ボラとも先生のブログ

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このブログは日本語ボランティアを始めた人、やっている人が疑問に感じたこと(特に文法など)について説明するために作りました。

疑問や質問のある方はコメントをお寄せください。

ボラQ217:日付を数えるときは「一日(ついたち)」「二日(ふつか)」「三日(みっか)」と言いますが、これに順番を表す「…目(め)」を付けると、なぜ最初の「一日(ついたち)」だけ「…目(め)」がつかないのでしょうか。次のYouTubeで話題になっていましたが、私も答えがわかりませんでした。どうしてですか、教えてください。【MrFuji from Japan】「外国人にとって意味不明な日本語のルールが日本人も説明出来ないレベルで難しかった!」

https://www.youtube.com/watch?v=KByqZzGty4o

 

ボラとも先生A217:確かにそうですね。日本語の日付の数え方は複雑で面倒くさいのに、その上また、順番を表す「…目」を付けたときの例外までも、覚えなければならないとなると、もうどうでもいいやという感じになってしまいますよね。でも、安心してください。これにはちゃんとした理由があります。

 

まず、次の例文を考えてみましょう。

 

A)今日は1日で、明日は2日です。

B)1日は24時間で、1年は365日です。

 

①A)の場合の「1日」は「ついたち」と読み、毎月の最初の【日付をあらわしていますが、①B)の「1日」は「いちにち」と読み、【日数】をかぞえるときの単位となります。以下では【日付】は「赤字」、【日数】は「青字」で表すことにします。ただし、両方の意味がある場合は「黒字」のままです。

 

つまり、①A)1日と①B)の「1日」は同じ書き方をしますが、読み方も意味もちがう別のことばなのです。①A)は【日付】を表しているのに対して、①B)は【日付】ではなく、【日数】をあらわしているのです。

 

このような区別に注意して、次のような例文を見てみると興味深いことがわかってきます。

 

②A)2(/3日/4日…)にダイエットを始めました

B)ダイエットを始めるのに2日/3日/4日…)かかりました。

 

この場合は②A)も②B)も同じ「2日(ふつか)/3日(みっか)/4日(よっか)…」という日にちをあらわす表現が使われていて、その日にちの表現は書き方も読み方も同じですが、②A)のほうは【日付】であるのに対して、②B)のほうは【日数】を意味しています。

 

これは次のようなことから判断できます。

 

②A)の場合には、「に」という助詞と「始める」という開始を意味する動詞が使われていますが、この「に」という助詞には「7時に起きる」のように“時点”をあらわす用法があるので、この場合は「始めた」時点だということになり、「2日(ふつか)/3日(みっか)/4日(よっか)…」という表現は、月の名前は省略されていますが、ある月の特定の【日付】を指していることがわかります。

 

それに対して、②B)の場合には「…するのに~かかる」という文型(構文)で、「終わるのに1時間かかる」のように、この「かかる」は、時間や費用や労力が必要だという意味ですから、「2日(ふつか)/3日(みっか)/4日(よっか)…」という表現は、②A)の場合とは異なり、時点(つまり【日付】)ではなく、【日数】を表していることになります。

 

この②A)と②B)の「2日(ふつか)/3日(みっか)/4日(よっか)…」という日にちの表現の意味の違いをはっきりさせるには、それぞれの日にち表現の前に【月名】を入れてみると、意味の違いがはっきりします。②A)は【日付】なので【月名】を入れて“月日”にすることができるのに対して、②B)のほうは【日数】を意味しているので【月名】を入れることができません。

 

③A)1月2日(/3日/4日…)にダイエットを始めました。➡(〇)

B)ダイエットを始めるのに1月2日(/3日/4日…)かかりました。➡(×)

 

②や③の例文では日にちを表す表現として「2日(ふつか)/3日(みっか)/4日(よっか)…」が使われていましたが、これを①のように「1日」に変えてみると、④のようになります。

 

A)1日にダイエットを始めました。

B)ダイエットを始めるのに1日かかりました。

 

この場合は①と同じように、表記は「1日」で同じですが、④A)は【日付なので「ついたち」読み、④B)は【日数】なので「いちにち」と読むことになります。

 

つまり、③と④を見るとわかるように、日本語の【日数】【日付】は、「1日」以外は、【月名】を付けなければ、すべて同じ表記と読み方をすることになり、単語だけを見ても言われても区別がつかないことになります。

 

こうしたことは国語教育や日本語教育ではほとんど言及されることはないため、ほとんどの人は意識したことがないかもしれませんが、覚えておいて損はないと思います。

 

さて、それでは【日数】を表す表現と【日付】を表す表現と、順序をあらわす「…目(め)」とはどのような関係にあるのでしょうか。次の⑤の例文を見てください。北海道旅行に行ったときのスケジュールです。

 

A)12月1日は函館に到着し、12月2日は札幌に移動して、12月3日は旭川に行きます。

B)1日目は函館に到着し、2日目は札幌に移動して、3日目は旭川に行きます。

 

⑤A)は【日付】で説明されていますが、⑤B)は「~日目」という日程順になっています。⑤A)も⑤B)も内容は同じことですが、基準(出発日時)がはっきりしている場合はスケジュールの順序がわかりやすいので、⑤B)のように日程順で説明するのがふつうだと思います。

 

⑤A)の12月1日⑤B)の「1日目」を比べてみればわかるように、⑤A)の「1日」は【日付】なので「ついたち」と読み、⑤B)の「1日」は【日数】なので「いちにち」と読むことになります。

 

『明鏡国語辞典(第二版)』の「目」〖接尾辞〗❶の項に次のような説明があります。

❶《数を表す語に付いて》順序・度数を表す。「二つ目の停留所」「三回目にようやく成功した」

 

⑤B)の「1日」は【日数】なので《数を表す語》ですから「…目」が付けられるのはわかりますが、では⑤A)の「12月1日」のような【日付】に「」が付けられないのはなぜでしょう。【日付】は《数を表す語》ではないのでしょうか。

 

そうです。【日付】は《数を表す語》ではなく、その日付に付けられた“名前(名称)”なのです。そのことをはっきり示している例が⑥A)の【月名】と⑥B)の月数】です。以下では【月名】は「赤字」、【月数】は「青字」で表すことにします。

 

A)【月名】1月(いちがつ)2月(にがつ)、3月(さんがつ)、…

B)【月数】1(いっかげつ)、2ヶ月(にかげつ)、3ヶ月(さんかげつ)、…

 

次の⑦A)を見るとわかるように、“月名”に「…目」は付けられませんが、⑦B)のように、【月数】ならば「…目」をつけることができます。

 

⑦A)【月名+1月目(いちがつめ)、2月目(にがつめ)、3月目(さんがつめ)、…➡(×)

B)【月数+目】1ヶ月目(いっかげつ)、2ヶ月目(にかげつ)、3ヶ月目(さんかげつ)、…➡(〇)

 

⑥A)の【月名】には「1」「2」「3」のように数字が付いていますが、【月名】は《数を表す語》ではなく、数字は順番を表ために付けられたものであり、全体で“月の名前”を表しているので、《数を表す語》ではなく「2月3月」や「3月2月」のような足し算や引き算はできないことからもわかります。

 

日本語には⑧A)のような旧暦の【月名】があるので、⑧B)にようにその【月名】に「…目」を付けてみればどんなにおかしな表現なのかがよくわかります。

 

⑧A)陰暦の月名】睦月(むつき)、如月(きさらぎ)、弥生(やよい)、…

B)【旧暦の月+目睦月目(むつきめ)、如月目(きさらぎめ)、弥生目(やよいめ)、…➡(×)

 

それに対して、⑥B)の【月数】であれば、1ヶ月2ヶ月3ヶ月」や「3ヶ月2ヶ月1ヶ月のような足し算や引き算もできますし、【月数】の少し古い言い方である⑨A)の表現に対しても⑨B)のように「…目」を付けることができることから、【月数】は《数を表す語》だと推測できます。

 

⑨A)【月数の別称】1月ひとつき)、2月(ふたつき)、3月(みつき)、…

B)【月数の別称+目】1月目(ひとつきめ)、2月目(ふたつきめ)、3月目(みつきめ)、…➡(〇)

 

このように、【月名】と【月数】の違いがわかったところで、【日付】のことに戻って考えてみましょう。【月名】と同じように、「12月1日」と「12月2日」などの【日付】は足し算や引き算ができませんが、【日数】の「1」「2日」などは、「1日2日3日」や「3日1日2日」のように足し算や引き算ができます。つまり、【日数】は《数を表す語》だということがわかります。

 

そこで、⑩A)の月名を除いた【日付】と⑩B)の【日数】「…目」を付けてみると、⑪A)の“日付+目”はおかしな表現であり、⑪B)の“日数+目”は順序を表す表現になることがわかります。

 

⑩A【日付】(12月1日(ついたち)、12月2日(ふつか)、12月3日(みっか)、…

B)【日数】1日(いちにち)、2日(ふつか)、3日(みっか)、…

 

⑩A)の)【日付】から【月名】を除いた表現に順序を表す「…目」を付けたものが⑪A)ですが、これはすべて)【日付】なので、《数を表す語》ではなく、“名前(名称)”ということになり、⑪A)のようにすべて正しくない表現になります。

 

⑪A)【日付+目1日目(ついたちめ)、2日目(ふつか)、3日(みっかめ)、…➡(×)

B)【日数+目】1日目(いちにちめ)、2日目(ふつかめ)、3日目(みっかめ)、…➡(〇)

 

つまり、ボラQ217さんの質問:「【日付】を数える「一日(ついたち)」「二日(ふつか)」「三日(みっか)」に順番を表す「…目(め)」を付けると、なぜ最初の「1日(ついたち)」だけ「…目(め)」がつかないのか」という疑問に対する答えは、次のようなものです。

 

1日(ついたち)」だけは、 【日付】を表す“名前(名称)”として使われるだけであり、【日数】を表すことができない、つまり《数を表す語》ではないため、「…目(め)」がつかないけれど、「2日(ふつか)」「3日(みっか)」…は【日付】だけでなく、【日数】の意味も持っている、つまり《数を表す語》になることができるため、順序を表す「…目(め)」を付けることができる、というわけです。

 

別の言い方をすると、「1日(ついたちめ)」(×)、「2日目(ふつかめ)」(〇)、「3日目(みっかめ)」(〇)…という表現は、最初の「1日(ついたち)」だけが【日付】を表しているためにおかしな表現になってしまいますが、2日目(ふつかめ)」(〇)、「3日目(みっかめ)」(〇)…以降は【日付】と【日数】の両方の意味があるにもかかわらず、【日付】のほうの意味はその表現のおかしさのために意識されず、【日数】の意味だけが残される、と言うわけです。