久しぶりに林真理子さんのエッセイを読みました。ご本人販促もあって40万部売れ、印税でバーキンを購入されたとか。相変わらずの買物芸人ぶりがまぶしいです^^

$誰でもモテ文章が書ける! コラムニストが贈る  物書き術1000

25年前、私はこの方に憧れ「あたいもライターをやる!」と上京し、今はご近所の(ボロ)事務所で仕事する環境に。ある意味、野心のプチ恩人です。

しかし、このエッセイは、肝心の若い世代には受けていないと編集者に聞きました。試しにアマゾンレビューをのぞくと…成程。


本書でマリコ先生は案じます。
--「低め安定」志向の人々がいくらなんでも多すぎないか。一流の暮らしや考え方を知ろうともせず、差別をされながら三流同士でぬくぬくと群れ、「ユニクロとワンコイン牛丼があれば、なんとかなる」…それが一生続くような錯覚が蔓延する社会は脆弱になるのでは。

--現代っ子の恋愛欲、結婚欲、性欲のうすさと野心の希薄さは結びついている。

その通りですマリコ先生。もちろん、年をとってから安物ばかり着る人は「惨めこの上ない」。その通りですマリコ先生…。
(・・)しかし価値観を見事にしぼりましたね。


かくして本書では「野心」の価値が様々な局面から説かれ、野心をしょって山に登る時の恥やマナーや、至福の喜びが描かれ、こんな時代だからこそ人生を向上させようというメッセージが溢れます。

「野心が車の「前輪」だとすると、努力は「後輪」。野心と努力、両方のバランスがうまく取れて進んでいるときこそ、健全な野心といえる」

「自分でちゃんと努力をして、野心と努力が上手く回ってくると、運という大きな輪がガラガラと回り始める」


などはマリコ真骨頂フレーズでしょう。しかし、


右肩上がり時代の我らオジオバの価値観では、ほんとうに尺の当てられない時代になりました。日本の現代っ子は、9割方、生まれつき衣食住に飢えないという、地球史上はじめての集団だもの。

たとえそれがユニクロ牛丼コンビニだとしても、周囲の環境も同じレベルなら、「牛丼がなければ100均の惣菜を食べればいいのに」・・・的なループからは抜け出しづらいでしょう。

言い換えれば、今の若い人にとってこの世は最初から、「余生」のようなものかもしれない。

これまでの全ての先祖が「やっと十分な衣食住がそろった・・・」と安堵してきた「ゴール」が、生まれたとき既にあったら、どうして「それがなくなるかもしれない」「もっと欲しい」と強く願えるだろう。



「飛行機のファーストクラス」「モデルと付き合ったり」「夜景のきれいな高級マンションに住み」「女子アナと合コン」「バーキン」「海外旅行」「有名人との交流」……野心の見返りとしてマリコ先生が挙げる例(半分ギャグかもしれない)、本当に欲しくないのだなあと今の20代を見て思います。


そんな中で、TABLE FOR TWOのような社会起業家がイケていると思う子が増え、大学でも「ボランティア何してる?」「社会活動してる?」が、充実度の符号めいてきた。

そこにはいささか点数稼ぎの面や、have to空気があるようだし、
遊び呆け怠けるのも若者の特権なのに、いつ特権を行使するんだろうと思います。

でも、彼らから遊びどころか、色気や山っ気、野心を奪ったのは、ほかならぬ中年以上の私達じゃないか。
若い子たちは、欲望大放出のあげく日本中を不必要なモノだらけにした私達のツケを払い、帳尻あわせをしているんじゃないか。

過酷労働・飽食・電磁波・放射能・添加物づけになって、自ら生殖能力、野心、物欲を低下させ、無意識に集団的社会的アポトーシスし、日本を縮小させ、ひいては地球環境を守ってくれているんじゃないか。

とすら思えるのです。

「私たちが仕事をせず眠るほど、地球も自分自身も助かります」と本当すぎることを言うのは、あのサティシュクマール長老

それを若者は集団的インフル反応で感知している気がします。
「昔の人の言う“いい暮らし”をめざすのって、なんか違う」



しかし同時に、私たち世代には理解しづらい「新型野心」が、確実に育っていると思います。
点数稼ぎや流行だけじゃない、本心から「チキューを修復したい」「社会コーケンしたい」欲求。

--モノも金もエロスもそんな要らねえ、立ちあがりたくねえ。だって全部ピークだし、壊れかけてるし。
…だけど、チキュウをどうにかと思ったら、なんか立ちあがってもいい気がする。なぜかやる気が出てくる。

そんな新型の野心。同士で感応しやすいインフル野心。理解できない我々は、「偽善?」「草食?」というワードを使っていぶかしがります。

こういう気運からは、突出したスターやリーダーは生まれにくいし、一時もてはやされる人・物・策が出ても、オセロの白黒のように入れ替わる。
世界政治経済においても「陰謀論」呼ばわりされるフィクサーや決定的・恒常的な策は減って、すべての物事が流動的になっていく。若い子は敏感に感知しています。

かくしてネットやSNSという「網」を駆使して繋がり、オセロの目のように反転しては、散り散りになり、また緩く助け合う。そんなインフル的ビジネス、コミュニティがますます増加する。


『野心のすすめ』には、「人生の優先順位」のヒントはあるけど、「地球の人生の優先順位」も考えたい子に、ヒントはなかったのかもしれません。




新型野心をもつ子達が、15年、20年後、社会の中心になったとき、もしも私がまだ社会で働いてたら、きっと聞かれるでしょう。

「おばさん、仕事をされてきたのはわかりました。で、あなた社会コーケンとしては何をしてきたんですか」

えっと(・・)。

こんな、新型野心をもつ子たちがリーダーになる日本というのは、GDPが世界で5位とか6位になる日本でしょう。

いずれ中国も韓国も似たバーンアウト状況になるのだから、先鞭をつけるべし。

なーんて思うわけがない!そうさせまい!と躍起になる大人がいっぱいいるわけです。そしていま、軍需産業へ。管理懲罰国家へ向かおうとする。そのことと、物的価値に重きをおく世界は分かちがたいのです。



野心のすすめ (講談社現代新書)/講談社

¥777
Amazon.co.jp