唯は自分から手を伸ばし亜矢加さんの腕に触れた。 〝やめて!航を渡したくない!〟 「航さんはあなたのじゃない」 〝間違ってるだけ!やっぱりこの子を…〟 「犯罪を犯した人を航さんが愛するとも?」 亜矢加さんが目を見開いた。 本当は航さんはきっと唯が犯罪を犯しても一緒にいてくれると思う。唯だってそうだ。 でもそんな航さんをこの人は知らないはずだ。 それが唯の中で嬉しいという歓喜で満たされる。 〝犯罪…〟 「犯罪でしょう?誘拐?拉致?」 「違う!そんな事…」 「考えているでしょう?さっきからずっと…僕がいなければってずっとあなたの中はそれしか考えてないでしょう?」 「か、んがえ…」 亜矢加さんがもう一度唯の腕を振り解いた。 「何…?気持ち悪い…」 化け物を見るような目で唯を見る。そんな目を向けられるのも久しぶりだ。でも全然痛くも痒くもない。 「僕ね…人の気持ちがね…聞こえるんです。もっと読んであげましょうか?」 「やめて!」 亜矢加さんが頭を抱えた。 「唯っ!」 航さんの声!? 「航っ!」 亜矢加さんが航さんの声に反応した。声が聞こえた方、エントランスを見ると航さんと小木さんが走ってきたのが見える。 ほっと唯は息を吐き出した。 気を張っていたのが抜けてくる。 「航!この子気持ち悪い!なんでこんな子といるの!?」 亜矢加さんが航さんの方に腕を伸ばそうとしたが航さんはその腕を振り払った。 「唯っ!…このばか!」 大きな声で唯は怒られそして抱きしめられた。 「部屋から出ないようにって言っただろうが!」 「…だって…」 「だってじゃない!」 「航…何してるの…?ねぇ?知ってる?その子気味悪いのよ…?」 「亜矢加さん、やめましょうよ」 小木さんが亜矢加さんの腕を掴んで静かに諭すようにそう言っていた。 「唯に何かしてみろ…」 航さんが地を這うような低い声で亜矢加さんを睨みつけながらそう言った。 「航さん。女の人脅してどうするの…」 はぁと唯は航さんの腕の中で溜息を吐き出した。付き合った事もある人にそんな目を向けるなんて…。 「唯に危害を加えるヤツだぞ!」 「加えられてません」 「じゃあ何しに来たんだ?唯の学校への電話もどんな意味があった!?」 「し、知らない!そんな事…」 「知らないじゃないだろう」 「航さんっ!なんでもないから…大丈夫だってば。ね、小木さんとちょっと離れてて」 「唯!」 「大丈夫だってば」 ぐいと航さんの背中を押してやるとしぶしぶ航さんが唯から距離を取った。 「電話の事も知ってたよ…でも航さんにも言ってない。航さんはただヤマ張って言ってるだけ。別に何されたわけでもないし」 「…でも航にバレたわ…」 「バレても何も変わりないよ。証拠もないし。今日だって別に何もされてないし。あなたが思ってた事…誰かが知るはずもないんだから…僕も航さんに言う気もないし」 「…なんなの…?」 亜矢加さんの目が唯を怖い、と言っている。でもこんなのは平気だ。 「…仕事辞めたんでしょう?ご実家に戻るんでしょう?」 「…そう、よ…」 「今日の事忘れて。僕も…忘れる事にするから…」 唯は顔を俯けた。 自分の力をこんな事に使うのは初めてだった。事件の時とは違う。これは唯個人の醜い思いでした事だ。 忘れられるなら忘れたいのは唯の方だ。 「…ごめんなさい。航さんは渡せないんだ」 「……見れば分かるわよ。大体航のほうが甘いったらないじゃない」 会話は小声で離れている航さんには聞こえないはず。 「…航…唯くんの横で眠るの?」 「……ぐっすり寝てる。触っても起きない」 「そう…」 亜矢加さんの顔が泣きそうに歪んだ。 「…ごめんね」 消えそうな声で亜矢加さんが謝り、唯は小さく首を横に振った。 「帰る。もう二度と顔見せないから。田舎にもすぐ帰ることにする…」 亜矢加さんはそう言って航さんを見る事なく唯に背を向けて去っていった。 「おい!亜矢加!」 航さんが声をかけたのも亜矢加さんは無視してエントランスを走って出て行ってしまう。 「唯!」 「唯くん…大丈夫?」 航さんと小木さんが代わる代わる唯を気遣ってくれるのに泣きそうになってくる。 「…大丈夫だよ。なんにもないもん…」 「そうか…?本当に…?」 「本当に。…コーヒー飲んでいく時間ある?」 航さんと小木さんが顔を合わせてゆっくり頷いた。 たくさんのポチいつもありがとうございますm(__)mにほんブログ村小説(BL) ブログランキングへにほんブログ村 BL小説
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