日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか/集英社インターナショナル


ここ数年で読んだ類似書のなかでは、とても質がよいと思いました。
日米地位協定や日米原子力協定の不当さを糾弾する目的ではなく、被害者ファンタジーに浸ることもなく、機密文書等をよく掘りながら、問題を解くカギを、合理的にさぐっている本です。

2014年秋の発売後、半年強(2015・6月)で10刷、アマゾンレビューでは約170レビュー&平均星4,5点
右左派ともにリベラルな方にいちようの納得を与えた言われています。


*以下、本書からのまとめ*(カッコ部分は私的コメント)
つまるところ、基地や原発の理不尽な問題の根本にある構造は―――
【!】日本は2015年の今も、法体系は【安保条約や密約>日本国憲法>憲法以外の法律】となっており、
「国の存立や安全保障にかかわる」問題は、安保条約や日米地位協定と、それにもとづく日米合同委員会(米軍高官と日本の官僚)が決め、憲法の治外法権状態となる。

すなわち原発や基地に関してどんな事件、裁判が起きても、日本の司法がいまの世界スタンダードで機能し、市民側が最終的勝利を得ることは、ない。(福島≒沖縄)。

そしてこの図式の大前提になっているのは、
【!】1992年にフィリピンが自国から米軍基地をなくして以来、アジア10か国(ASEAN)での外国人基地はゼロとなり、16世紀以降続いた欧米の植民地支配は終わった(はず)だが、日本だけはいまも実質的に軍事占領下であり、

日本では「連合国」(2次大戦の戦勝国連合)を「国連」と違訳しているが、その常任理事国が結んだ最上位の国際法=「国連憲章」においては、もう二度と武力をもたせてはならない危険な国扱い=「敵国条項」がいまだに削除されないまま残っている。

(※安保ムラ(下記)では、もう敵国条項が死文化したというが、仏語圏の法律学者80人の研究では、効力がなしとは認められなかった。
ちなみに同研究で、必死に戦後処理を終えたドイツは死文化したとされた。その結果がEUでのポジション。
かくして日本では、今日も米軍機は、日本全国の空を自在にとぶ。基地内のアメリカ人住宅街では絶対にとばない(あぶないから))

…と、いう国際標準的な認知がほとんどの日本人にはできていないので(私も)、
「連合国」の五大(米・英・仏・中・ロ)常任理事国である中国に、
「日本の尖閣購入は、世界の反ファシズムの流れへの否定だ」などと非難されても、意味がわからない
(中国のほうが野蛮という反論は後半へ)


(以下、私がもっと驚いたメモ)

◆アメリカの高官たちは、開戦の翌1942年には、すでに、
「戦争に勝ったら、天皇を平和の象徴(シンボル)にし、傀儡政権(パペットレジーム)をつくる」
と理論構築していた。(日本がカミカゼわーわーと言っている間に・・)

◆だが昭和天皇と側近は頭脳明晰で政治的手腕の高い人々だったので敗戦後↑これを利用しつつ、天皇を裁判にかけ滅ぼさせないようにした。

◆マッカーサーとの1回目会談について、もっとも整合性がある資料の内容は、
「(昭和天皇は)じぶんは宣戦布告書を出す前に真珠湾攻撃を始めるつもりはなかったが、東条が自分をあざむいた。責任を回避するためにそう言うのではなく、日本国民の指導者であり、日本国民の行動には責任がある」と語った、というもの。日本の外務省の公式記録からは削除されている

戦争の発端は東条にあるとし、天皇は逃げのない態度と米軍に協力する姿を見せるシナリオが米主導・日本追随でできていた。
ここから「米軍+天皇」という、安保村の土台ができた。

⇒この安保ムラ構造は占領直下だけでなく独立後も続き「統治行為論」なる理屈?で憲法の機能が怪しくなったまま現在に至る。

◆昭和天皇の「布告文」「人間宣言」も、「日米安保条約」も、「日本国憲法」も、みな最初は英語で書かれていた。
(①GHQが憲法草案を書き、当初は隠蔽を指示。②しかしそれが日本人には書けないような人権条項もふくむ理想的な内容であったため、ねじれが起こり、戦後70年現在に至るまで右左派の対立が終わらない)。

◆日本に対しさまざまな検閲指示を行ったことを、数年~30年以内には公開して国の整合性を保つアメリカに対し、
日本はその指示をアレンジしたことで「自発的」と言い張り、指示があったことを隠蔽してきたので、「過去の記憶のないひと」状態になり、国として整合性を保てていない。

◆さらに複雑なのは、「沖縄メッセージ」でも確認されるように、昭和天皇&日本支配層のほうから「占領」の継続を「望んだ」面があること。日本を守るためであり共産主義へのおそれであったとされる。

安保条約には、日本を守る側面と、日本が再び凶暴な軍国にならぬよう阻止する側面が残り、日本は現在もアメリカの「同盟国&潜在的敵国」状態である。

しかしこれはアメリカ全体の総意でなく、軍部の構想と日本支配層の思惑が結びついたものであり、アメリカ国務省やアメリカの良識市民は、基地の継続→憲法九条二項(軍事力と交戦権の不所持)との矛盾→日本の憲法の問題の深刻化を予測していた(秘密資料の解除で明らかに)

(まとめると)

◆在日米軍基地と憲法九条二項、国連憲章の「敵国条項」の問題はセットなので、これらを切り離して考えると解決できない。
本書では憲法の改良をすすめる。まず米軍の撤退と、主権外の外国軍備を国内におかないことを憲法に明記し、米軍関係の密約すべてを無効にする。
そして安保>憲法という構造を、国際スタンダードに直し、国の主権をとりもどすこと。

与党や首相や官僚…安保ムラやマスコミを責めるばかりでは、また「憲法変えるな」と「護憲ムラ」を守る一辺倒では、建設的な解決に踏み出せない。




(以下、アマゾンレビュー bilderberg54さんより抜粋)
―――有り体に言えば、この本は「大西洋憲章→連合国憲章→ポツダム宣言→日本国憲法→サンフランシスコ講和条約→安保条約→新ガイドライン」という国際法解釈を徹底的に駆使したジョン・フォスター・ダレス元国務長官が確定させた「日本占領」を、リベラル側が主導する改憲により一部断ち切り、国連憲章における敵国条項を周辺諸国との融和を通じ廃止する、という提言をしているのである。

この本の後半の謎解きで誰もが驚くのは、日米安保条約も日米地位協定も、大西洋憲章からながれるアングロアメリカンの戦後秩序構想から発する、ダレスの描いた壮大なグランドデザインの一部にすぎなかったという事実だろう。大西洋憲章、ポツダム宣言、国連憲章、サンフランシスコ講和条約などの国際条約に仕込まれた、巧みな「適用除外」規定の意味を読み破ることで明らかにしている。




(本書に対する反論のいろいろ)

◆日米原子力協定とは、日本の核兵器開発の禁止と核不拡散に関する取り決めであり、原発やプルサーマルを強制されるものでない前提だ…という反論がありました。

(でも重要なのは法的構造およびその実質的な効力が日米地位協定と類似し、日本側が独自にきめていいのは「電気料金」しかない、という現実ではないかしら。
しかも「この協定の終了後も引きつづき効力を有する」という、ハットトリック的な密約があちこちに挿入されているので、これらの条約に対し憲法の機能停止状態の現状で、日本人からは絶対にこれをひっくりかえせないこと、そのものが、問題なのでは)

◆米軍を追い出したフィリピンモデルにならい、憲法をかえようという本書の趣旨に対し、
1992の憲法改正により米軍を追い出したフィリピンは、中国に侵略され、米軍にまた頼って協定を結んだが領土は戻らないじゃないか!という反論も・・・

(確かに現時点でアジアで侵略、略奪、虐殺、を繰り返しているのは中国。この脅威に現実的な対策もないまま、改憲しようというのはいささか無謀かも?)



ではどうしたらいいのか。つづきを考えてみたいと思います。