写真もメモも無いのにここまで覚えていることが衝撃的
舌と記憶を辿っていたら長くなりました
前から行ってみたかった寿司屋に
初めて入ってみた
選んだのは
四段階中三段階目のコース料理
カウンターから
手始めに出されたのは
昆布の佃煮 鯨の大和煮 酢だこ
の小鉢
五ミリ四方に切られた生姜の効いた昆布の佃煮は
その見た目の小ささからは想像つかないくらいの強烈な昆布の旨味
大和煮の鯨も生姜が効いていて
しっかりとした歯応えなのに
一度歯をいれると無数の肉の繊維が気持ちよく崩れ
それを楽しむと同時に鯨の旨味が広がる
どちらに入っている生姜をかじってみても、生の生姜をかじった時のような嫌なエグみは全く感じない
そして
味付けの濃い二品を中和するかのような
主張しない
ほのかな酸味の酢だこ
追うように間も無くでてきたのは枝豆としまえび
枝豆は
茹でたて最高のような出し方ではなく
茹でてから寝かせたような感じで
程よく水分が抜け
いつもとは違う豆の味わい方を教えてくれた
しまえびの方も余計な水分が無く
殻の中に閉じ込められたエキスも
絶妙な塩梅の旨味
次に出されたのは
シジミとハマグリのお吸い物
この出汁も絶妙で
美味すぎて説明が頭に入ってこなかった
覚えているのは羅臼昆布と塩のフレーズだけ
シジミとハマグリも
作り置きのような煮えすぎて水分が抜けてしまったような身の縮み方が一切無く張りのある歯応えがあり
噛めば素晴らしい旨味が溢れた
そしていつも食べるような貝類のお吸い物の身や出汁に感じる砂の気配が
一切感じられなかった
そこでカウンターの店主が握っていきますと
出してきたのは
小ぶりに握られた
昆布〆タンタカ マグロ大トロ 甘めのタマゴの出汁巻き
手掴みで召しあがってと言うので
いつもの感覚で握ろうとしたら
危うくバラバラにするところだった
寿司は全て味付けされているので
醤油の加減の失敗無く食べられる
そしてネタにも感じるのは
またまた余計な水分が無いこと
水で薄まっていないエキスをダイレクトに味わっているような感覚
次に出てきたのは
拳のような重量感の岩がき
エグさを想像してためらってしまうようなサイズだったけど
そんな心配は無用だった
真っ白な身に歯をいれると
プツっと風船が割れるように皮が弾けていき
エグみの全く無いとろっと濃厚な旨味エキスが広がる
これがあの海のミルクと呼ばれるやつかと思い知らされた
美味すぎたので産地を聞くと、岩手県産だそうだ
衝撃的なかきに続いたのは
コハダ コウイカの握り
この流れには丁度いい
落ちついた二品
この辺で初めてガリに手を出した
このガリもまた
味わった事のないような
後を引かないフレッシュで爽快なガリだった
そしてまたエグみを感じない
次は鮎の塩焼き
絵に描いたように串焼きにされた鮎は
皮はしっかり焼けているが焦げは無く
これもまた絶妙に水分が抜け、
皮の下の身はふわっとジューシー
専用のタレも別皿できていたが
ちょっと試しただけで
ほとんど塩焼きの状態で一気に食べてしまった
次は
茶碗蒸し キャベツと野沢菜の漬物
茶碗蒸しの中に具材は無く
卵のみ
木のスプーンで口に運ぶと
気泡の無い滑らかな舌触りの卵と出汁の味が広がる
口からスプーンを離すときに
いつも滴りそうな出汁をすする気がするが
木のスプーンが出汁を少し吸収してくれ
キレよく食べられた
熱い口の中に風を送るように
生姜の効いた冷えたキャベツと野沢菜の漬物
飽きさせない
次は
ホッケ トキシラズ
中トロ 赤身
どれも素晴らしい仕上がり
中でも今回一番衝撃だったのは
ホッケの握り
これが凄かった
本当に凄かった
口に入れ噛んだ瞬間
言葉も出ずに職人を二度見三度見してニヤニヤしてしまった
職人も
ニヤニヤしちゃうのもわかるよって感じでこっちを見てニヤっとしていた
噛んだというよりは噛もうとしたら溶けていった感じだ
それも脂のジューシーさのような溶け方ではなく
砂時計の砂のようにサラサラと
しかし決してパサパサしているわけではなく脂の旨味もしっかりある
そして
ほんの小さな一切れからは想像もしていなかった程の
ホッケの旨味旨味旨味
この衝撃は
子供の頃
運転している自転車のハンドルが逆向きになるぐらい車に吹き飛ばされた
あの時の衝撃に似ていた
説明していたけど塩のフレーズしか覚えていない
ここまでの味は
新鮮なだけでは出せない
新鮮で美味しいものを
さらに違った切り口で味あわせる考え抜かれた技がないと
と放心状態なっているところに
イクラ ウニの軍艦
これは腹を裂いて漬け
出来上がってすぐ食べるいくらの味には及ばなかった
ウニも同様
ウニ漁師が持ってきてくれる新鮮なウニにはかなわず
まあそこはしょうがないのかな
その後は
毛蟹と蟹味噌
これももちろん余計な水分は無く
絶妙な塩加減の濃厚なエキスが
口に広がる
ここでいつもは酒のアテを出すと言うのだけど
飲んでいないから海苔巻きでも出しますねと
言いながら出てきたのは
小刻みに切られたネギが浮かぶ味噌汁
飲む
えっお吸い物?
いやいや見た目は味噌汁
また飲む
いやいやお吸い物でしょ
見た目は味噌汁なのに
口の中のどこで探しても味噌汁のあのザラザラ感が見つけられず困惑する
飲みすすめると薬味のねぎの中に
ねぎとは違う痺れるような感覚が
味は柚子...?
いやいやこの痺れは
花椒...?
多分花椒
この柑橘系の爽快さと痺れが
味噌汁の出汁と物凄く相まって
どんどん飲んでしまう
満腹に近くなり眠たくなった目が冴えた
こっから海苔巻きかー
腹がキツイなと思っているところに
出てきた
マグロ赤身の鉄火巻きと
マグロ赤身とかんぴょうの海苔巻き
口に入れた瞬間感じたのは
海苔
マグロ
かんぴょう
いつもの海苔巻きと違う
酢飯の詰まっている硬さと量
酢飯を食べさせるというよりは
あくまでも海苔とマグロとかんぴょうを主役にさせるというようなバランス
そして強烈だったのがワサビ
味も今まで味わった事のない清涼感のあるワサビで
量が多すぎないと思って味噌汁海苔巻き味噌汁海苔巻きしてたら
あっと言う間に食べきってしまった
腹きつかったのに
ワサビが多かったのはそういう意味があったのかどうか
と海苔巻きがまだ半分くらいしか食べていないところに
バニラアイスが出てきていて
早くない?
と思っていたけど
海苔巻きを食べ終わる頃には
丁度いい柔らかさになっていた
バニラアイスも後味濃厚なものではなく
サラサラと砂のような氷を感じる
ふわっと溶ける
丁度いいアイスだった
最後に
握りを食べていて思ったこと
酢飯が美味いではなく
ネタが美味いと感じさせるバランス
今まで食べてきた寿司と違ったのはそこ
酢飯はあくまでも脇役
だから食べ終わった後にたまに言う
あそこは酢飯美味いなとはならない
主役はネタだから
まさに見た目通り
ネタを支えているのは酢飯
だけどネタのあとにはしっかりと酢の効いた酢飯の味がふわっと香る
この酢も今まで味わった酢とはまた違った爽やかさの酢で
口の中での広がり方が面白かった
素晴らしかった
これだけの料理を
待たせることなく
飽きさせることなく
流れるように提供する職人
しかもどの料理も最高の状態じゃない?
と思わせる
素人ながらに感じた
もてなしの心が込められた
料理の数々
今度親を連れて行こう
と

