームズ・モリアーティが、社会の不平等や腐敗した権力に立ち向かう姿を描いています。彼は、上流階級の貴族でありながら、貧しい人々のために「革命」を起こすことを決意します。その過程で、モリアーティは自らの知力と手腕を駆使して、複雑な犯罪や策略を仕掛けていきます。物語は、彼がどのようにしてイギリスの社会の腐敗を暴き、またその中で彼自身がどのような道徳的選択をしていくのかを追いかける内容です。

本作のテーマは非常に重厚で、社会の階級問題や不正、革命的な思想に対する疑問を提起しています。モリアーティ自身の動機は「正義」ではなく、あくまで「社会秩序を破壊すること」という側面が強いため、その行動や選択に対する倫理的な問題が常に物語の中で浮かび上がります。視聴者はモリアーティの行動に賛同するのか、それとも彼の手段の過激さに疑問を抱くのか、その辺りの葛藤が本作の大きな魅力となっています。

キャラクター

ジェームズ・モリアーティ
モリアーティは、本作の中心人物であり、その知略や冷徹な判断力が物語の進行において重要な役割を果たします。彼は非常に知的で冷静なキャラクターであり、しばしばその計算高さが彼の魅力の一部となっています。モリアーティの人物像は、ただの「悪役」ではなく、彼の行動には背景となる社会的な不正や不平等が強く影響しており、視聴者は彼の動機に共感を覚えることもあります。しかしその一方で、彼が行う行動は非常に危険で過激なものであり、時にその手段の倫理的な問題に悩むこともあります。

ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ
モリアーティの兄であり、彼と共に活動するもう一人の主要キャラクターです。ウィリアムは非常に理知的で冷徹な人物であり、弟のジェームズを支える重要な役割を担っています。兄弟の関係は、物語の中で大きなテーマとなり、二人の関係性の変化や葛藤が物語を進展させます。

シャーロック・ホームズ
本作におけるシャーロック・ホームズは、モリアーティの対立者として登場します。ホームズは非常に鋭い洞察力を持ち、モリアーティの計画を次々と見破っていきます。ホームズのキャラクターは、原作におけるイメージを踏襲しつつ、モリアーティと対立する重要な役割を果たします。

その他のキャラクター
モリアーティの側近であるルイス・ジェームズ・モリアーティやアルバート・ジェームズ・モリアーティといったキャラクターも登場し、それぞれが物語の中で重要な役割を果たします。これらのキャラクターたちは、モリアーティの理想に共感し、彼のビジョンを実現するために活動します。彼らの個性や行動は物語の進行を豊かにし、視聴者に多くの感情的な反応を引き起こします。

作画と演出

「モリアーティ―ザ・パトリオイット」の作画は、非常に高い水準であり、特にキャラクターのデザインや背景のディテールが精緻に描かれています。19世紀のロンドンを舞台にしているため、建物や衣装などの細部に至るまで、時代背景を反映した美術が施されており、視覚的に非常に魅力的です。また、アクションシーンや緊迫した対決シーンでも、動きの細やかさや迫力がしっかりと表現されています。

演出面では、モリアーティの知略や計画が進行する場面では、緊張感が高まり、視聴者に次の展開を予想させるような手法が使われています。対照的に、キャラクター同士の会話や心理的な葛藤が描かれるシーンでは、静かで慎重な演出がなされ、視覚的にも感情的にも引き込まれます。

総評

「モリアーティ―ザ・パトリオイット」は、単なる犯罪劇やアクションアニメにとどまらず、社会問題や倫理的なテーマに深く切り込んだ作品です。モリアーティというキャラクターが描く「革命」というテーマは、視聴者に強い印象を与え、彼の行動に対する賛否を巻き起こします。物語の進行にはしっかりとした緊張感があり、視聴者を引き込む力があります。

ただし、物語の重いテーマや、モリアーティの手段の過激さが一部視聴者にとっては難解に感じられることもあるかもしれません。特に倫理的な問題に関して、モリアーティが選ぶ道が視聴者にとって納得できるものかどうかは個人差があります。そのため、このアニメを楽しむためには、物語が描く複雑なテーマに対してある程度の思考を要するかもしれません。

作画や演出においては非常に高いクオリティが維持されており、19世紀のロンドンを舞台にした精緻な美術や緊迫した演出が物語に深みを与えています。全体的に見ると、「モリアーティ―ザ・パトリオット」は、犯罪・サスペンス・社会的テーマをうまく組み合わせた作品であり、アクションや深いテーマに興味がある視聴者に強くお勧めできる作品です。