ジェットコースターに乗ったときのように内臓がふわっと浮いた感覚を感じながら夢から覚めた。

 時々あることだから気にはしないのだが、こんなにも、気持ち悪く目覚めたのは久しぶりだった。

 

『フレメンキュール』 鮮明に残る言葉と緑色の服の少年。

 

人の名前、顔、場所を 鮮明に憶えている夢を見たときは、決まって予知夢か、前世の記憶なんじゃないかとスピリチュアル的に考えてしまうが、実際は ほぼ何も起こらないし、前世があるかどうかすら分からない。

とは言え、気になる。

 

憶えている間にメモしておいたのだが、時間が経つと『フレメンタール』だったかもしれないと思うようになった。

 記憶とは いい加減なものだと気づかされる。

だから 夢のストーリーなんて、その時は憶えていても すぐに忘れてしまうのだろう。

 

それなのに、今朝は時間が経っても 何とも言いようのない気持ちの悪さと、言葉の残骸が鼓膜に纏わりついたまま離れてくれない。

 悪い夢は他人に話して手離したほうがいいと 聞いたことがある、会社で誰かに聞いてもらおう。

 

お昼休憩にお弁当を食べながら 夢の話をした。

 何もない部屋に、緑色の服の少年と小学校の低学年くらいの男の子二人と私ともう一人少女がいた。

 緑の服の少年が窓の外で宙に浮いている、男の子達に『フレメンキュール』と 言葉をかけると、彼らはふわりと浮かんだ。

二人とも窓から外へ飛び出し 浮遊して楽しんでいる、見ている私も嬉しくなって気分が良かった。

 

緑の服の少年が、 私にだけ言った。

一人で飛びたくなったら、『フレメンキュール』と 『・・・・・・』この言葉を言わないと、 落ちるよ

ここで目が覚めた。

 

『不思議な夢ね。でも、夢って変なのが殆どだから気にしなくてもいんじゃない』

『それより目の下、クマできてるよ。寝不足みたいだね』

明日、良い物を持ってきてくれると 間宮彩華(まみやいろは)が言った。

 同い年の彼女は3ヵ月前、中途採用で入社してきた。

ファッションにも美容にも詳しくて、美人なのに気さくで、昔から知っている友達のように話しやすい同僚だ。

 

 

次の日、カモミールティーをプレゼントしてくれた。

『安眠したいなら、コーヒーよりハーブティーのほうが良いと思ってうたちゃんにプレゼント~、飲んでみて』 

 眠る前は少し濃いめに淹れて、香りを嗅ぐとアロマテラピー効果で ぐっすり眠れるらしい。

『ショップも教えとくね。気にいったら行ってみて』 

『そうだ、10時の休憩の時に淹れてあげるよ』

 間宮彩華が天使に見えた。

 

 

 

その日の午後、事件が起きた。

 うちの会社が管理している雑居ビルの空き部屋から物音がするから確認してほしいと連絡が入った。

1週間前に換気をした時、何か動物が入ったのかもしれない・・・

 営業の住田さんと退去時に立ち会った私とで確認することになった。

 

最上階の西側の部屋、5ヵ月前まで輸入雑貨店のオフィスだったところだ。

 鍵を開けて早速確認してみたが、南窓で白っぽいPタイルの空っぽの部屋、窓が壊された形跡もなく鍵もかかっている。

エアコンの排気口もきちんと蓋がしてあって動物が入ってくる隙間もないようだけど・・・

 給湯室も調べてみたが、特に問題なく退去したときのままの状態を維持していた。

 

後は天井くらいなんだけど・・・点検口を開けることに少し抵抗があった。

 以前、点検口を開けたとき、音と光に驚いたコウモリが顔の周りを飛び回り、脚立から落ちそうになった。 ちょっとしたトラウマになっているからだ。

 そのことを話し、天井は住田さんにお願いすることにした。

 

点検口を開けた瞬間、 ゴトン と大きな音が部屋中に響き渡った。

 

脚立を支えていた私の目の前に、横たわる男性。

 時間が止まったかのような静寂から、一瞬で音が戻り、全身の力が抜け落ちるのが分かった。

 救急車、携帯、声が出ない、 震える声で「誰か来てー!」 と叫ぶのが精一杯だった。

同じフロアにいた人が、駆けつけ救急車と警察に通報した。

 震えが止まらないまま警察の事情聴取を受け、その日は帰宅した。

 

病院に搬送中の住田さんは、呼吸も脈拍も安定しているのに意識だけがなかった。

今も昏睡状態でいつ目覚めるのか分からないらしい。

 

警察では、住田さんと私の関係を根掘り葉掘り聞かれたが、会社だけの繋がりしかない私達に何かあるはずもなく、今回のことは事件ではなく事故として処理されることになった。

 

私は何も悪くないはず・・・

 それなのに

『精神的に疲れただろう』 と上司の一声で、半ば強制的に休暇をとることになった。

 

To be continued....