
旺文社 中一時代昭和42年6月号付録 中一文庫③「OO7対スメルシュ」です。
翻訳 山村正夫 氏。総ページ数64ページ。「ロシアから愛をこめて」のダイジェスト版です。
―美しいおとり―
すみきった六月のモスクワの空は、夕焼けで赤くそまっている。
うす闇がはや、通りのむこうにたちならぶ、建物のギザギザの屋根や教会のとがった高い塔をつつみはじめていた。
「いつ見ても、すてきだわ・・・・・。」
勤め先から宿舎へ帰った、タチアナ=ロマノーバ伍長は、うっとりと窓の外の景色に見とれた。
彼女は、ソ連社会主義共和国の、婦人下士官である。彼女が働いているのは、国家保安省中央資料室の英語翻訳課なのだ。―といっても、タチアナは、まだ二十四歳の美しい娘だった。
<夕食になにを食べようかしら?・・・・・>
やがて彼女が、空腹に気がついて窓からはなれたとき、へやの電話がけたたましく鳴りだした。タチアナはさっそく受話器を取りあげた。
「ロマノーバ伍長かね?」
ひくい男の声が聞こえてきた。
「いまから十五分後―つまり午後八時半に、クレッブ大佐が、ある重大な用で、君に会いたいといっておられる。寄宿舎の八階にある、大佐の部屋へ行くんだ。わかったな。」
「まぁ、大佐がわたしに?」
あまりとつぜんなので、タチアナはびっくりしたが、男は、
「命令は、それだけだ!」
と、ガチャンと電話を切ってしまった。
タチアナは、しばらく立ちすくんだ。
<重大な用って、いったい何のことだろう?>
考えてみても、わからなかった。タチアナは、急に胸が不安でいっぱいになってきた。
お手持ちの文庫本「ロシアから愛をこめて」と比べて下さい。
しかし当時はいい時代だったんですね・・・。















