月食の前日―――――

 リビアが指定してきた日――――― 

 私たちはクリスティナ学院の前にいた。でも、いつものクリスティナ学院とは違っていた。何か……とても禍々しいものがある……―――――。

 『入れ。』

 あのリビアの冷たい声が響いてきた。私たちは何も言わずに学院に足を踏み入れる。私たちが全員入ったところで、校門が大きな音をたてて閉まる。

 『校庭に来い。』

 まわりに誰もいないから言う通りにするしかない。校庭には、大統領とリノア、そして大統領に仕える家臣たちが10人ほどいた。そして、禍々しいものの正体らしい―――――。赤、青、緑、黄……いろいろな色が混ざった液体の入った小さなビンだった。

 「やっと来たか……。」

 「……。」

 「アリス・スクラウト、アリア・スクラウト、前に出ろ。」

 「は?」

 ラグの声が突然消えた。

 「出ろ。」

 いつの間にか、リノアの足元にラグが抑えつけられていた。ラグの首筋にリノアの変異した腕があてがわれていた。

 「くっ……―――――。」

 私たちが前に出ると同時に大統領が口を開く。

 「どちらか、このビンの中身を飲め。……伝説の遺伝子をな。」

 「は……―――――!?」

 その禍々しいもの―――伝説の遺伝子に目を向ける。

 「くくくっ―――――仲間を捨てて世界を手にするのか、世界を我らに渡して、仲間を選ぶか、さぁ、どちらを選ぶ?」

 「2人とも、飲むんじゃねぇ!! 世界を守るために今までやってきたんだろう!? だから―――――かはっ……。」

 「ラグ!!」

 ラグにあてがわれたリノアの腕がラグの首に傷をつける。……私が世界を守ろうとすれば、ラグの命はない。逆にラグを守るなら、世界あいつらに……。でも、それなら私は……―――――。

 「……私が飲む。」

 今まで一緒に戦ってきたラグを選ぶ。

 「お姉ちゃん!?」

 「アリス!?」

 「なんで!? こんなこと、許されねえよ! おい、リビアっ! いるんだろ!? 隠れてねぇで出てこいっ!!」

 サラが半狂乱になって叫ぶ。

 「リビアならもういるよ。」

 その場にいる人の声が消えた。……私の言葉によって。

 「もう、すぐそばにいるよ。」

 リビアは、リビア・ビネリーは―――――

 「L、I、、V、I、A、V、I、N、E、L、Y……これを並び変えると……L、I、L、Y、V、I、V、I、A、N。」

 「それって……――――――!」

 「そんな―――――!」

 昨日、私は彼女の信じられない姿を見た。口端は吊り上がり、きれいなサファイアだった瞳は血のように赤く、紅く、染まっていた―――――。

 「リビア・ビネリーが取りついているのは……リリィ、あなたでしょ?」