キャラも読者も巻き込んで!

「それは、ちょっぴり勇気をもらえる物語」

        E-XAMY

 

  一話目はこちら

  http://ameblo.jp/storyoforange/entry-10798186896.html#main





本ホームページでは通常のブログとともに、小説『E-XAMY』を連載しております。



舞台は現代


今までこの平和な日本と言う国で何不自由なく暮らし、そして普通に育ってきた淳ある日特別な力を手に入れる


そして彼は知ることになる。


自身の周りには、能力と言う凶器を使い戦うエゴイストが溢れていることを。


だからこそ彼は、自分を、そして自分の大好きな人たちを守るために立ち上がる

たとえ、その心が折れようとも…… 。』

といった具合です。




この小説は痛快娯楽アクション小説です。
軽く説明すると、


あらゆる意味で平々凡々が似合うというありがちな没個性の主人公が能力と言う特殊な力に目覚め、そしてそれを通して人間として大きく成長していく物語





第一幕は初めて私が小説を書いたということもあり、つたない表現、面白くなくどこかで見た展開等あると思います。
ですが、第二幕の後半から一気に面白くなるクレッシェンド型(楽想記号:段々強く)の物語ですので、ぜひとも第二巻まではお付き合いくだされば幸いです。

です。
ジャンルはおそらく
ライトノベルに分類されるでしょう。
だがあえて
リアルファンタジーとしておきます。
現実世界に少し、能力と言うフィクションを加えた青春成長物語だからです。


>>一話目へ


http://ameblo.jp/storyoforange/entry-10798186896.html#main




第二幕までは書きあがっていることもあり、一日一話掲載予定です。

また、第三幕からは書きあがり次第のせていくつもりです。



最新話は下記URLが公式ホームページですので、そちらからご覧いただけます。



>>公式ホームページ ストーリー欄へ


http://storyoforange.soragoto.net/E-XAMY/story.html




ではでは、通常のブログともども、ご賞味くだされ




P.S.要望、ご感想はご自由にコメントください。

むしろ、コメントはいただけると俄然やる気が沸きます。

ですので、本当にご自由にお書きくださいな。


では!






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全英オープン楽しかった

ダレン・クラークすげーーーー


あの環境の中、よくあんなぷれーできるな


あそこですかさずイーグル出してまた単独首位に戻るし


そっからスコア落とさないし


めっちゃ落ち着いてプレーしてたし、ぶれなかったし


これが若い人にはない経験の力なのかな


でも、最後のボギーは惜しかった


見てて悔しかったな


でも、めっちゃ楽しかった!!!!!


ともかく、優勝おめでとうございます。



2-18

それは、

ちょっぴり勇気

もらえる物語


   E-XAMY

第一章第一話はこちらから

>>http://ameblo.jp/storyoforange/entry-10798186896.html#main


第二幕各話はこちらから

>>http://ameblo.jp/storyoforange/theme-10037045759.html




     2―18
「はあ、はあ、はあ。ぎりぎり、セーフか」
 淳が水に襲われるほんのわずかな時間の前に、水の龍が壁を破り、部屋に入ってくる。そしてその龍は淳を襲おうとしている水と激しくぶつかり合い、水しぶきを大きく撒き散らした。
 龍が通ってできたのであろう壁の大きな穴から、黒いスーツを着たオールバックの男が入ってくる。先ほど淳とぶつかった男だった。男の手には奇妙なことに漫画が握られており、そして先ほどとは違い、サングラスを取っていた。そう、その顔を見れば一目瞭然であろう。彼は慎であった。
 慎はすぐにあたりを見回し、状況を把握する。そして周りの警戒を一切緩めず淳に近づき「おい、淳。大丈夫か。おい、淳!」と淳の体を大きく揺らす。しかし反応は返ってはこず、淳はぶつぶつと何かをつぶやくだけであった。
「ち、まさかお前がここにいたとはな、赤い死神」
「てめえ、昨日の」
 いつの間にか覆面を取っていた男は、確かに昨日慎を襲った男であった。慎は昨日の出来事を思い出すが、そんな事はすぐに棚に置き、「よくも、俺の生徒を」と怒りに身を焦がした。
「なぜ貴様がここにいる?」
「うるせえよ」
 慎の様子から「まったく、会話にならんな」、と判断した男は、しかし彼がここにいるということは、ということから部下は全員やられ、作戦は失敗したということを理解した。ならば後はここからなるべく早く撤収するだけだと判断し、その部屋から外側に向かって思い切り水を飛ばし、船に穴を開けて脱出経路を確保すると、「では、さようならだ」と男は水がどぶどぶと入り込んできているその穴へ向かって歩き始める。
 当然、「まてよ。逃がすと思っているのか」と慎はこれを追おうとするが、「フン」と表情を一切変えずに鼻で笑うと、淳に向かって先ほど船に穴を開けた勢いと水量で、否、先ほどあけた穴から入り込んでいる水も使っているのか先ほどよりもさらに多くなった水量を飛ばした。
「ち」
 慎は瞬きの間もないほどの時間で淳を回収し、何とかこれを回避する。しかしその瞬間、男は穴をくぐって海の中に消え去ってしまった。
 ただでさえ昨日の傷を回復したせいで精神エネルギーがほとんどない慎は、水の中では漫画がぬれてしまい自身の力が出せないと判断し、彼を追うという暴挙はしなかった。だからすぐに淳のことに頭を切り替え、「おい、淳、淳!」と呼びかける。だが、淳の意識はいまだ彼方へ飛んでいったままであった。

僕は、だめだ。
僕は、ああ、
僕は、
僕は! 

弱い……

「淳!」
 慎の何度目かの叫びで淳はようやく「はっ」と気がつく。
「慎、せんせえ」
 しかし彼の精神はもはや崩壊寸前であり、そんな感情は涙となりまぶたにたまり、すぐに決壊した。
「あ、あ、あああああ。僕は。僕は!」
「大丈夫だ、大丈夫だよ。もう」
 慎は大声で泣き叫ぶ淳をきつく抱きしめ、頭をなでて何度も何度も大丈夫だと声をかけるのだった。



「はあ、ようやく終わった」
 慎はため息をつき、腕時計を見ると、もうすぐ夜中の12時を回ろうとしていた。
「なんだか最近、夜遅い用事ががおおいな」
 慎がいるのは警察署の前。なぜこんなところにいるのか、理由は至極簡単で、今日起こった豪華客船ジャック事件の取調べだった。
 慎はこれまでに取調べというものを受けたことがないわけではなかったが、しかし、今回はそこに集まっていたのが各国の超大物クラスだったこともあり、取調べにも相当力が入っていた。特に犯人グループをみた慎は、同じく犯人グループをみた淳が取調べを受けられないくらい精神的に参っていたため、他の誰よりも多く取調べを受けていた。
 ざっと10時間。ほとんどぶっ通しで行われ、19時に食べたカツ丼はもうすでに消化されていた。
「腹減ったな。ああ、ラーメン食べたい」
 慎が「もう行きつけのラーメン屋も、最寄の駅に着くころにはしまっているよなあ」と何度目かのため息をついたとき、彼のポケットにしまってあった携帯が鳴った。携帯はバイブモードにしてあったため、鳴ったというよりは震えたといったほうがこの場合正しいが。
「はいはい、もしもし」
『あ、慎さん』
 かけてきたのは、昨日も情報をくれた彼の友人の情報屋だった。携帯の画面に名前が出ていたからその声を聞いても驚きもしなかったし、何よりも疲れていたため慎は「はいはい、なあに」と薄いリアクションで返した。
『もう、取調べは終わったのかい?』
「今日の分はな」
『その言い方だと、まだまだ日を改めて行われるみたいだね』
「ああ。もういやになる」
 しゃべりながら歩いて駅を目指すが、しかしここはあの豪華客船の停泊していた港近くで、土地勘がない。「ああ、警察署で駅の場所を聞き忘れた」と慎はいまさらながら後悔した。
『一応、僕のほうでもいろいろ調べてみたけど、今聞く?』
 情報屋のこの言葉に「お、いつもながら早いな」と感心しながら、慎は「そりゃ、聞きたいさ」とうなずいた。
『分かった。でも、まだ事件が起きてから時間もたってないし、軽く調べただけだから誤情報も混ざっているかもしれない。だから慎さんの口から、今日の出来事をざっと話してくれないかな。情報の真偽をある程度確かめたい。やっぱり、当事者の口から聞く情報は、他のどれよりも確実だからね』
「ああ、いいよ。じゃあまず昨日の話からだな」
 昨日、という言葉に情報屋は「昨日って事は、昨日のあのことも関係していたんだ」と反応する。慎は「まあ、あせるなよ。とりあえず、俺に話をさせてくれ」と苦笑して、そして語り始めた。



 フィグネリアに昨夜のことをようやく話し終える。慎にとって、自身の油断という大きなミスを犯したという恥を語ることになるため少し話しづらい内容ではあったが、しかし今ある状況を何とかせねばなるまい、ということからためらいなく語った。
 今ある何とかしなくてはならない状況。
 つまり、昨日慎を襲い、さらに「今日さえ慎がいなければいい」と言うリーダーの言葉を真に受けるのならば、彼らがこの船で何か一波乱起こそうということは容易に想像ができたからだ。
 フィグネリアは慎の話を聞き終えて、「まあ、そんな事が……」と口に手を当てて驚く。慎は「ああ」とうなずくと、「だから今日、ここが狙われる可能性は低くない」と語った。
「では、どういたしましょう?」
「敵は俺がこの船にはいないと思っているだろう。実際、俺も今ここにいるのが信じられないくらいだからな。故に、それを逆手に取る」
「ふむふむ、一体どのようにして」
「俺がお前のボディガードに紛れ込む」
 慎のこの提案にフィグネリアは「まあ」と目を丸くする。
周囲にいたボディガードたちは慎のこの発言が自分たちのことをまるで使えないという言い方であったと思い、「ふざけるな! 我々は数多の訓練をつんだエキスパートだぞ!」と憤慨した。しかしフィグネリアはこれを収めさせると、「わかりました」とにこりと笑った。ボディガードたちは「な、ですが」と食い下がったが、「では、そのように」と言うフィグネリアの言葉に、さすがに雇い主の言葉には逆らえないのか、舌打ちをするだけでそれ以上は何も言わなかった。



 フィグネリアのボディガードにつれられ、慎は更衣室に来ていた。無論理由は慎もボディーガードの服を着て変装するためである。
 更衣室に着き、部屋に入る。そして強面のボディガードは慎に黒いスーツを渡す。慎もこれを当然受け取ろうとするが、その瞬間、ボディガードはすっとスーツを自分のほうに引き、それを阻害した。慎はボディガードのほうを見やるが、目が合うと彼は慎をにらみつけた。
「いい気になるなよ。お嬢様のお友達だかなんだか知らんが、素人風情が」
 この言葉に慎もくるところがあったのか、言葉を強めて「なんだと。風情かどうか、試してみるか」と睨み返した。
 少しの間、二人はにらみ続けていたが、ボディガードは「フン」と慎にスーツを軽く投げ渡すと「俺たちの邪魔はするなよ」と更衣室を出て行った。
「感じの悪いやつだ」
 男が出て行ったのを確認し、慎は時計に目をやると、もうそろそろ結婚式の開始時間が迫ってきており、あわてて着替え始めるのだった。



 結果的に結婚式は滞りなく終わった。
 絶対に来ると思っていた昨日の輩も来る気配は見せなかったため、慎はほっと胸をなでおろしたが、彼の脇の、毎度突っかかってくるボディガードが「来なかったじゃないか」と鼻で笑ってきたため、そんな安心感はどこかへ吹き飛んで怒りの感情がわきあがった。
「ふん。馬子にも衣装とはこのことだな」
 するとそこへ、司がやってきた。事前に慎が紛れ込んでいると聞いていた司は慎を見つけるとそうつぶやいた。慎は先ほどからのことでストレスがたまっていたため、「ああ?」と司にすら食って掛かったが、「さあさあ、ご挨拶周りに行きましょう」とフィグネリアが司を引っ張っていってしまったため、慎は「ああもう」と行き場を失った感情をもてあましながらその後を付いて行った。



「げ」
 あいさつ回りはそこまで楽しくなかったため、慎はついついそばにある食べ物に目が行ってしまう事が多かった。脇にいるボディガードに「おい、なにやってんだ」と肘でたたかれたが、しかし嗅覚を刺激するこの甘美なにおいに思わずよだれが何度もたれそうになった。
 しかし気の抜けない事態に遭遇した。いつかは来ることだと思っていたからある程度は覚悟していたが、しかし実際に来て見ると冷や汗ものであった。
 そう、あいさつ回りの順番が、優希たちのところまで回ってきたのである。
 一応変装をしてあるとはいえ、そんなものはサングラスと髪をオールバックにした程度だ。正体がばれる可能性なんていくらでもある。
敵をだますにはまず味方から。さらに昨日、慎は罠にかかったという他人にはなるべく言いたくないこともあったため、正体がばれるのは感情論を入れても抜きにしてもいいことではない。
「とにかく、影に徹しておけば大丈夫か」
 慎はそんな考えから一言も発せず、びしりと背筋を伸ばすことのみに集中した。
「ひょっとして、だけど。慎がどこにいるか知ってる?」
心臓がどきりと大きな鼓動をあげた。冷や汗がだらだら流れてくる。慎は必死に冷静を取り繕うとするが、しかし、反面、もうばれてしまっているのではないかと言う心の声が絶えず響いた。
「ああ。あいつならさっき会った。急いでトイレに向かってたみたいだから、そこまで多く話していないがな」
 司がこっちを振り向きにやけてくる。慎はもう心臓がのどから飛び出そうで、「もうだめか」と目をぎゅっとつぶったが、しかし優希は「へえ、そっか。彼、もう来てたのか」と言って納得した様子を見せたため、慎はほっと胸をなでおろした。
 司が再びこちらを向いて肩をすくめるのを見て、慎はもはや怒りを通り越してあきれの境地にたっていた。
 ようやく話が終わり、と言うよりも時間的に終わらざる終えなくなり、優希たちの前から去ることができるようになった。
 慎はほっと一息つく。しかしこのために一瞬周りが見えなくなってしまったため、ドン、と誰かにぶつかった。とっさに謝ろうとしたが、目に映ったのは淳であった。
「やべえ」
 慎は謝罪の言葉をかろうじていったん飲み込み、そして何とか声を変えて「と、すみません」という。
 淳が「あ、いえ」と頭を下げるのをみて、慎はそそくさと司たちの後についていく。
「あれ、今の声、どこかで聞いたことあるような」
 淳のこの言葉に、慎は「ばれるな、ばれるな。ばれるな!」と心で何度も祈るのだった。



 バチン
「なんだ?」
 突如、電気が消えあたり一面が暗闇に包まれた。
 慎はかけていたサングラスをさっと取り外す。それは仕様なのか、それとも先のボディガードの嫌がらせなのか、彼のサングラスは非常に暗く、見づらいものであった。しかし、災い転じて福となす。それが項をなして、サングラスをはずした瞬間、慎はすぐにあたりの様子をうかがうことができた。
 他のものは皆、目が見えずあたふたしている。パニックになるのも時間の問題であろう。しかし、それ以上の問題が存在していた。
あたりに覆面をかぶったなぞの、否、スーツを着ていることから他のボディガードに紛れ込んでいたことの分かる何十人もの者たちが、あたりのVIPたちになにやら怪しげなものを口に当ててた。そして当てられた人たちはすぐに気を失い、覆面たちはそれをさっと抱きかかえる。
 慎はピンと来て、フィグネリアのほうへ振り返る。予想通り、フィグネリアも同様の目にあっていた。慎は彼女をすぐに助けようと跳躍しようとしかけるが、闇世の中にさしこまれた光に気がつき、そちらへ目を向けると、出入り口の扉の近くの覆面がもうすでにその場を後にしようとしかけていた。慎はすぐにこれを追いかける。フィグネリアが連れて行かれるのも今まさにその場を連れ去られた彼ら彼女らと同じ場所であると分かったからだ。
 ポケットから漫画を取り出すと、慎は瞬きの間もないわずかな時間で扉へとたどり着く。会場を出ると三つの廊下に出くわすが、覆面たちはすべて右の廊下へ向かっていた。その道は少し長い間一本道であり、故に先回りができる。だから慎は一瞬考えた後、真ん中の道を通り、そして彼らを先回りした。



「な、なんだ。貴様」
「よお、遅かったじゃないか」
 果たしてこの作戦はうまくいき、慎が先回りして待っていると、しばらくして何人もの人間を抱きかかえた覆面たちが走ってきた。
「いや、まてよ。その顔、まさか貴様赤い死神か」
「ご名答の、ご明察っと」
 慎は言い終わる前に覆面たちに飛び掛る。彼らも彼らでさすがと言うかやはりと言うか、なかなかの実力の持ち主であり、中には能力者らしき人物も数人いた。いくら慎がいないとはいえ、今回の式の主賓の一人はあの司だ。敵もかなりの精鋭で来ていたのであろう。しかし、彼らは人を抱えているという身動きしづらいハンディを負っており、それを慎は見逃さず、即効でけりをつけた。
「一昨日きやがれってんだ……。あ、昨日きたのか、こいつら」
 慎は昨日の今日で精神的疲労がかなりたまっていたが、だからこそ最初から全力でぶつかる事で一瞬で終わらせると、「ふう」と一息ついてその場に座った。
「後はまあ、追ってくるやつらにでも任せればいいかな」
 ドン!
「な、なんだ」
 慎が張り詰めていた気をようやく落ち着かせた瞬間、大きな衝撃音が鳴り響いた。その音は重く低く鳴り響き、まるで何か重いものが壁に衝突したような音であった。
 慎はすぐにまた気を張り巡らせ、そして手に持っていた漫画のページを切り替えた。そして所定のページを開き、透視能力を使って音が発生したであろう場所の様子を伺い始める。
 分かってしまえばなんてことはない。どうやら優希が扉を破壊したようだった。そういえば、さっきの能力者で物体を固める能力者がいた。きっとその能力者のせいで扉が固められたのだろう。それを優希が壊したということか。
 慎は理解するとはあ、と胸をなでおろして再び力を抜いて休まろうとする。
 だが、透視能力を切る直前、とんでもない光景が目に飛び込んできた。
 淳が倉庫で大柄の覆面と対峙している。
「だめだ、淳! そいつは」
 しかし大きな問題があった。淳の飛ばす水がすべて男の前で静止している。
「気付け、淳! お前じゃそいつにはかなわない」
 そう、慎はその情景を見て理解した。男の能力が淳と同じ、水を操るということに。
 能力が同じであるならば、実力の差ははっきりと出てきてしまう。物質操作系であればなおのことだ。さらにこの光景から見ればもっと恐ろしいことが分かる。淳の操っている水をすべて男が奪い取っていた。本来、同じ物質を操る操作系能力者同士では先に操っていたものを奪い取ることはできない。その物質は、先に操っていたものとのリンクを完全に形成してしまっているためだ。
 だがしかし、そのリンクをも打ち破るほど強力な能力者ならば話は違う。
そう、つまりは……。
その男は淳よりも数段、否数十段は上の実力を持っている。
そしてその場合、勝つ術は

ない

勿論完全にないわけではない。究極的に言ってしまえば、能力を使えない状況であると考えてしまえばいいからだ。つまりは能力を使わないで勝つ方法を見つけてしまえば、勝つことは不可能ではない。不可能ではない。だが、あくまでゼロではないというだけだ。さらには淳は能力を使わないで戦う方法を知らない。
「やばい。このままでは」
 慎は歯をかみ締めると、残った力を振り絞り
「蒼龍光臨」
 人のサイズをゆうに超える巨大な水の龍を作り出す。
 そして慎が念じると龍は一直線にすべての障害物を破壊して突き進んだ。
 たとえ壁であっても。
 たとえ家具であっても。
 たとえ、それがどんなものであっても水の龍の進む道を拒むことのできるものは何人たりとも存在しなかった。



「そして俺は淳を何とか救うことができた。だが、敵さんにはまんまと逃げられちまったのさ」
『なるほどね』
 慎は情報屋にそこまで話し終えると、自動販売機を見つけた。話しつかれてきてしまって、のどが渇き始めていたため、ポケットから財布を取り出してお札を入れる。しかし何度入れてもお札は帰ってきてしまい、いらいらしながらよく見てみると「お札中止」のランプがともっていた。
「はあ」
『ん?』
「いや、なんでもない。ともかく、それでやつは逃げおうせた。さらに厄介なことに、他のやつらも逃げ出していたのさ」
『どういうこと? 他のやつらは確か君が全員のしていたんだろう?』
「狸寝入り、だったんだよ」
 慎はようやく他の自販機を見つけ、お札を入れる。今度はお札中止の言葉は見つからず、ほっと肩をすくめた。そして炭酸飲料のボタンを押すと、ガランと缶が落ちてくる音が聞こえた。
『つまり君がのしていたと思っていたやつの中に、本当は気絶していなかったものがいた、と』
 慎は缶を開けると一口のみ、そして「ああ、そうだ」とうなずいた。
「そして俺が淳のほうへ向かった隙を突いて逃げ出した」
『ちょ、それ、まずくない? だって彼ら、人質を持っていたんだろう?』
「ああ。だがすでにやつらの近くに優希や司が迫っていたからな。もはや人質にかまっていられる状況じゃあなくなったんだろう。すたこらさっっさと人質をおいて逃げていったとさ」
 慎は二度三度缶に口をつけ、続ける。
「まあ、やつらは人質を一人も奪えず消え去った。それはいい。問題は船と淳だった」
『淳君は分かるけど、船はどうして問題なんだい?』
「船に大きく穴が開いていたからな。俺も精神エネルギーが残っていれば、何とかこれをふさげたかもしれないが、空っぽだったしな。ま、そういった能力を収録している漫画をその時持ってなかったから、結局はダメだったって落ちはあるんだけどな。そんなわけで船はどんどん沈んでいきます」
 慎は缶を持つ手とは逆の左手を頭の近くまで持ち上げ、ゆっくり下げていくことで沈むということをジェスチャーした。相手は見えていないから意味がないが。
「そしてそれからはみんなで救命ボート行きさ。俺も何とか淳を背負ってボートに乗り、救助を待った。幸い、すぐに救助隊は駆けつけてくれて、みんなは無事でしたとさ」
『でも、淳君は』
「ああ。体の傷のほうは春菜が何とかしてくれたんだが、心がな」
 いい終わると自分の言葉の意味することに腹が立ち、慎は空っぽになった缶をグシャリとつぶした。
「今日のところは家に帰した。だが、これからが問題だろうな」
『うん、そうだね。僕にできることがあったら、何でも言ってね』
「ああ。ありがとうな。じゃあな」
 慎はつぶした缶を自販機の近くのゴミ箱に入れ、そして肩ではさんでいた携帯を手に持ち替え、切ろうとする。すると情報屋が『あ、まってまって。今日のことについて僕が調べたこと、聞かなくていいの』とあわてて言ってきたため、慎は「いけね」と切りのボタンを押しかけた手をあわてて引っ込めた。
「そ、そうだったな。じゃあ、まあよろしく頼むよ」
『了解。まずじゃあその覆面達の正体からだね』
 慎はごくりとつばを飲み込む。
『彼らははっきり言ってしまえば決まった名前はない。でも一応呼ぶならば、「ルー」』
「「ルー」? なんだそりゃ」
『「ルー」って言うのはケルト神話の太陽や光の神のことだよ。彼らは彼らにとって神に等しいただ一人の人間をあがめて、そして自分たちの組織のことを彼にあやかってそう呼んでいる』
「ってことは、その長って光を操るやつなのか? そんな能力者聞いたことがないが」
 慎は比較的、人の名前を覚えるのは苦手であったが、しかしだからと言って覚えられないわけではない。特に光を操るなんて覚えやすい能力者のことは忘れるとは思えない。故に慎は「だれだよ、光を操る能力者って」と問うた。
 しかし、『ちがうよ、慎さん』と情報屋は否定する。
『彼らがあがめているのは光を操る能力者じゃあない』
「じゃあ、一体誰だよ」
『橘明。『殺戮の橙』さ』
 その名前を聞き、慎は「な!」と驚きをあらわにする。さすがに夜だったから声を出すのは何とか抑えたが、しかしその驚きは隠すことのできるものではなかった。
「『殺戮の橙』。だから太陽の神、『ルー』か」
『その通り』
「そういえば、初夏に起きた淳と雄二の誘拐事件を起こしたのもやつを信仰するくさった宗教集団のものだったな」
『先に言われちゃったね。その通りだよ。しかも犯人は完全に前回と同じみたいだ』
「マジかよ」
 だとしたら理由は簡単に説明が付く。超大物級の要人たちを何人も人質にとって彼らが成し遂げたかったこと。そう、それは……。
「狙いは橘明の開放か」
『たぶんね』
 確かに橘明は今獄中の中だ。それもとっておきの。
「だが、懲りないやつらだな。以前、失敗しただろうに」
『失敗って言うと貴方が先生になってからすぐにおきたあのテロ事件のことかな』
「ああ。そうだ」
 記憶がよみがえる。あのテロ事件。
 慎が記憶をたどっていると、情報屋は『まあ、それも仕方ないんじゃないかな。彼らは系統が別だし』と気になることを口にした。
「系統が、別?」
『うん、そうだよ。あれ、ひょっとして言ってなかったかな。彼らは5つのグループ、と言うより長からなるんだよ』
 慎はようやく駅に着くが、しかしもはや終電には間に合わないとあきらめ、駅前広場のベンチに腰掛けた。あたりにはほとんど人がおらず、静かな夜であった。
『知将、暴君、老子、武士、そしてもう一人。彼ら伍皇と呼ばれる五人が橘明のもとに集い、そして独自に組織を作った。一応、それらの組織はすべて橘明の名のものに集った人々をまとめているから全部同じとされているけど、橘明自身が運営しているわけじゃあないからね。だから伍皇はそれぞれの組織をそれぞれで運営しているんだ。だから決まった名前はない。と言うよりも、誰の下で働いているかによって名前が変わるんだ』
「そして今回はそのうちの『ルー』ってわけか」
『そう。そしてそれを束ねるのは『暴君』。伍皇の中でも一、二を争うほどの武闘派としてしられている』
「暴君、か」
 だからあんな人を傷つけるような戦い方を。慎は心のうちから怒りがこみ上げてくるのを感じる。それを何とか抑え、「で、学校をテロったのは?」と問うた。
『ああ。それは知将の組みたいだ。コイツは厄介だよ。何を考えているのかよく分からないし、奇策ばかり打ち出してくる。とらえどころのないやつさ。ちなみに、知将のグループが自分たちをなんて読んでるか聞きたい?』
「興味ねえよ。そもそも、暴君の組織がなんて名前かも忘れたよ」
『少し勘違いしているみたいだから言っておくね。彼らは5つの組織の体系はとっているけど、実際は橘明を信仰する一つの組織だ。だから呼び名が違うだけで、それがさしている意味は同じだよ』
「なるほど、よくわからん。そもそも、何で一つの組織が5つの組織になってるんだよ」
『だから、橘明が組織を取りまとめないからだよ』
「それが分からないってんだ。だって橘明の組織なんだろ?」
『いや、違うよ。橘明という『最強』の名を信仰する者たちが勝手に集まっているに過ぎない。橘明からすればそれはただ自分のもとに勝手に集ったやつらに過ぎない。君も橘明のこと、うわさくらいなら聞いたことあるだろ。彼は組織を運営するとか、誰かの上に立つとか、そんな事に興味はないんだ。彼が興味があるのはたった二つ』
「自身が最強だということと、強いやつとの戦いか」
 慎は大きくため息をつく。確かに橘明は圧倒的に強いと聞く。それこそ、最強の名が本当の意味でふさわしいくらいに。そして強いものに惹かれる気持ちも分からなくはない。だが、だからと言ってそれが免罪符になるわけは決してない。決してないのだ。
「なあ、どうしてやつらは好き勝手するかな」
『彼らにとって、正義なんてものはないからね。いや、と言うよりも「強さこそが正義」ってことかな』
「強さこそ正義、か」
『強さこそが絶対。橘明自身もそう言っている。彼らにとってそれ以上もそれ以下も、存在しない。強いものこそが絶対のルールなんだ』
「だから、強ければ何でもやっていいってか」
『彼らとしては、もっと、だろうね。強ければ、何をやってもどころか、弱いものは生きる資格すらない、って。だからこそ、彼らは橘明という最強をあがめる』
「それは正しいかもしれない。だがそれは」
 そうだ、それは
「強いものの理屈でしかない」
『そうだね』
 慎は携帯を握り締める。壊れてしまうくらい強く。

 だったらなんだって言うんだ。
 弱いやつは生きる必要がないって言うのか。
 弱いやつは、生きてちゃいけないって言うのか。
 ふざけるな!
 だから淳はあんなに傷ついて、心に大きな怪我までおって。
 ふざけるな!
 絶対に、許さない。
 そう、絶対にだ!

「慧、もしも他にも情報が……」
『皆まで言わなくっても、わかってるよ』
「話が早くて助かるよ」
 情報屋は『じゃ、もしも他にも情報が入ったらすぐにまわすね』といって電話を切った。
 慎は切れた電話のディスプレイを少し見て、そしてそれをポケットにしまい、当てもなく歩き始める。高ぶる感情を、何とか抑えるために。

「いいさ。橘明。お前が過ちを生み出す権化だというのならば……」

俺が、お前を…………



>>第三章

coming soon

2-17

それは、

ちょっぴり勇気

もらえる物語


   E-XAMY

第一章第一話はこちらから

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第二幕各話はこちらから

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   2―17
「おそいですね、慎先生」
 結婚式当日。いつもより少し早起きし、着慣れない背広を着て普段は乗らない電車に乗って待ち合わせ場所の、港近くの駅に淳はいた。
 そこには淳のほかに雄二や優希、春菜と縁がいたが、淳たちを誘った本人たる慎はいなかった。
「どこで道草食ってるんすかねえ」
 雄二のぼやきに、「うーん、いつもなら5分でも遅れそうなときは連絡くれるのになあ」と優希は時計に目をやるのだった。
「そろそろ、行かないとまずいんじゃない?」
 縁は腕時計を右手の人差し指で軽く二回たたく。
「それに、彼ももう子供じゃないんだから、一人で行けるでしょ」
「そうだね。別に方向音痴ってわけでもないんだし」
 縁の言葉に優希はうなずき、春菜に念のためともう一度だけ「慎のこと、何も聞いてないんだよね」と聞く。コクリと春菜がうなずくのを確認して、優希は「よし、じゃあ僕らは先に行ってようか」とみんなを先導した。
「どうしたんだろう。慎先生」
 優希の後についていきながら、しかし淳は後ろ髪を引っ張られるようないやな思いであった。



 そんな感情も、実際に港につくとすぐに忘れた。
「うわ、すごい!」
 さすがは豪華客船といったところか。大きさ、装飾の派手さ、のっている人の数やその人たちの着ている衣服。その他もろもろ、すべてが豪華という言葉でも足りないほどにすばらしいものであった。
「白藤がここにいても、なんか違和感ねえよな」
 雄二のそのつぶやきに、確かにいつも高貴な雰囲気をかもし出している白藤に似合いそうだと「そうだね」と淳もうなずき、「でもやっぱり和服で来るのかな、聡介さん」と冗談をこぼした。雄二はこの冗談が気に入ったのか、「ははは、確かにあの人なら、空気とかマナーとか読まないで和服で来そうだ」と軽く笑った。
「ほら、君たち。行くよ」
 優希は豪華客船の入り口付近から淳たちに手を振る。
「あの、ちょっと待っててもらってもいいですか? 今、雄二と写真を撮ってきます」
「ああ、でもすぐ来てね」
 淳は近くにいる春菜に親から借りてきたデジカメをわたし、雄二とのツーショットを撮ってもらった。
「ありがとうございます」
 大きく淳は頭を下げる。春菜は、「あ、いえ」とそんな淳に少しあたふたして、そして「はい、これ」とデジカメを返した。すると縁が、「ちょっと待った」とそのデジカメを淳より先にひょいと受け取り、「せっかくだから、みんなで一枚とりましょうよ」と提案した。淳も雄二もうなずいたのを確認すると、縁は「ほら、優希。早く来なさい」と優希に手招きした。
「え?」
 こちらの話が聞こえていなかった優希は、だから頭にはてなマークを浮かべてあっけにとられるのだった。



「あ、ようやく目が覚めましたね」
 慎がようやく意識を取り戻し、ゆっくりとまぶたを開けると、その瞳に写った光景は昨晩入ったはずのコンテナの中ではなく、医務室のような場所であった。
そこには慎以外に三人の人間がおり、二人はドアの近くで後ろで腕を組んでいる、黒いスーツに黒いサングラスをかけた強面で、もう一人は慎のそばで彼が目を覚ますと彼の顔を覗き込んできた、長い金色の髪を持ち白いドレスを身にまとっていた美女であった。
「あ、ああ、フィーか」
 慎はすぐにそれが今回の結婚式の主役の一人、新婦のフィグネリアだと認識し、だからこそ疑問が浮かんだ。
「どうしてお前がここに? というか、ここどこだ?」
 慎はあたりを見回そうとゆっくりと体を持ち上げる。しかし、いつもより重い体はなかなか立ち上がってはくれなかった。
「無理なさらないほうが……」
 そんな慎の様子を見て、フィグネリアは心配する。だが慎は要らぬ世話だと手を軽く振り、「いや、大丈夫だ。傷はもうないはず……」と断った。
「それよりも、ここはどこだ?」
 慎はようやく体が立ち上がった体を、少しずつほぐしながら改めて聞く。ちらりと腕時計を覗いて見ると、時間はとうに淳たちとの待ち合わせの時刻を過ぎていた。
「ここは『クイーンズ・メアリー号』の医務室です」
「は?」
 しかし帰ってきたのはあまりにも予想外すぎる答えで、慎は理解ができなかった。
「ですから、ここは今日、私と司の結婚式を行う『クイーンズ・メアリー号』の医務室です」
「は?」
「ですから!」
 フィグネリアが強くそういうと、慎は「いや、それはもう分かったよ。ありがとう。でも、何で俺がそんな場所に?」と眉間にしわを寄せ、納得が行かないといった顔持ちで聞く。フィグネリアは得心いったと「ああ」とうなずき、
「今日、この船で使われる食料などをコンテナから輸送しているときに、偶然、貴方が入っているのを見つけて急いでここに運んでもらったのです」
 と説明した。
「は?」
 慎は何度目のかの同じリアクションを取り、そして「そんな、偶然……」と運命の数奇に驚愕した。
「『は?』じゃありませんよ。私たちだってびっくりしたんですから。何で貴方がこんなところにって。でも、見たところ服に大きく血のあとが残っていましたし、実際コンテナの中にも血がたれていました。ですから、急いで医務室に運んで、そしてお医者様に見てもらったんです」
「そうか、なるほど。それはありがとうな」
「いえ、別に」
 そして慎は少しの間考え込む。すると「はっ」とあることに気がつき、「そういえば、あのあたりに他に誰かいなかったか?」とあわてて聞く。
「誰か?」
 フィグネリアは首をかしげると、後ろにいたボディーガードに「いましたっけ」とたずねる。しかしボディーガードは首を振り「いえ、いませんでしたよ」と否定を表した。
「わたくしも見ておりません。……。何か、あったのでしょうか?」
フィグネリアの問いに、新は深刻な顔持ちになり「ああ」とうなずき、「実は」と今はもうない腹の傷を押えながら、昨晩のことを語り始めるのだった。



「しっかし、なんだよ、『クイーンズ・メリー・何とか号』って。『クイーンズ・メアリー号』じゃねえか!」
 船の中に入り、結婚式の開始時間を今か今かと待ちわびる雄二は、そういえば慎が言っていた船の名前が間違っていたことを思い出し、そう愚痴る。
「おれ、お袋にそういっちゃったよ。帰ったら笑いものだよ」
 淳はそんな雄二の話を話半分に聞きながら改めて辺りを見回す。
 そこにいる人々はやはり全員気品があり、落ち着いている。中にはどこか無理に作り笑いをしているらしい人も見受けられたが、ほとんどの人が幸せそうな顔をしていた。
 優希の話を聞くに、新婦はロシアのある大きな油田を持つ家系のお嬢様らしい。もともと大財閥だったが、油田を掘り当てて、さらに発展したとの事だ。だから、ここに招待されている人々も皆、世界有数の超大物クラスのVIPやその使用人であるらしい。
 だが、淳が本当に驚いたのは、その人数だった。さすが豪華客船だけあり、船内はかなりの大きさを誇ってはいたが、それでも所狭しと、かなり多くの人がいた。それら全員がVIPであることを考えると、自分がいかに場違いかわかる。
「でも、せっかく来たんだし、楽しもう」
 淳がうん、とうなずくと、「それでは、これより結婚式を始めます」と英語でスピーチが流れた。
 結婚式が始まってしまえば、時がたつのはあっという間だった。結婚式が面白かった、というわけではない。むしろ、スピーチなどをはじめとして、式中使われているのは英語だけであり、淳はいくつかの単語を拾い、かろうじて意味を把握していただけで、それでも完全には意味は取れていなかった。
 だから、彼が心引かれたのは、運ばれてくる料理だった。白藤の別荘でもほっぺたが落ちるほどにおいしい食べ物を口にしてはいたが、これはそれとはまた違った方向のおいしさを持っていた。
「わあ、おいしいなぁ」
 そんな淳の傍ら、雄二は会場にいるゲストや使用人などの美女に目を奪われ、ウォッチハンティングしていた。
 式が終わり、デザートも食べ終わった淳たちの元に、新郎新婦がやってくる。
「ごきげんよう、皆さん」
 新郎は顔立ちが整っており、いわゆるイケメンという風貌であったが、顔つきが険しく、近寄りがたい雰囲気を放っていた。
 反対に新婦は非常に優しい笑顔をしており、見ているこちらの心を和ませてくれた。
「うん、久しぶりだね」
 優希はそんな新郎新婦に挨拶を交わす。新郎には「君も、相変わらずだね」という言葉を添えて。新郎は優希のそんな言葉に「フン」と顔を背けてそっぽを向いた。優希は肩をすくめると、そういえばと「ひょっとして、だけど。慎がどこにいるか知ってる?」と本来ならばこちらが聞かれるはずの言葉を口にした。しかし以外にも帰ってきたのは、「ああ。あいつならさっき会った。急いでトイレに向かってたみたいだから、そこまで多く話していないがな」というものだった。
「へえ、そっか。彼、もう来てたのか」
「ああ。諸事情があってお前たちといっしょにこられなくなったらしい。お前たちにあったら、すまなかったと伝えてくれと頼まれた」
 優希と新郎が話している最中、新婦は「あ、貴方たちが淳君と雄二君ね」と二人に話しかけてきた。
「はじめまして。わたくし、フィグネリアと申します。貴方たちのことはよく慎や優希に聞いていて、ずっと会いたいと思っていたの」
「あ、はい。はじめまして。このたびは及び頂、まことにありがとうございます」
 おもわずどぎまぎしながら淳は挨拶すると、「そんな堅苦しくならないで」とフィグネリアは苦笑した。
「貴方たち、あの気高き純白に挑んだんですってね」
「……。はい」
 淳としてはそれは敗戦の記憶で、できれば思い出したくはないものであったので、返事の声は少し暗くなる。そんな彼の心情を察してか、「負けはしたけど、貴方たちには勇気がある。それってとっても大事なことよ」とフィグネリアは言葉にした。
 勇気、か。
 淳がその言葉を反復していると、フィグネリアは「ねえ。もしよかったらでいいんだけど、そのときのこと、私に聞かせてくれないかしら?」と楽しそうに手をぱちんと打った。その様子はまるで子供のようであり、彼女が大人の気品や冷静さと子供のすべてを楽しむ明るさという両方を兼ね備えるということを現していた。
 淳は「はい、いいですよ」と返事を返す。しかし、新郎たる司の「そろそろ、行かないとまずい」という言葉にフィグネリアは「あ、そうね。他のとこもご挨拶回りしなくちゃ」とうなずいた。
「ごめんなさいね。でももしよかったら、後でゆっくり聞かせてくれるとうれしいわ」
「わかりました」
「まぁ。ありがとう。じゃあね」
 新婦はにこやかに手を振ってその場を去る。その笑顔はとても綺麗であり、見ているこちらの気持ちも幸せになった。
新郎は新郎で相変わらず表情を崩さなかったが、他のグループに言った瞬間にさわやかな顔で笑っていた。
「相変わらず、仮面の使い分けがうまいなあ。司は」
 優希のぼそりとつぶやいた言葉に、淳は「え、あれ演技なんですか」とこちらも小さな声で聞いた。
「うん。そうだよ。彼の人生もいろいろあったからね。ああやってしたくもない愛想笑いをしなくちゃならない場面も結構あったんだよ」
 司の本当にさわやかな笑顔に、淳はその言葉を一概に信じられなかったが、彼の親友が言うのだから間違いはないと納得し、いろいろな人がいるんだなと実感した。
すると、余所見をしていた淳に「と、すみません」と黒いスーツを着た新郎新婦のボディガードがぶつかった。会場にいる人間はさすがはVIPということもあり、ほとんどの人が近くにお付のボディーガードらしき人を連れていた。当然、新郎新婦も例外ではなかった。
「あれ、今の声、どこかで聞いたことあるような」
 淳は引っかかりを感じ、少し記憶を探ってみるが、なかなかヒットしなかった。しかし雄二の顔を見た瞬間、そのことはわすれて、「あ、そういえば雄二。君にしては珍しいね。あんなに美人な人が来たのに」と声をかける。だが雄二は「さすがに人妻には手をださねえよ」とあたりの美女を見回し、うっとりしながら説得力を感じない言葉を口にしていた。



バチン
 突如、照明が落ちた。とっさのことで、淳は非常に驚き、あたりを見回す。目が慣れるの時間がかかったが、少し慣れてきた目で彼は、とんでもないものを目撃してしまった。
 覆面をかぶった大柄な男が、フィグネリアの口にハンカチを当てるとフィグネリアは「う」と一瞬にして意識を失い、ぱたりとたおれかけてしまう。これを男はキャッチし、抱きかかえて連れて行こうとしていたのだ。
「あ、待て!」
 これを偶然、間近で目撃することのできた淳は急いで覆面の後を追った。
 だがしかし、淳は気づいてはいなかったが同様なことがそこかしこでおきていた。
「なんだ、これは!」
 部屋の中で怒号が響き、あたりはシンとし静まる。そしてその一瞬の間の後に、その部屋にいるほとんどの人は、パニックに陥った。
 優希や各要人のボディガードも淳に一瞬遅れて、暗闇にようやく慣れてきた目で事を確認し、急いで覆面をおった。しかし、覆面たちが会場の大きなドアから出て行った後、彼らも当然ドアを開けてこれに続こうとしたが、ドアはピクリともしなかった。
 そのため、結果的に会場の外にでられたのは覆面たちと同じタイミングで外に出ることができた淳と、事件が起きてすぐにすさまじい速さで外に出て行ったボディガードの二人だけであった。
 優希はドアが開かないことを実際に自分で確かめ、
「まさか、能力者か」
と瞬時にと考える。そして「皆さん、どいてください」と指示した後、能力で自身の右腕に重力を最大限集め、そして扉を殴った。
 重力によって強化されかなりの質量を持った右腕は、故に相当なエネルギーを扉にあたえ、ドン、と大きな衝撃音とともに扉は砕け散った。
だがもはや遅し。
もうその向こう側の広い廊下には覆面たちの姿はこれっぽっちも見つからなかった。
「ち、やられた」
 駆けつけた司が優希の隣に立ち、舌打ちをする。優希も「うん、なんて電撃作戦だ」とこれにうなずく。
「手分けして探すぞ!」
 と司は優希に言い、そして彼のボディーガードに「相手はプロだ。ここは俺たちに任せて、お前たちは会場のパニックを納めろ」と命令すると、目にもとまらぬ速さで駆け抜けた。



 淳は覆面たちの後を必死で追いかけた。淳の体力はそれほどでもなかったが、人を担いでいるからか、覆面たちのスピードはそれほど速くはなかった。それでも、淳は追いつけず、着いていくのがやっとであった。
 少しすると覆面の内の一人、大柄な男が「ねずみが一匹着いてきている。お前たちは先に行け」とそこへ立ち止まった。そして淳が正面を通り過ぎようとした瞬間、彼を思い切り殴りつけた。すんでのところでこれを淳は右に交わし、しかし本当にぎりぎりであったから、体勢がくずれ転んでしまう。それをかばう意味と体勢を立て直すという両方の意味で、淳はクルリと一回転した。男はそこへけりを入れるがこれも何とか間一髪で後ろに大きく飛びのくことで避けた淳だが、そのせいで開いていたドアをくぐり、ある一つの部屋の中に入ってしまったことに気がついた。そこはどうやら広い物置のようで、机やら椅子やらよく分からない箱やらがそこかしこに置かれていた。いや、物置というよりはその広さから、倉庫を思い出す。
 倉庫という言葉を思いかけた瞬間、淳は心のどこかがひどく暗くなることに気がついたが、今はそんな事を考えている場合ではないと、現状把握に努めた。
「しまったな」
 そして淳は気がつく。その部屋には扉は一つしかなく、そうなると覆面たちを追うためには入ってきたドアから行かなければならない。しかしそこには先ほど淳に殴りかかった大柄の男がいた。なるほど、つまりはこの大柄の男の思惑には待ってしまったようだ。
「だったら」
 淳はすぐに辺りを見回し、水を探す。すると場所がよかったからか、すぐに2リットル入りのペットボトルを見つけ、そしてそれを能力で自身のほうに飛ばすとこれをキャッチし、ふたを開封した。
ふたの開いたペットボトルを淳は前へ思い切り投げる。するとペットボトルの中から、水が勢いよく男のほうへ飛んでいった。
淳は攻撃と同時に、他のペットボトルも自身の近くまで飛ばし、同様にふたを空けると前へ投げた。そして男に向かって思い切りペットボトルの中から開放された水を飛ばすのだった。
 何度も何度も繰り返し、男に向かって水を飛ばす。
しかし、淳は同時に奇妙な感覚にとらわれていた。
本来、自分の手足と同様に体の一部のようなものであるはずの水は。
まるで淳という存在を忘れてしまったとでもいうかのように……。
 ズキリ
 突如、頭の奥底に大きな痛みが走る。あまりの頭痛の大きさに、淳は思わず一瞬、頭が真っ白になり、右手で頭を押えた。
「なんなんだ、この感覚」
 右手が邪魔をしていて右の目では見えなかったが、しかしふさがっていない左の目で淳は信じられない光景を目にした。
 彼の操っていた水がすべて。
 男の前で、まるで意思を持って、男を傷つけることを嫌がるかのように
 彼の前で、静止していた。
「え……。何で?」
 淳には理解ができなかった。
一体今何が起こっているのか。
一体今自分は何を目撃しているのか。
一体、これから何が起きようとしているのか。
「本当の恐怖を教えてやろう」
 ビクリ
 体の奥が震える。
 そうだ、僕は知っている。
 この感覚を。

 恐い

 この男の放つ気を僕は知っている。

 恐い

 そうだ、どうして忘れていたんだろう。
 これはあの時とおんなじ……

 恐い!

「ぐっ」
 本来淳が操っていたはずの水が、淳を襲う。淳が今まで出した水すべてが彼をめがけて飛んでくる。理解ができなかった淳は行動もできず、もろにこれを喰らう。淳は大きく吹き飛ばされ、腹を抱えて咳き込む。だがしかし水はそれを待ってはくれなかった。
 吹き飛ばされた淳をめがけ、今度は上から降ってくる。
「ひ」
 避けることも受身を取ることも、もはや空っぽになった淳の頭では何をすることもできず、ただただ巨大な水の固まりに飲み込まれるだけであった。
「ごほ、ごほごほ」
 圧倒的圧力にさいなまれ、淳の口からは血が出ていた。内蔵がやられたのか。それとも単に唇を切っただけなのか。
 だが淳にとってそんな事は関係がなかった。

 恐い

 今度は水がいくつもの方向から飛んできた。
「もう……。やめてよ」
 淳の心は泣き叫ぶ。だがそんな祈りはまるで届かず、淳の味方たるはずの水は、淳の一部たるはずの水は、ただの暴力と化して淳を襲った。


 いたい


 いたいよ


 こわい


 もういやだ


 こわい


 恐い

 恐い

 恐い恐い恐い

 恐い恐い恐い恐い恐い恐い
 


恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い

「あ、ああ」


そうだ。ようやくわかった。


この頭痛の正体。これはあの男から発する……


殺気を感じているからだ。


そうだ、僕は以前、この恐ろしい気を経験していた……。


恐い、恐い恐い、恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い

どうして今まで忘れていたのだろう


あんなに恐ろしい経験だったのに


いや、だからこそ忘れていたんだろう


そうか、今ようやく分かった。


あの時、彼女が言っていた言葉の意味


僕は何にそんなに恐れているのか


そう


それは



『死への恐怖』



恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い


「これで仕舞いだ」
「あ、ああ」
 男が最後に今までとは比べ物にならないほどの大きな気を放つ。

そしてその悪意をのせた水も同様に巨大な力を持ち、淳に襲い掛かった。
それはもはや、人の耐えられるものではなく。
だがもはや正常に働かない淳の頭では戦うどころか逃げ出すということすらできず。

 そして襲ってくる水に
飲み込まれた。



「僕は……」



弱い



>>2-18へ

http://ameblo.jp/storyoforange/entry-10956953106.html

どうでもいいこと

小説の展開を考えながら思ったこと



ああ、小説を書くだけで自動的にネットにアップされたら楽なのになあ

あれ、じゃあそういうクラウド作ればいいんじゃね?

よくよく考えたらそれがブログだったorz

2-16


それは、

ちょっぴり勇気

もらえる物語


   E-XAMY

第一章第一話はこちらから

>>http://ameblo.jp/storyoforange/entry-10798186896.html#main


第二幕各話はこちらから

>>http://ameblo.jp/storyoforange/theme-10037045759.html




2―16
 楽しかった体育祭もあっという間に終わりを告げ、暦もついに10月に突入した。淳は体育祭が終わってからというもの、今週末にある慎の親友の結婚式のことばかり考えていた。やはり、豪華客船というものにとても惹かれているからだ。
もちろん、今月中旬にある試験のことや、能力の修行についてもある程度は考えていたが、しかし、それほど深刻に考えてはいなかった。
 ほかの事は一切忘れていたといってもいい。
 そう、ほかのことはすべて……。



「たのしみだな。いよいよ明日か」
 土曜日、授業が終わりいつもどおり雄二と修行の前に学食でお昼を取りながら、淳は期待の言葉を口にする。
「ああ。きっと美女もたっくさんいるんだろうな」
 雄二もこれに当然、となずく。
二人はしばらくの間、明日の結婚式について話していると、「あ、そういえば」と今朝から気になっていたことを淳は思い出す。
「そういえばさ、今日慎先生の様子変じゃなかった?」
「変?」
 淳に言われ、雄二は思い返す。「ムムム、そういえばそうなような」と雄二はあいまいな記憶を反復してみるが、思いだしてみると確かにそうだと淳に同意した。
「やっぱり、おかしいよね」
「ああ。なんか心ここに少しあらずって感じだったな」
 雄二は目の前のカレーライスに口をつけ、ペットボトルのお茶を一口飲み込むと「でも、明日パーティがあるんだから、そのことで頭がいっぱいなだけじゃないか?」と思いついたことを口にしてみた。
「そう、かな」
 確かに雄二の言うことは現実味があり、正しそうであったが、「でも、なんかそういうのとは違ったような……」と首をかしげた。
「ま、気にしてもしゃあないっしょ。明日、本人に直接聞いてみればいいさ」
 雄二はスプーンで淳を指しながらそう言った。どちらにしてもそれほど深刻なことではないのだろうと思った淳もこれにうなずき、日替わりラーメン大盛りに口をつけるのだった。
「しっかし、よくお前そんなまずいもん食えるよな」
「え、そう? おいしいよ、このラーメン」
「ああ、そう。じゃあいいですよ」
 雄二は「はあ、あ」と肩をすくめ、そして「売店になんか買いにいって来るな」とカレーで満たせなかった空腹を満たす新たな食べ物を探求しに言った。
「あ、じゃあ僕雪見大福」
「へいへい。分かりあしたよ」
 淳は雄二にお金を渡し、その姿が見えなくなるまで後を目で追った。



「ここが、指定の場所か」
 土曜日の夜遅く。いや、もうすでに時計の短針も長針も12の数字を当に過ぎており、時間的にはもう土曜日ではなく日曜日といったほうが良い。そんな深夜に慎は一人で港に来ていた。
 結婚式があまりに楽しみすぎて、早く着すぎたというわけではない。むしろ、懸念事項があったからこそ、いまここにいる。
 懸念事項。
 そう、彼は彼の友達の情報屋から、結婚式の会場である豪華客船の停泊している港のすぐそばで、ある組織が何かを起こすということを聞いていたのだ。

『でも、この情報、怪しいよ』
 慎は情報屋の言葉を思い出す。
『まず、場所の情報が漏れているのに対して、何をやるのかという情報がないなんてありえない。普通、情報が漏れるときは、全部セット……とは言わなくても、それに関連するいくつかの情報もセットで漏れる。
それにね、情報がここまであからさまに漏れるなんてこと、ありえない。この情報、かなり広範囲で流れている。これはどっちかっていうと、自分たちからもらしてると見たほうが自然だ』
「つまり、罠か」
『おそらくはね。でもその場所は司さんとフィーさんの結婚式の船が停泊している港だからね。君に伝えておいたほうがいいと思って』
「ああ、ありがとうな」
『やっぱり、行くのかい?』
「当然でしょう」
『わかった。でもほぼ間違いなく罠だからね。気をつけて』

「罠、か」
 慎はあたりを見回す。今は誰もいる様子がない。そもそも、この情報、内容は場所だけで、誰、何時、何をやるか等すべて分かっていない。
 明日結婚式が行われるから用心をして今まで見回った。だが、すべての区画を丹念に調べて、そのうえで誰かがいる様子は微塵もなかった。つまり、誰かが何かをたくらんでいることは本当かもしれないが、それは今日や明日の事ではなかったということだ。この様子ならば明日は大丈夫そうだ、慎はそう判断し「ふう」と一息つくと緊張の糸を切り、そして「さて、じゃあ明日の待ち合わせ時間までどうしようかな」と終電がもう終わってしまっているために帰れない状況をいまさらながら考え始める。
 だがしかし
 これが
 いけなかった。



「っ!!」
 突然、腹に激痛が走る。
「この感触……」
誰かに、撃たれた。
慎は痛みで思わずその場に座り込み、同時に腹を手で押えると血が噴出していることに気がついた。
「ちっ」
 緊張を解き、油断した瞬間にやられた。慎は「くそ」と悔やんだが、今は悔やんでいる場合ではないとすぐさま思考を切り替え、「だが見回ったときには誰もいなかったはず」と思い返した。
「そうだ。誰かがここにいて、何かをたくらんでいたのだとしたら、俺が発見していたはずだ。俺が先に敵に発見されたから、攻撃された? いや、それはありえない。だとしたら、俺がすべての場所を見回す前に攻撃しないと遅すぎる。
そう何かをやっているその場所を、俺がたどり着く前に、たどり着かないようにするために攻撃する。これが条理だ。
だが、今回は違った。俺はすべてのところを見回った。そしてそこで何かを巧らんでいるやつらがいないことを確認した。だからこそ、緊張を解いた」
慎はほぼ一瞬でここまで推察すると、「いや、待てよ」とある考えに達した。
「つまりは、ターゲットは俺、か」
 そう、これはやはり罠であった。
 何者かがこの場所で何かをたくらんでいるとターゲットを誘導し、そして実際には何もなかったと油断させ、そこを突く。
 よって、ターゲットは情報をある程度入手することができ、ある程度以上の力を持ち、さらに近日この場所でなにか大切な邪魔をされたくはない用事があるもの。
「その通り。つまりは君に仕掛けた罠だ」
 慎の前に男が立ち、慎の考えが正しいとうなずいた。この男、大柄であり、目つきが鋭い。かなりの殺気の持ち主で、彼が今までに何人もの人間を殺してきただろう事が伺える。
 これは罠である可能性も十分あると分かっていたはずなのに。
 なのに、最後の最後で油断してしまった。
 いつも直さなくてはいけない悪い癖だと反省しているのに……。
 いまさらながら、遅い後悔が胸を締め付ける。だがそんな感情も、腹から来る激痛の前ではかすれて消えていってしまった。
「ちなみに、君がこの港に入ったそのときからずっと後ろをつけていた。君がそういった感覚に鈍いのは有名だから知っていたが、まさかここまでとは思いもしなかった」
 男は抑揚なく、また表情も一切変えずに、言う。そして言いながらおもむろにしゃがみ、右手に持ったサイレンサーつきの銃を慎の額に当てた。
「その傷では満足に動けまい? さようなら、だ。赤い死神」
 男がトリガーにゆっくりと指をかけ、
 そして
引く。

「ああ、さようならだ」
 その瞬間慎は

その付近全体が 
闇に包まれる。

漆黒の

闇に

「なんだ、これは!」
 男は思わず立ち上がり、周囲を見回す。そして「まさか、貴様がやったのか。そんな傷で!」と慎に再び拳銃を向けた。
「ちっ」
 しかし、再び拳銃を向けられるほんの数秒前に慎は最後の力を振り絞って逃げ出していた。だから、男が向けた拳銃の先には、もう誰もいなかった。
 男は拳銃を構えたまま、すぐにズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
「おれだ! 赤い死神が逃げ出した。あの傷だからそう遠くへはいけないはずだ。すぐに探し出せ!」
 男は周りに隠れていた自身の部下にも「聞いていたな、お前たちもすぐに追え!」とどなる。
 そこへ部下の一人が「しかし、我々ではあの赤い死神には……」と臆病風に吹かれたのか、おそるおそるといった形ではあるが、いやだという意思を示していた。 するとリーダーたる男は拳銃をその男に向け、
 ダン
トリガーを引いた。
「ひ」
銃弾はその男の頭を掠め、後ろの壁から大きな音を響かせる。
「行かなくてもいい。ただし、地獄に行くことにはなるかもしれないがな」
 リーダーは先ほど一瞬取り乱したのが嘘のように、感情も抑揚もまたなくしていた。
「それに考えても見ろ。もしもやつにそれほどの体力があるならば、ここから逃げ出さずにここにいる全員すべてを排除していけばよかった。やつにはそれほどの実力が本来ならばあるはずなのだからな。
 しかししなかった。これがどうしてか、貴様も分からないということはないだろう?」
「わ、わかりました。い、行って参ります」
 男がようやく他の人間を連れてそこからでるのを見て、リーダーはすぐに他の部下たちにも命令を下す。
「すぐに見つけてこい。生死はとわない。いいな、速効でだ!」



 だがしかししばらく探しても一向に見つかる気配がなかった。銃弾は慎を貫通していたから、血がどこかにたれていてもおかしくはなかったが、その痕跡すらなかった。
「確かやつの能力は……」
 リーダーは思い出す。慎の能力のことを。確かに彼の能力ならば、ここからすぐにでも逃げることはたやすいだろうということに。
「しかしあの傷だ。致命傷といってもいい。やつならばあの傷を治すことはできるだろうが、明日はさすがに間に合うまい。
 ならば、ここでやつに固執することもない。明日さえやつが来なければ計画は実行できる」
 そこまで考えて、彼は部下たちに一通り見終わったら帰ってくるように命令を下す。
「まったく、斬虎のやつがあんなへまをしなければ、こんなことをわざわざする必要もなかったのに」
 男はそう愚痴をこぼすと、部下たちの帰りをまった。



「はあ、はあ」
 しかし慎はそんな彼のすぐそばにいた。彼がいるのは、リーダーのいる広い倉庫の、一つのコンテナの中だった。外からは頑丈に占められており、だからこそ、彼らの誰もがそんな中にいるとは想像していなかった。たしかに、リーダーが先ほど言ったとおり、慎の能力を使えばここから遠く離れた場所にいくことはできた。だが、その能力はいま慎が持っている漫画のどれでやったとしても、致命傷を受け体力がほとんどなくなっている彼では使えない、もし使えても使っただけで力尽きるものであった。故に、彼は物体をすり抜ける能力くらいしか使えず、だが、すぐ近くにいるはずはないという心理を逆手にとり、そこが絶好の隠れ家になることを確信していた。
「しくったな。せめて優希といっしょに来れば……」
 慎はそこまで考えて、しかし敵の量がかなりいたことを思い出す。どうやら外の様子を伺ってみると、少なく見積もっても30はいるみたいだった。つまりは周到に用意された計画。もしも優希とともに来ていたとしても、今度は別の方法でやられていたかもしれない。もちろん、そんなことは分からない。だから、こんな考えはせん無きことだと、思考をストップさせる。
 そして慎はポケットから携帯電話を取り出し、それをライト代わりに使って彼のビジネスバッグから、ある漫画を取り出した。
 何のために?
無論、回復のために。
 今の体力では、最上級の回復能力は使えないが、致命傷とは言っても即死レベルでもないし、幸い血もあまり流れ出てはいない。故に傷だけ直せればいいという観点から、彼は中級の回復魔法を選択し、そのページを開く。もちろん、この魔法でもかなりの体力は使うから、使った瞬間気絶するだろうし、とうぶんは起きれないだろう。しかし、なりふり構っていられる状態ではない。
 慎は「いい、結婚式になることを祈っているよ」と今日おこなわれる結婚式にいけないことを残念がりながら、能力を使い始めるのだった。




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動画更新やっとできたーーー

いやっふーーー


パソコンがいかれてて動画がなかなか作れなかったけど、ようやく治って更新再開出来たぜーーー


http://www.nicovideo.jp/watch/sm14846859?mypage_nicorepo



しかも今回はがんばって最後にコメントと効果を入れてみたぜーーー



いえーーーい

ようやくPC復帰

やったーーーー


パソコンがなおったぞーーー



これで実況動画の続きがつくれるぞーーー



にこにこにあげたら又連絡に来ます(><)

2-15

それは、

ちょっぴり勇気

もらえる物語


   E-XAMY

第一章第一話はこちらから

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第二幕各話はこちらから

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   2―15
「何におびえている、か」
 学校に着いた淳は一昨日の夜に麗佳に言われたことを思い出す。
『貴方はそんなに、何におびえているのですか?』
 そのセリフを口にした後、麗佳はすぐに「あ、こんなことを言ってごめんなさい」と謝ってきた。実感のわかないその言葉に許すも許さないもなく、ただその謝罪を「べ、別に気にしてないから大丈夫だよ」と受け入れるしか淳にはなく、ただ一方で心のどこか片隅がずきりと痛むのを感じていた。
「僕は、何かに恐れているんだろうか?」
 そんな実感はやはりない。しかし、他者から見てそんな実感を感じさせるような振る舞いを淳はしていたのだろう。
いったい、一体何時からだろうか。「しまったな」と淳はそのことを聞いておく必要があったといまさらながらに悔やむ。
「ふう」
 一息つき、淳は再考する。
 何かを恐れるような事件は今までになかったわけではない。それは主に高校に入ってからのことだから、可能性は絞られてくる。
 高校受験にあった麗佳を助けたあのこと。
 雄二が能力に目覚め、慎先生も能力者だと知ったあの出来事。
 気高き純白、白藤聡介とのあの一件。
 そして覚えていないけれども、あったらしい誘拐事件。
 可能性が高いのは白藤との戦いだろう。
「白藤さんは確かに強かった。だから恐れるに値するのだろう。
 でも。
 でも僕はあの時、恐怖をそこまで感じてはいなかった。それ以上に、やってやるんだという気持ちのほうが強かったはずだ。
 そうだ。
 あのとき負けた悔しさを何度も思って僕は修行してきたんだ。もうあんなことは絶対にいやだから。
 そうだよ。
 僕は何度もあのときを振り返ったはずだ。そしてそのときに恐怖を感じたことはなかったはず……」
 淳は心の中で今まで何度も何度も白藤との戦いを思い出したことを思い出す。そしてそのときに恐怖など感じていなかったことも。
 だからこそこれは関係ない、と割り切りそうになる。しかし、一応、ということで白藤との戦いを改めて反復すると、ゾクリと背筋を冷たく駆け抜ける風を感じたかのような恐怖に身震いした。
「なんで」
 なぜ。
 なぜ今まで一度も感じなかった様な恐怖をいまさら感じたのか。確かにこれを思い出すのは久しぶりだ。この戦いを振り返って復習したのは大体あの事件があって一月のあいだだけだった。しかしその間に自身の悪かった点を復習しつくしたといってもいいくらいに、何度も何度も反復して思い返した。そのときには一度たりとも、ここまでの恐怖を感じたことはなかったはずなのに。   

 なのになぜ。

 いまさらになって……

 じゃあやっぱり、白藤さんとの一件が原因なのか。
 そこまで淳が考えたとき、勢いよく扉が開き、雄二が入ってきた。



「お、淳。おはよう」
「あ、雄二!」
 雄二を見た瞬間、今まで考えていたことなんてすっかり忘れて、淳は一昨日のことを問い詰め始める。
「花火大会の日! 何で君がいたんだよ!」
「あ、えーと、それはだな」
 そうだ。
 雄二はあの日、用事があったはず。
 それなのになぜ。
 聞かれた瞬間に雄二は一歩後退し目をそらすが、淳は疑いのまなざしを向け続ける。
「雄二!」
 淳は尚も雄二を問い詰めようとする。
「いや、だからな」
「だから何?」
 雄二が目をそらすのも限界だと感じ、思わずポロリと本音を吐きそうになるのをぐっとこらえ、「いや、そんなことよりさあ」と話をそらそうとする。だが、一向に淳のにらみは尚も続いた。
「おはよう、お二人さん。あ、淳君花火大会どうだった?」
 そこへいつもは遅刻ぎりぎりのもなみが珍しくやってきた。まだ朝の会が始まる15分前だからかなり珍しい。
 雄二はもなみが淳に話しかけた隙にそそくさと自分の席に逃げる。淳は「あ、雄二!」と当然これを追おうとするが、しかしもなみが「まあまあ。それで、どうだったの?」と淳をいかせてくれなかった。
 結局もなみに花火大会で麗佳と過ごしたことの内容をこってりと聞き出され、後から加わった咲と麗佳とともに朝の時間は過ごした。



「なあ、お前ら」
 夏休みがあけて、二人の修行を慎が見るのは週に二度となっていた。二人だけで修行してもいいほど成長してきているということもあるし、単に慎が学校のことで忙しくて手が回らないということもあった。だから慎が彼らの修行に付き合うのは月曜日と木曜日だけとなった。
「来月の二週目の日曜日ってあいてるか?」
 そして今日は月曜日。約束どおり二人の修行に慎は付き合うが、なかなかどうして二人の修行はさまになっていた。一番危惧していた動体視力を鍛えるトレーニングも、二人が交互に技を出すほうと避けるほうに分かれ、技のスピードも慎ほどとはいえなくてもかなりの速さを誇り、故に反射係数はかなり鍛えられそうだった。
 これならもう安心だなと一人ごちた慎は、そういえばすっかり忘れていたと二人に聞いてきた。
「僕はあいてますけど……」
 忘れていた慎からすれば、やっと聞いたという感覚のその質問だったが、しかし淳と雄二からしてみれば唐突に聞かれた要領のつかめない質問でしかなく、淳は思わず「一体なんでしょうか?」と聞き返す。
「ああ。実は俺の友達がその日結婚式を開くんだよ。んで、その友達がぜひともお前たちにあいたいって言って、ぜひともその結婚式に来てくれって言うんだ」
「はい?」
 唐突で要領がつかめないそれは、しかして内容も突拍子もないようなことだった。だから思わず「いや、意味がわからないんすけど」と雄二は答え、「俺たちにどうして会いたいんすか。いやそもそも、どうして慎先生の友達が俺たちを知ってるんすか?」と当前の質問を続けた。
「そいつの夫も能力者だからさ、お前たちのことはよく話してたんだ。だから会いたいなっていつも言ってたんだが、そいつ、ロシアにいてさ。なかなか機会がめぐってこなくって会えなかったんだ。でも、今回日本で結婚式を催すことになったんだ。だからちょうど良い機会だって事でさ」
「へえ、そうなんすか」
「ひょっとして、その夫になる方も慎先生とは仲がいいんですか?」
 夫が能力者だと聞いて淳は思わず反応する。すると慎はうなずき、「ああ、そうだよ。高校のころ、俺や優希と一緒にいろいろやった仲さ」とほほを緩めた。
「へえ、そうなんすか」
「ああ。そもそも、その二人の馴れ初めも、能力が関係してんだ」
「え? そうなんですか?」
「興味あるっすよ、それ。詳しく、詳しく!」
「まあまあ、それはおいおいな。ともかく今はトレーニングに集中しなさい。返答は明後日までにくれればいいさ」
「あ、俺別に大丈夫っすよ」
「僕も何も予定ないです」
 二人があっさりと了承の返事をするので慎は肩透かしをくらった気分になり「あら。じゃあまあいいか」とこれで話を切り上げ、二人の修行の様子を見守った。



「あ、そういえば。楽しみにしてていいぞ、その結婚式」
 修行が終わり、一息つく二人に慎は手をぱちんと合わせていった。淳は修行の疲れからハアハアと肩で息をしつつ、しかし慎の言ったことが気になり「楽しみってなんですか?」と聞き返す。雄二もその言葉に思わず「ひょっとして美女がいっぱい来るってことっすか!?」と反応した。そんな二人を見て慎はくすりと笑い、「美女はどうだろう。新郎新婦が美男美女だって事は言えるが、さすがにゲストまでは把握してないなあ」と肩をすくめる。
「だけどな。料理はたぶん期待しててもいいと思うぞ。なんてったって、開催場所は『クイーンズ・メリー・……、何とか号』。豪華客船だ!」
「「豪華客船!!」」
 二人の驚き具合を楽しそうに見て慎は「ああ」とうなずくと、ぐっと握った拳を前に突き出し、「おいしいものもきっといっぱいあるに違いない」と目を輝かせた。豪華客船というフレーズを聞いた雄二もまた、「それならきっと、美女もいっぱいだろうなあ」と期待に胸を膨らます。しかし淳は「そんなところに僕がいっても大丈夫でしょうか?」とうつむいた。
「ん? 何でいけないんだ? 別に招待されてるんだから、いいに決まってるだろ」
「でも、場違いじゃあ……」
 淳の態度に雄二は「ふっ」と笑い、「そんな事は関係ねえ! 俺は美女を見に行くぜ!」と意気込む。慎は肩をすくめ、淳の肩をたたき「そんな事言ってたら楽しめないぜ、人生」とニカリと笑った。
「そうですね。せっかく招待してくれたんだから、楽しみましょう」
 淳は慎に向かって大きくうなずき、そして「おいしい料理、かっこいい船。楽しみだな」と期待に胸を震わせた。



「よし、じゃあこれから九月末に行われる体育祭の練習を始めるぞ!」
 日付は変わって次の日の五間目。昼も食べおわり、元気いっぱいになったといわんばかりの姫川の声が校庭に響き渡る。そう、今月9月の終わりには体育祭が待っていた。
 武蔵広大高校の体育祭では代々三つの種目が行われ、生徒はそのうちどれかの種目に参加するという形式をとっていた。そしてクラスごとに一つのチームとなり他のクラスと対抗戦を行い、各種目の合計得点の多かったクラスが優勝となる。
 今年の種目は「サッカー」「ハンドボール」「ドッヂボール」の三つだ。淳と雄二はそのうち、ハンドボールに参加をすることになっていた。
 今まで生きてきた中でハンドボールは高校に入って始めて体育でやっただけで、だからこそ雄二は「あえて逆境に挑むことで、モテ度がアップだぜ」と闘志を燃やし、一方の淳はサッカーは小中で体育でやってみてものすごく不得意だと理解し、またドッヂボールは腕力がそこまでないので強く投げれないと辞退した。しかし一方でバスケのドリブルだけは少し自身があり、だからこそハンドボールに参加すると決めたのだった。
「がんばってるわね、男子。私たちも負けてられないわ」
 なお、いろいろなことを考慮して女子と男子は違うチームとなり、男子は男子のチームと、女子は女子のチームとのみ戦うこととなっている。「ちぇ。女子と一緒にキャッキャウフフってやりたかったぜ」と雄二がぼそりとつぶやいたのを聞いて、淳は「ああ、この判断は正解だったな」と心の中で思った。
「さあ、ハンドボールの練習を始めるぞ」
 ハンドボールのチームリーダーとなった坂田がハンドボール組みに集合を促す。坂田は運動神経が抜群で、サッカー部でも期待の星らしい。ただ、あまり差をつけすぎないようにするために自分が所属する部活動の種類の競技には参加できない取り決めになっており、故に彼はハンドボールに参加していた。
「まずは準備体操だ。そして続いてドリブル、パスの練習。その後二つのチームに分かれてミニゲームだ。他に意見のあるやついるか?」
 坂田はてきぱきと皆をまとめ、そして練習を始めた。
「おお、がんばってんじゃん」
 今授業がなく、空きの時間だった慎は自分のクラスの練習の様子をひょっこり見に来ていた。「ほうほう、なかなかだなあ」と見物していると、「ええ。がんばってますね」とそこへ姫川がやってくる。
「ただ、やっぱり一年生は体がまだまだできていませんし、経験も少ないです。反対に三年生は受験対策で体のなまっている人が多くいます。やはり有利なのは二年生でしょう」
 姫川のこの言葉に何か含みを感じた慎は「へえ、じゃあ優勝はどこだと思います?」とかまをかけた。すると姫川は何も隠すこともないといった顔立ちで「それは勿論私のクラスでしょう」と胸を張った。
「そんなのわかりませんよ。うちのクラスってことも、十分ありえますよ」
「確かに彼らはがんばっているから、ないとは言えません。ですがうちのクラスもそれ以上にがんばっていますよ」
 二人は目を合わせ、火花を散らせる。そんな二人のほうにパスがそれたために泥にまみれたボールが飛んでいく。
「あ、危ない」
 生徒の一人が叫ぶがもう遅かった。彼の声を聞いた二人はボールのほうへ振り向くがしかし、その瞬間に慎の顔面にボールがもうぶつかっていた。
「ぐへ」
 慎は「いてて」と顔面を押える。そんな彼を見かねて姫川は「しょうがないですねえ」と肩をすくめた。
「私は慎先生を保健室に連れて行くから、お前たち怪我に気をつけて練習を続けるんだぞ」
 姫川は大声で指示を出す。慎は「へつにはいひょうふでふよ。こんふらいのへは、なれっほでふし」と自身は平気であることをアピールしたが、「唇から血をだらだら流している人のいうことは聞けません」と無理やり連れて行かれてしまった。
「大丈夫かな、慎先生」
「大丈夫でしょ、あんくらいの傷」
 淳は慎を心配したが、しかし雄二はすぐに気持ちを切り替えて練習に戻る。淳も雄二の言葉を思い返し、「大丈夫だよね。あれくらいの傷」と練習に戻るのだった。



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2-14


それは、

ちょっぴり勇気

もらえる物語


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   2-14

「しまったー!」
 始業式が終わり、又先生の話がようやく終わって放課後になる。淳と雄二は麗佳たちと夏休みの話をしていた。そんな中、雄二は彼にとってとても大切なことを夏休み中にやっていなかったことに気がつき、叫んでしまった。
「ど、どうしたの、雄二」
 この声にクラス中の人間は雄二に目を向けた。当然間近で聞いた淳も驚いていた。
「おい、淳。俺たち大変なことを今までほっぽってきてしまった」
「た、大変なこと? それって夏休みにやらなきゃいけないことだよねえ? 宿題はもう提出したし、能力のしゅぎょ……、あ、いや合気道の練習もしっかりやったし……」
「へえ。貴方たち合気道をやっているだ」
「う、うん。そうなんだ。高校に入って何かやろうかなって思ってたときに慎先生が教えてくれたんだ」
 口が滑った淳はあわててごまかす。この夏休みの間で、二人以外の人と話しているときに能力についてのことを話すとき、合気道をやっているとごまかすことにしたのだ。だがもともと嘘をつくのがうまくない、どころかかなり下手な淳があわてて取り繕ったため、そんな言葉を咲は信じている様子はなかった。
「と、とにかく。なんだい? やり忘れたことって」
「決まってるだろ! 夏祭りだよ、夏祭り」
「は? 夏祭り?」
 淳は予想だにしていなかった言葉にぽかんと口を開ける。雄二の口ぶりからもっと大切なことをし忘れていたのかと思っていたからだ。だが雄二にとってはそれはとても大切なことで、「おいおい、夏祭りといったら女子との距離をぐっとちぢめる絶好の機会じゃないか」とため息をつく。咲はくすくすと笑いながら「あら、雄二君にはぐっと距離を縮めたい女の子がいたんだ」と反応する。その言葉に雄二はキランと格好つけながら「なんなら、咲さんでも」と決めたが、しかし「残念ね。私は貴方よりも淳君のほうがいいわ」とのれんにうでおし、まるで取り合おうとはしなかった。だがこの一言に麗佳はあわててしまい、「さ、咲ちゃん」とあたふたし始めたが、「安心してよ、麗佳。どちらかといえばよ、どちらかといえば」とまたくすくすと笑った。
と、そこへ「だったらいい話があるわよん」と右手の人差し指を立てたもなみがもったいぶりつつ、「なんと学校の近くの二子玉川の花火大会が開催されるのだ」と皆に教えた。もなみの「そしてなんと、それが開催されるのは次の土曜日なのです!」と続けた言葉に「まじかよ!」と雄二は驚きをあらわにする。
「あれ、でも二子玉の花火大会っていつも8月の終わりに開催されてなかったっけ?」
 淳は子供のころ何度か雄二の家と一緒に二子玉川の花火大会に行ったことを思い出す。雄二もすぐに思い出したのか、「そういやそうだぜ」と淳の言葉に同意した。しかしもなみは「ふっふっふ」とまたもやもったいぶりながら「君たちは知らないのかね? 今年は9月の頭にやることになっているのだよ」といった。
「へえ、そうなのか。しらなかったぜ」
「うん。でもなんでまた」
「そこまではあたしも知らないよ」
「でもいいわね、花火」
 咲はうん、と大きくうなずくと「よし、じゃあ今度の土曜日はみんなで行きましょう」と提案した。これに反対の意を唱えるものは一人もおらず、皆「おう」とうなずいた。



『あ、慎。もう授業は終わってる?』
 職員室に着いた途端になった携帯電話に、「なんだよ」としかめ面をしながら慎はポケットからとりだした。表示されていた名前からおおよその内容が想像できた慎は「もしもし」と通話ボタンを押した。するといつもどおり元気よく話しかけてくる相手に対し「おう、終わったぜい」と子トラも元気よく返した。
「もっとも、4時から職員会議だけどね」
『あ、そう。じゃあもうちょっと話せるわね』
「まあそうだけどな。んで、なんだ? 最近はあんまりなかったけど」
『そう、最近はあんたがまだ働き始めて間もなかったからかわいそうだと思ってあえて手を出さないであげたのよ』
「おいおい、嘘つくなよ。仕事を始めて間もないからなれてなくて、それで時間がなかなか取れなかったんだろ、そっちが」
『な、そんなわけないじゃない。第一、私がそんなやわじゃないって事くらいあなたも知っているじゃない』
「はいはい、そうですね。んで、なんだ、用件は?」
『ふっふっふ。勝負よ、赤羽慎』
(ああ、やっぱり)
 勝負という言葉に予想が的中した慎はいつもどおり「俺に勝てると思ってるのかよ」と定型句を並べる。相手も同様に「そうやっていられるのも今のうちよ」と予定調和な返し文句をつないだ。慎はこれに対してくすりと笑い、「んで、内容は?」と質問する。
『明日の花火大会、そこで勝負よ』
「花火大会って二子玉の?」
『そうよ。何か問題でも?』
「いや、別に。ただ俺はお前も知ってのとおり武蔵広の教師だからな。見回りもしなきゃいけないらしい。それも品柄でいいならいいぞ」
『いいわ。でもよかったわね。明日は負けても見回りに頭をとられて足元がすくわれたとかいいわけにもなるでしょうね』
「はっ、返り討ちにしてやるよ」
 慎は「望むところよ」と相手がやはりいつもどおりの言葉を返したところでまたもくすりと笑った。



 職員会議は明日の二子玉の花火大会の見回りについてだった。慎は頬杖を立てながら聞き、メモを取る。「それじゃあ当日は皆よろしくお願いします」と教頭が終わりを告げると慎はメモをかばんに入れ、すぐに帰り支度を始める。すると体育教師で2年を担任にもつ姫川篤樹先生が「赤羽先生」と慎の机の前に立つのに気づいた。姫川は慎たちより少し上で、その整った顔立ちや漂わせている若さから女子から人気の先生の一人であった。慎は気さくに「なんですか? 姫川先生」とにこやかに答えたが、一方の姫川は「明日の件ですが」と慎をにらみつけた。
「明日の件、と言うと今しがた話していた二子玉の花火大会のことで?」
「ええ、そうです。そこで多少なら露店を利用してもいいとの事でしたね?」
「ええ、見回りを忘れない程度には、ですが」
「だから、明日決闘しましょう」
「けっとう?」
 慎はすぐに職員会議の前の電話のやり取りを思い出す。それについておちょくってきているのかとも思ったが、姫川の出す雰囲気から察するにどうもそうではなさそうだと判断し、「どういうことでしょうか?」と聞く。姫川はちらりと白石春菜のほうを視線を向け、すぐにもどす。
「決闘、です。勝負の方法は任せます。私としてはスポーツで決闘してもいいのですが、それではあまりに私に有利すぎる。だからゲームにて決着をつけようというのです。そして明日のお祭りは悪くない機会」
 姫川はもう譲る気はないのだろう、と彼の目をみて思った慎は「でも何でまた急に」と聞いた。姫川は「男と男のプライドをかけた戦いです。理由が必要ですか?」と返したが、慎は答えになってないとため息をついた。
「ともかく。明日、待ってますからね」
 姫川はその言葉を残して職員室を後にする。慎は呆然となり、しかしあっけにとられたのは一瞬だけですぐに「あ、いや明日は」と約束できない旨を伝えようとするが、そのときにはもう姫川はいなかった。
「大変なことになったね」
 隣の机から優希が語りかけてくる。慎は「うるせえよ、野次馬」と二条にいやなやつのような言い方で言うとまたため息を出すのだった。



「みんな、遅いね」
「うん」
 花火大会当日。淳は待ち合わせの場所に10分前に到着した。そこには麗佳が一人いるだけで、他の人はまだ来ていなかった。淳はいつもどおりの格好で着ていたが、一方の麗佳は浴衣で着ており、淳は一目見た瞬間に目を奪われてしまった。ぽかんと口を開けていると「あ、淳君。こ、こんにちは」と麗佳に声をかけられたのであわてて「あ、うん。こんにちは、麗佳ちゃん」と取り繕ったがその顔はりんごよりも赤く、恥ずかしさのあまりすぐに顔をそらしてしまった。麗佳も麗佳でなんだか気恥ずかしくなってきたらしく、うつむいてしまった。
 二人は15分ほどその場で目を合わせず、顔を赤くしながら皆を待っていたが、しかし一人としてくる気配はなかった。「もう、5分も過ぎているのに、誰も来ないね。咲ちゃんは時間にも厳しい人だから遅れるのは珍しいんだけど……」
「あ、やっぱり咲さんは普段から時間とかはしっかり守る人なんだ」
「うん。でももなみちゃんはよく遅刻するからそのたびにいっつも咲ちゃんに起こられるの」
「ハハハ。あの二人らしいね」
 ピリリリリ
 二人で話していると淳のポケットから着信音が流れた。そこには『谷本雄二』の名前が表示されており、淳はすぐに出た。
『おう、淳』
「やあ、雄二。時間、もうとっくに過ぎているんだけど。いつも君、時間にルーズな男はもてないって言ってなかったっけ?」
『悪い、淳。おれ、どうしてもはずせない用事ができちゃってさ』
「ふーん、そうか。でもだったらもっと早く連絡くれればよかったのに」
『ああ、悪かったよ。まあともかく、後は二人でごゆっくり』
「え? 二人って?」
『あ、やべ。い、いやなんでもないよ。何でも。じゃ、じゃあな』
 雄二の捨て台詞に淳は「あ、雄二」と言葉を投げかけるが、そのときにはもう電話は切られており、スピーカーからは『ツーツー』と機会音がなるだけだった。
「あ、あの淳君」
「え?」
 すると麗佳が申し訳なさそうに話しかけてくる。「あのね、怒らないで聞いてほしいんだけど」といいながら淳のほうに携帯のディスプレイをかざしながら。そこには『ゴメン、麗佳。風引いちゃってこれなくなっちゃった。この埋め合わせはまたするから、今回は今いるメンバーで楽しんできて』という文が咲から送られてきたメールがあった。淳がみたことを確認すると「あ、あとね」と携帯を自分のところにもって行き、少し操作をしてまた淳のほうへ見せた。『ごめーん。用事あったの忘れてたわ。って、ことで今回はパスさせて。ま、あたしの分まで楽しんできてよ』ともなみからのメールだった。
「本当にゴメンね。せっかくみんなで楽しもうって言う企画だったのに」
「別に麗佳ちゃんが謝ることじゃないよ。それになんか雄二もこれなくなったみたいだし」
「え、雄二君も?」
「うん、そうなんだ」
 淳がうなずくと麗佳は「そっか。じゃあ、どうしようか」と首を少しかしげて困った顔をした。
「やっと見つけたわよ、慎!」
 二人が悩んでいると傍で元気のいい声が聞こえた。思わず二人はそちらを向くと、そこには慎と浴衣姿で左手を腰に当て、逆の手で慎をさす若い女性が立っていた。
「あ、早苗。おまえなんで携帯でないんだよ」
 慎は女性に気がつくと少し苛立ちを混ぜてそういった。しかし早苗と呼ばれた女性は「ふん。あんたみたいな暇人と違って私は午前中は仕事だったのよ。いちいち私事で携帯にでる時間なんてなかったわ」とぷいと横を向いた。はあ、と一つため息をつき、「ああ、もういいや。ともかく、今日室はさあ……」と慎は彼の事情を早苗に説明しようとしたところで「ようやく見つけましたよ! 赤羽先生!」と怒鳴り声が響いた。
「決闘の時間に送れずに来るとは結構な心がけです。さあ尋常に……」
「だれ、この人」
 突如現れた姫川に対し、早苗は慎に聞く。慎が「いや、これはさあ」とどうしていいかを考えていると「な、なんだお前」と姫川は慎に対し「まさか赤羽先生! 貴方は春菜さんという人がいながら……。しかも私との戦いにつれてくるなんて」と叫ぶ。この大声が周りの注目を集めているため、慎はたまったもんじゃないと思いつつ、「まあ、とりあえず落ち着いて」となだめかすが「ふざけるな!」と姫川は怒声を発した。傍でこのやり取りを見ていた早苗は「だから、あんた誰よ」といらいらしながら怒鳴る、とまではいかないレベルで姫川に声をかけるが、興奮している姫川は「君こそ誰だ!」と怒鳴った。これにはカチンと来たのか、早苗は「さっきからうるさいわね、あんた! 質問しているのはこっちでしょ! 私? 私はコイツのライバルよ!」とこちらも声を荒げて言った。
「ライバル? 女の癖に何がライバルか! 赤羽先生は私が倒すんだ! そして、春菜さんと……」
「女の癖にですって! いい度胸ね。慎の前にあんたを沈めてあげるわ!」
慎は二人を「ま、まあまあ」となだめようとするが、聞く耳を持ってもらえず、二人は互いを指差し「「勝負だ!!」」と宣戦布告した。
 そのやり取りを見ながら淳ははずかしいやらなんやらで一刻もここを早く抜け去りたいと思い、「い、いこっか」と麗佳に声をかけた。



 慎たちのやり取りの場から逃げ出すように出店のほうに向かい、そしていろいろな出店があるなあと眺めていると、麗佳がぽんぽんと肩をたたいた。
「みて、淳君。あの金魚の絵、可愛いね」
麗佳はとある一つの出店を指差す。そこに描いてあった金魚の絵は可愛いイラストタッチで描かれていた。
「うん、可愛いね」
淳は思ったままを口にする。すると麗佳は少しうつむいて「あ、あの」と小さな声でつぶやいた。
「やってきてもいいかな? 金魚すくい」
 淳はまだ花火に時間もあるし、もともと花火までの時間に少し露店を回ろうと考えていたので、「うん。いいよ」とにこりと返事した。麗佳はぱっと笑顔を浮かべて「ありがとう」と礼を言う。そのときの麗佳があまりにも可愛く感じた淳は顔を赤らめ、「う、うん」とすこし変な声になって言った。自身の声が変わってしまったことが恥ずかしく、淳は顔をよりいっそう赤らめてしまったが、麗佳は気づいていなかったらしく、とてとてと露店のほうへ早足で言ってしまった。
 「あ、あの、一回やらせてください」と麗佳は露店のおじさんにお金を渡す。淳はそんな麗佳のそばに歩いていき、様子を見守った。麗佳ははじめどの金魚がいいかなとプールの中の金魚をいろいろ見ていたが、一匹の金魚を見つけ「あ、あの金魚。昔飼っていたポチに似てる」と淳のほうを向いて言った。
「ポチって、犬?」
「ううん、昔お父さんと一緒にお祭りにいったときにとってもらった金魚。ポチって一つだけ大きな点があるからポチって名前なんだ」
麗佳は昔を振り返えるように少し遠くを眺めた。

「決めた。あの子にしよう」
 麗佳は浴衣のすそを少しまくり、狙いの金魚が近くに来るときを狙った。その瞬間はすぐに来て、麗佳はさっと金魚を掬おうとしたが、ポイとよばれる金魚を掬う道具の真ん中で掬おうとしたためか、金魚を乗せた瞬間、紙が破れてしまった。「あ、ああ」と麗佳は落ち込むが、「ほれ、お嬢ちゃん。うちは三回までオーケーだよ」と店のおじさんは店の看板をさして、そしてもう二個ポイを渡してくれた。麗佳は「あ、あの一個持っていてください」と淳に一つポイを預けるとすぐに金魚のほうに目をやった。お目当ての金魚は今度は動き回っており、止まっても麗佳の近くには止まってくれず、なかなかいい位置に来なかった。痺れを切らした麗佳は自身から少し離れた位置で掬おうとするが結局紙が破れるだけだった。
 三度目の挑戦もはかなく終わりを告げ、「ゴメンね、淳君。せっかく時間を割いてもらったのに」とうつむいた。そんな麗佳の様子を見て、淳は「おじさん、僕も一回やらせてください」とお金を渡した。店のおじさんは「ほらよ、がんばんな」とポイを三つくれ、淳は一つを手にとって残りを麗佳に預けた。
「じゅ、淳君」
「大丈夫、任せて」
 淳は麗佳に大きくうなずいて見せると、狙いの金魚を凝視した。おそらく能力を使えばたやすいのだろう。だが淳はそんないんちきのようなことはせず正々堂々と勝負したい、と考え使おうとはしなかった。それに淳には勝算があった。以前テレビで金魚すくいの骨を見たことがあったのだ。その骨とはポイの真ん中で金魚を掬おうとするとてこの関係で紙に大きな力がかかってしまうから、なるべくポイの縁側で金魚を掬おうとすることだ。さらに今までの能力の修行で彼は動体視力や瞬発力、タイミングを見計らう技術をつけており、ならばできるだろうと踏んだのだった。
 結果は3戦3敗。一度目は惜しいところまでいったが、後の二回はてんでだめだった。はじめに意気込んでいたこともあり、淳は「ゴメンね、麗佳ちゃん」と申し訳なさそうにわびた。しかしうつむいている淳に対して「そ、そんな。仕方ないよ。で、でもありがとう。わざわざ私のために」と麗佳は明るく答えた。

「なーに、やってるんだい?」
 そこに優希先生と縁先生がやってきた。ゆかり先生は隣のクラスの副担任の先生だ。確か今日は先生方は見回りに来るって言ってたな、と淳は思い出し、同時に慎のことも思い出す。慎先生はどうなったのだろう、と思ったときと同時にして、優希は「金魚すくいだね」と二人ににこりと笑って話しかけてきた。淳は「はい。でもなかなか取れなくて」とちらと麗佳のほうを向いて答えると「よーし、じゃあ僕もやってみようかな」とおじさんにお金を渡した。おじさんは「毎度!」と元気よくポイを渡し、優希は腕をまくってぺろりと上唇を舌でなめる。そして威勢よくポイを水に沈めると……。紙が破けた。優希は「あら」と顔を傾げたが、縁はこの様子に噴出し、かなり楽しそうに笑った。「く、くそう」と優希はすぐに金魚に向き直った。だがその結果は先の二人と同じく結局一匹も掬えなかった。

 笑いがようやく収まった縁は「はあ、はあ。面白かった」と息を整え、「それで、どの金魚がほしいの?」と麗佳に聞いた。麗佳はすぐに「あ、あの金魚です」と答え、縁の「他には?」との問いに首を振った。
「よーし、じゃあおじさん。ポイを一個だけ頂戴」
 この自信に満ち溢れた言葉におじさんは「ほう。いいのかいお姉さん」と笑いながらポイを一つだけ渡した。「だって私がポイを三つももらったら、ここの金魚はいなくなっちゃうでしょ」と縁は人差し指を立てて言うとすぐに真剣な顔立ちになり、金魚と向かい合う。麗佳は「あ、あの金魚、です」と縁に教え、その様子を見ていた優希は「ほんとうに一本でいいのかい、ゆかり。意外と難しいんだよ」と縁に言ったが、「黙って」と縁は取り合おうとはしなかった。

 一瞬
 まさに一瞬の出来事だった。動き回っていた金魚が止まった瞬間に縁の手は動き、さっと目的の金魚をポイで掬って器に入れる。おじさんが「おお」と関心した瞬間、縁は右の人差し指でポイに穴を開けた。「あれ、もったいない」と優希は声をかけたが、「目的のものは手に入ったんだしいいのよ。欲張りすぎは身を滅ぼすわよ」と紙が破けたポイをおじさんに渡し、長い黒髪をなびかせながら「じゃあねー」と去っていった。優希は「あ、まってよー」とその背中を追っていく。その様子を見ていた二人はおじさんが「ほらよ」と縁が掬ってくれた金魚を袋に入れて渡してくるまでそちらをぼんやりと眺めていた。



「なんだ、お前ら。いきがってた割にはなさけないなあ」
 結局三人で勝負することになり、慎たちは最初の戦いである射的を始めた。早苗ははじめにやり、何度かかすらせはしたものの、的を落とすまではいかなかった。続いて姫川の番であったが、こちらは早苗と違い一発もかすらなかった。その二人の様子を見て、三番手である慎は軽い簡単な獲物であるシガレットお菓子に弾を当て、見事に商品をゲットした。
「ふん、せいぜいいきがってるといいわ。まだ勝負は始まったばかり。最後に笑うのは私よ」
 早苗はそう強がりを言っていたが姫川は非常にいらだっていた。理由は簡単だ。別に自身が一発もかすらなかったからではない。途中で早苗の妨害があり、その結果として失敗したからだ。そして慎にも同様の妨害があり、しかし慎はいつもどおりであるためなれている。故に妨害工作をされていながらもしっかりと勝利を収めている。
 だが。
 納得がいかない。
 姫川はそちらがそのつもりならば覚えていろと心の中でつぶやき、「さあ、次の勝負は……」と言っている早苗をにらみつけた。


「あ!」
「あ……」
 淳は縁にとってもらった金魚を左の手首からぶら下げている麗佳とともに露店を回っていた。最初の金魚すくい、次は焼き蕎麦屋さん。続いてわたあめ。わたあめを二人で一つ買い、ようやく食べ終わり水あめ屋にいこうとしたときに、クラスの男友達と露店を回っている雄二を淳は見つけた。
否、見つけてしまった。
「雄二、どうしてここに」
思わず淳は問いかける。確か彼は急用とやらでここにはこれなかったはずなのに。
問いかけられた雄二は「い、いや、これは」とあわあわし始める。すると見かねたクラスメートの一人が「ほら行くぞ、雄二」と雄二の襟を掴み、引っ張っていってしまった。雄二が集団に合流すると、そのクラスメートはこちらに手を振り、「あとは二人で楽しみなー」と声をかけてきた。「いや、あの」と淳は声をかけたが、彼らはその声を無視していってしまった。「どういうこと、でしょう?」と麗佳は淳のほうを向き疑問を口にするが、自身もよく分かっていない淳は「な、なんだったんだろうね」とよく分からないことを口にした。と、その時、麗佳は「あ!」と驚きの声をあげ、「淳君、淳君。あれ……」と左手で淳の服を軽く引っ張って麗佳の右側を指差した。
そこには顔持ちの暗い慎先生と、その後ろで姫川先生と早苗と呼ばれていた女性がにらみ合うというなんだかよく分からない状況な三人が歩いていた。「何があったんだろう」と麗佳はつぶやくが、答えを持ち合わせていない淳は「さあ」としか返事ができなかった。少しして慎は淳たちに気づき、「あ、お前たち」と駆け寄ってきた。
「助けてくれ。俺にはもう耐えるに耐えられん」
 慎は切羽詰ったような声で淳たちに言った。思わず淳は「何があったんです?」と問う。すると慎は「実は……」と語り始めた。
「実はな、今日、そこにいる二人に勝負を挑まれてたんだよ」
「勝負を挑まれる?」
「ああ。早苗……、あ、そこの姉ちゃんのことな。早苗にはよく勝負を挑まれるからいいとして、姫川先生からも勝負を挑まれたんだよ」
「はあ」
「まあそんなことはいいんだ。ともかく、俺は二人に勝負を挑まれたんだ。いや、それはいい。結局三人で回ることになったんだから。そう、勝負をするってこと自体はいいんだ。べつにそれでよかったんだ」
「じゃあ、なにが問題なんですか?」
 ここで慎は一つため息をつき、続ける。

「早苗がな、自分の有利になるように妨害を始めたんだ。いや、妨害自身はいいんだ。真剣勝負なんだから勝つためには手は選ばない。それは分かる。それにいつものことだしな。
 問題はそれを姫川先生が知らなかったことなんだ。知らなかったが故に、一つ目の戦いで早苗の妨害工作をもろに喰らってしまったんだ。
 そしてその後、二つ目の戦い出だ。それに怒こった姫川先生に、また早苗の妨害工作がクリンヒットしてしまった」
 そのときのシーンをを想像し、軽く引いた淳は「うわあ」と顔を引きつらせた。
「そして第三戦目。ついに姫川先生の仕返しが始まる。といってもこれがよくなかった。早苗がいくら妨害工作をやるっていっても、射的の最中に大声を出すとか水を少しかけてこっちの集中力をそいだりするくらいなんだ。でも怒りに燃えた姫川先生は手加減を忘れた。
 さっきも言ったように、俺はいつも早苗から妨害工作を受けてるし、さすがに今日の雰囲気は悪そうだって認識したから周りに注意を張ってたおかげで何とか姫川先生の攻撃を避けられた。でも、早苗はまさか今まで何もしてこなかった姫川先生がここに来てそんな事をやるとは考えもしなかったんだろう。俺のほうばかりに集中して、しかし実際にダメージが来たのは姫から先生だったんだ」
 そこまで聞いて麗佳もさすがに引いたのか、「なんだか、いやな戦いですね」とつぶやいた。
 慎はもう一つため息をついて、「いつもはもっとさっぱりした戦いなんだけどな」としかめ面を一瞬だけ覗かせまたすぐに今ある状況がいやだいやだといわんばかりの表情に戻った。
「今日はよく分からんが早苗の機嫌がずっと悪かったり、姫川先生が早苗の攻撃をもろに喰らったり、姫川先生も姫川先生で我を忘れたりでひっちゃかめっちゃかなんだ。そして続く4戦目と5戦目。二人は互いに度を越えた妨害の数々を繰り広げたんだ」
「それからどうなったんです?」
「俺もこれはさすがにまずいと思ったね。今はまだ二人の勝利数が等しくゼロだったからまだ拮抗した半冷戦状態な雰囲気があったけど、どっちかにパワーバランスが傾いたらやばいって思って、何とか全部勝った」
「おお」
「そして今の状況ってわけだ」
 淳は慎の後ろの様子を見やる。そこには互いに視線だけで相手を殺せそうなほどににらみ合う二人の様子が見受けられた。確かにこれは何かきっかけがあればすぐに何かが起きそうな一触即発な様子で、淳も麗佳もこれはやばいと感じ取った。

「慎! まだ? ほら、とっとといくわよ」
「え、もう!? ちょっとまった。休憩タイム……」
 慎は必死に手をフルフルと振りいやいやいったが、しかし「もう十分休んだでしょ! まだ後二戦残ってるわ! 私はまだ一勝もしてないんだから、さっさといくわよ!」といって連れ去られてしまった。
「次こそ私の本当の強さを見せてやるわ!」
「は。そんな負け犬のような言い方をするやつは始めてみたぜ」
「な、何ですって! いいわ。言ってればいいわよ」
 先ほどとは逆に口論をしながら先行く二人の後を慎は「もうやだ」ととぼとぼと着いていくのだった。



「あ! 当たりました! もう一個もらえます!」
「すごい、麗佳ちゃん。運がいいんだね」
「え、いや、そんな」
 慎たちを見送った後、当初の予定だった水あめやに淳たちは向かった。先に麗佳が買ったが、そのお店では買う前に出目の一つだけに丸のついたさいころを振り、見事その丸を出した麗佳はあたりでもう一つ水あめをもらえるようだった。
「淳君、選んでいいですよ」
「え?」
「私は一つで十分ですから、淳君に贈呈します」
「え、でも悪いよ」
 淳は申し訳なさから断ろうとしたが、「でも、もうこれを食べたら私おなかいっぱいですし」と麗佳がつぶやいたため、お言葉に甘えることにした。
「ただ、割り勘にさせてもらえないかな?」
「割り勘、ですか?」
「うん。水あめ一つの値段で二つ買えたから、半分のお金は払うよ」
「そんな、気にしなくてもいいのに」
 苦笑いする麗佳に、「でも、やっぱり申し訳ないからさ」と淳は言う。そんな淳に麗佳は「いつもお世話になってるお礼って事でどうかな」とにこりと笑った。
「それに、初めてであったときのお礼まだしてなかったし。あ、勿論、あの時はとってもお世話になったし、こんなことくらいでは返せないって分かってるよ。だから、そうじゃなくって。うん、そう。だから少しずつ、こうやってお返しさせてもらえるとうれしいな」
 麗佳のそんな笑った顔に「かわいいな」と心の中でつぶやいた淳はそんな自分を意識した瞬間に顔がぽっと赤くなる。そんな淳を知ってかしらずか、麗佳は少しくらい顔になって「でも、今の貴方は……」とつぶやく。麗佳が「やっぱり、言うべきなのかな」と思った瞬間、淳は「うん? 何か言った?」と聞いてきて、はっと驚いた彼女は「ううん、なんでもない」とごまかすのだった。



 ヒュー
 ドン
 空に色鮮やかな光り輝く花が咲き始めた。水あめを食べ終わり花火を見るのにいい位置を淳たちは探し始めたが、運よくすぐに見つかった。その場所は立見席で、少しつらいかなと淳は思ったが、しかしどこかに座ることによって麗佳の浴衣が汚れてしまうよりは良いかなと考えることにした。
「きれい」
「うん。そうだね」
 そしていざ花火が始まるとそんな事はすっぱりと忘れ、その美しさに見とれた。
 大きい花。
 小さい花。
 ドドドと連続で咲く花。
 ヒューと長くなった後にパッと大きく輝く花。
 大小だけでなく、本当にいろいろな顔を見せる暗闇に咲く花は神秘的で、そしてロマンチックでもあった。
「やっぱり花火は日本の心意気だな」
 どこからか聞こえたそのセリフに、日本に生まれてよかったな、と同意する淳であった。


 そんな淳たちから少し離れた位置で、そのような良い雰囲気を台無しにする二人がいた。
「あ、あれは紅だからストロンチウムだな」
「あれは黄色だからナトリウムね」
 姫川と勝負の後に分かれ、慎と早苗の二人は花火を見ることにした。最初こそ黙って観賞していたものの、慎がぽろっと「紫はリチウムだ」といったため、慎と早苗は花火の色から元素当てを始めていた。完全に周りのムードをぶち壊している。周りの目が非常に冷たい。だが本人たちはそういいながらも心ではしっかりと花火を観賞しているのだからたちが悪いかもしれない。



 結局6戦目のゲームも何とか慎が勝利を収めた。しかしこれにより、早苗と姫川は最後の勝負に躍起になった。ここで負ければ完全敗北となってしまうからだ。そしてここでもしもどちらかが一勝してしまった場合、もうパワーバランスが元に戻ること事はなくなってしまうと危惧した慎もまた、絶対に負けることはできないと意気込んで勝負を迎えた。

 結果は慎の勝利であった。しかし、ある意味でこれがまずかった。姫川も早苗も、この結果感情の捌け口が慎に向いてしまったのだ。
「何であんたが全勝してんのよ!」
「え?」
「そうだ。それに君は俺たちが堂々と戦っているのにこそこそと隠れながら汚く勝利を拾ってるだけじゃないか」
「え、え?」
 二人に追い詰められ、慎は後ずさる。だが二人はそんな慎を決して逃がしはしなかった。
「篤樹! 次の戦い、一時休戦としましょ!」
 早苗は慎を捕まえたまま、顔を姫川に向ける。姫川も了承し、「ああ。そうだな。このやろうに目にものを見せてやろう」と大きくうなずいた。
「え、でももう7戦全部おわった……」
「よし、じゃああの金魚すくいでラストバトルよ!」
「おう。見ていろ赤羽先生!」
「いや、ちょっと聞けよお前ら」
 そして慎は二対一という状況下に陥り、敗北した。
「はー、清々した」
 早苗は大きく伸びをし、「それにしてもあんた、なかなかやるわね」と姫川を褒め称えた。
「これくらいどうってことないさ」
 二人はその後大きく握手を交した。そんな二人の様子を見て「ま、いいか。仲直りできたならさ」と慎はつぶやき、苦笑するのだった。



「綺麗、だったね」
「うん、本当に」
 花火が終わり、二人は岐路に着く。周りに人かあまりにも多くて離れ離れにならないように注意しながら。
「ねえ、淳君。聞いてもいいかな」
 聞くか聞かぬか、ずっと悩んでおり、ようやく麗佳は踏ん切りがついたため、淳に問おうとする。
「ん? なあに、麗佳ちゃん」
「こんなことを言ったら失礼かもしれないから最初に謝っておきます。それにひょっとしたら私の勘違いかも知れないし……」
 麗佳はしばらくうつむく。そしてうんとうなずくと淳の目をしっかりと見つて言った。

「貴方はそんなに、何におびえているのですか?」



>>2-15


http://ameblo.jp/storyoforange/entry-10928819389.html

2-13

それは、

ちょっぴり勇気

もらえる物語


   E-XAMY

第一章第一話はこちらから

>>http://ameblo.jp/storyoforange/entry-10798186896.html#main


第二幕各話はこちらから

>>http://ameblo.jp/storyoforange/theme-10037045759.html



   2―13
「どうして、貴方が……」
 突然現れた思いもかけない人物に淳は驚きを隠せず、思わず問うてしまう。雄二も「そうだ。何であんたが」と淳と同様のリアクションをしていた。
 しかし、リアクションは同じであっても、その様子はだいぶ違っていた。雄二は白藤に対して敵対心を半端ではないほどに放っていた。以前、命のやり取りをしたことがある相手が何の前触れもなく唐突に現れたのだから仕方がないだろう。一方で淳は、白藤に対して敵対心を出していなかった。むしろ、その瞳に写っているのは恐怖の二文字であった。
 足が震え、体は硬直する。極め付けに表情から簡単に彼がおびえていると察知でき、白藤は以前の彼とのギャップに少し戸惑ったが、その様子を外面にはおくびにも出さなかった。
「むしろ私が聞きたいな。何故貴公等がここにいる?」
 淳の様子についての考えをひとまず頭の隅に置き、白藤は会話を進める。それに対し雄二は「質問してるのはこっちだろ!」と怒声を浴びせた。
「そうか。ならばまずは私から答えよう。貴公らはここがどこかしらぬわけではあるまい?」
「そんなのしってるに決まってるだろ。ここは熱海……、まさか」
「おそらく貴公の考えている通りだ。私の家の別荘のひとつがここにあるのでな」
 白藤はあたりを見回し、そして彼らも自分と同じことをしにきたのだと悟る。そして一瞬の間を空けた後「ここは人目がつきにくい。毎年ここで能力の修行を行っている」と答えた。
「どうだか。俺たちを襲いに来たんじゃないのか?」
「違う、といっても証明できる言葉を私は持っていないのだがな。信じろとは言わぬが、過度に警戒する必要はないとは言っておこう」
 その言葉に対し、淳はすがるような声で「本当ですか?」と確認してきた。白藤は先のこともあり、淳に何があったのかと考えながら「私は君たちに敗れた身だ。故にもう二度と力によって自分の考えを一方的な押し付けたりはしない。君と誓ったとおりに、な」と話す。「君たちを襲うなどということも勿論しない」と付け加えて。その言葉をきき、淳はほっとため息をついたが、しかし雄二はまだ納得できないようだった。その様子を見て「彼は変わらないな」と心の中で苦笑しつつ、「だからこそ君たちに詫びをしたい」と申し出た。
「お詫び?」
「ああ。君たちも見たところ、私と同じ理由でここへ来たのだろう?」
「さあ、どうだかな」
「隠すほどのことではないだろう。様子を見ればすぐに分かる。だから、その修行の手伝いを、私がやってやろうというのだ」
「はあ? あんたが、俺たちを手伝う? 何でまた」
「言っただろう。詫びだ、と」
「怪しすぎるんだよ」
 思わず雄二は白藤に飛びかかろうとする。しかし、そこで彼のおなかからギュルルと音が鳴った。 白藤の横にいた執事風の男がクスリと笑い、「まあ、立ち話もなんですし、どうでしょう、聡介様。お二人とお昼を一緒になされては」と提案して来た。「どうだ? ろくな食事にありつけていないのだろう」と白藤が言ってきたため、かちんときた雄二は「んなわけあるかよ。今はたまたま昼の時間が近かったから……」と言ったところでまたおなかがなった。
「雄二、甘えようよ」
「ざけんな。コイツ、絶対毒盛ってくるぜ」
 白藤との一件を思い出しつつ、淳は彼がそのようなことをするタイプの人間ではないと考えていたため、雄二を説得した。雄二も空腹にはさすがに耐えられなかったのか、「分かったよ。その代わり、おい、白藤。お前、俺たちが食べる前に毒見しろよ」という条件で承諾した。



 白藤の別荘に着くと、二人はその大きさに絶句した。以前訪れた彼の家ほどのお大きさではなかったとしても、別荘という機能のみのためにここまで大きなものを持っているということが、彼らには信じられなかった。中に入っても、白藤の家とほとんど変わらぬ豪華さであり、一番驚いたのは運ばれてきた料理であった。その見た目や料は想像していたものとあまり変わりはなかったが、味や食感、匂いまでもが今まで食べてきたすべての食べ物と比較しても比較しきれないほどに美味しいものだった。あまりにもいいにおいだったので、雄二も思わず運ばれてきた料理にすぐにかぶりつくほどであった。
「おやおや、そういえば毒見は宜しいのですか」
 執事風の男は雄二がデザートを食べようとしたところで聞いてきた。雄二は「あっ」と一瞬ぽかんとしたが、しかし一口デザートに口をつけた瞬間、そんなことはどうでもよくなった。
 すべての料理を平らげ、至福の時間の余韻に浸っていると、淳は違和感に気がついた。建物の外観、内観、飾られているもの、ここで働いているもの、そして出された料理。すべてが洋風のものであるにもかかわらず、白藤の服装だけが和服だったからだ。質問しようかどうか考えていると、白藤から先の案件について切り出してきた。
「それで、どうする?」
「どうするって、何が?」
「先ほど言った件だ」
「修行を手伝ってくれるという話ですか?」
 白藤はゆっくり、そして優雅にコクリとうなずく。同じ動作でも、人が違うとここまで違うものなのかとどうでもいいことを考えながら、淳は雄二に「僕は賛成だけど、雄二は?」と聞いた。雄二はすぐには返答せず、悩んでいると、白藤が「私に手伝ってほしくないならそれでいい。だが、空腹になったとき、ここにくれば食事くらいは提供しよう」と申し出た。これに対し雄二は「なんでそんなことまでしてくれんだよ」と当然の質問をした。白藤は目を瞑り、答えようとしない。数秒の間沈黙が流れると、執事の男は「ほれてしまったのですよ、貴方たちに」とにこやかに語った。白藤は「爺」と静かな声で怒鳴ったが、しかし執事は何食わぬ顔で二人に「だからこそ、貴方たちには貴方たちが必要となるほどの力を持ってほしいと聡介様は考えておられます」と続けた。とがめても無駄だと悟った白藤は「フン」とそっぽを向いた。
「雄二、だめかな」
雄二は肩をすくめ、「ちっ、分かったよ。俺の負けだ」と答えたが、「だけどな、白藤。これだけは覚えておけ。俺はあんたを信じたわけじゃない。俺が信じたのは俺の親友だ。分かったな」と白藤を指差し付け加えた。
白藤はまた「フン」とそっぽを向いたまま、「では30分後にまたあそこに向かおう」と二人に指示した。そして執事風の男に「やつも明日来るのだろう、やつにもこのことを伝えておけ」と言うと、品格を感じさせる足取りで食堂を出て行った。



 当日の特訓は白藤が見ている中で淳たちが今までどおり特訓をするだけであったが、次の日からは様子が違った。やつと呼ばれた男が来たからだ。それは渚であり、彼もまた物質操作の能力をもち、さらに白藤とは違い目に見えるものを操るというために二人には参考になった。また、彼は以前弟子を取ったことがあったらしく、二人にさまざまなアドバイスをくれた。



 本来、山篭り(とはいっても実際に山に篭ったのは最初の3日だけで、あとの日にちは白藤の別荘で過ごしていたが)は旅行に行く前日までの予定だったが、しかし旅行から帰ってきてからも二人は山篭りをした。白藤がそれを提案してきたからだ(と、言うよりも執事が提案し、白藤が許可しただけなのだが)。旅行から帰ってきてからの山篭りには勉強道具も持って行き、修行が終わった後に二人で宿題を済ませた。執事が「二人で出来上がったところを見せ合ったほうが早いのでは?」と二人に言ったが、「ばっかだなー、爺さん。そんなセコイことしてたら女にもてないだろ」と雄二は笑いながら言っていた。淳も「できない量ではないですし、やはり自分でやったほうが力がつきますから」と答えたので、執事は「では、分からないところがございましたら是非私にお聞きください」と申し出た。「もっとも、大学教授をなさっている渚様にお聞きになったほうが宜しいかもしれませんが」と付け加えた。この言葉を聞き、「渚さんて大学の先生なんですか?」と淳が質問すると執事は「ええ。だからお二方の修行に付き合うときもあれば、研究のために付き合えないときもあるというわけですよ」と返答した。
「へえ。なにやってるんすか、あのおっさん」
「地学でございます。この近くに宿をかり、学生さんと地質調査に来ているらしいですよ」
「なるほど。よし、淳。じゃあ俺たちも手伝いに行こうぜ」
 この短い間で白藤たちと打ち解けた(というよりも白藤たちが信用にたる人間だと雄二が認識したといったほうが正確かもしれない)雄二は、手伝いを買って出ようとしたが、しかし「必要ない」と白藤の別荘にたまたま訪れていた渚に一蹴された。



 時間は少しさかのぼり、淳たちが修行に出かけて5日目の朝。赤羽慎と二条優希は少し大きめのバッグをもって出かけていた。目的の場所は淳たちの修行の地であった。近くまでは車で来て、そして車でいけなくなったあたりで徒歩となった。慎の能力で二人の位置は簡単に割り出せ、優希の重力操作のおかげで二人の足取りは軽かった。
「しっかし、はらへったな」
「もうすぐお昼時だしね。もっとも、君の場合はさっきからそればっかりだけど」
 慎の呟きに対し、優希は突っ込む。それを意に介さず、慎は「ラーメン食べたいなあ」と続けた。
「ラーメンは持ってきてないよ。バッグに入ってるのはレトルトカレーとパックのご飯だけ」
「はあ、カップ麺もってくればよかったな。どうせ淳と雄二がいるところなら食えるし」
「クスクス、まあね。でもカップ麺はかさばるじゃない」
「うー、でもなあ」
「ほら、そんな事言ってないで、早くしよ。きっと淳君も雄二君もおなかをすかせて待ってるよ」
「はっ。山篭りを許可したやつのセリフかよ」
「だって、水は淳君がいれば何とかなるし、火もあれば野生の動物も寄ってこないし、もし万が一なんかあればすぐにどっちかが連絡するようにって二人に言っておいたじゃない。そうなると後は食事だけだよ。不安要素は」
「でもお前、なんかリスト作って二人に渡してたじゃんか」
「うん。でもね、山の中じゃあ炭水化物はなかなか取れないし、お肉も取れないよ」
「え、何で取れないんだよ」
「野生の動物って言うのは意外と捕まえられないんだよ」
「へえ、そうなのか。お、もうすぐみたいだぞ」
 慎は手元の羅針盤(能力で出した二人の位置をサーチするためのもの)の反応で、二人が近いことを察知する。そして少し開けたかわらの近くに二人を見つけた。だがしかし、そこにいたのは淳と雄二だけではなかった。
「慎君、あれ」
「ああ、あいつは」
 すぐに二人は臨戦態勢を取る。淳たちの近くに、あの白藤と渚、そして執事が立っていたのだから、それは仕方ない。
「どうする、すぐに打って出る?」
「いや、少し様子を見て……」
「誰だ、そこにいるのは」
 隠れて様子を伺おうとする二人を白藤はすぐに察知し、にらみつける。
「お前、なぜここにいる?」
 雄二と同じ質問をする慎に対し、弟子は師に似るものかと心の中で微笑し、しかしその様子をおくびにも出さずに「彼らを鍛えるために」と返答する。慎はその立ち振る舞いに思わず「そうか」と納得しかけたが「いや、いいわけないだろう」と自問自答し、「なんでお前がそんな事を、ここでやっているんだ」とにらむ。
「そのくだりはもう済んだのですが……」
 執事のセリフに優希も「何が済んだのかさっぱり分かりません」と慎と同様ににらみつけた。
「ご理解いただけませんか? この状況下から」
 執事は両手を広げ、大げさに、まるで役者のように振る舞いながら「私たちが彼らを痛めつけているように見受けられますか? いや、そのようには見えないでしょう。それとも彼らを操っているように見えましたか? 仮にそうだとして、私たちに何の得がありましょうか」としゃべる。だが「てめえ」とにらみ続ける慎に対し、白藤はため息をつき「ならばここで戦るか? だがその場合、その二人にも被害が及ぶ恐れがあると思うが?」と言葉をつむぎ、対して慎は「人質かよ」と当然の言葉を返した。
しかして白藤はもう一度ため息をつき、「人質? 何か勘違いしていないか。私は彼らを傷つけるつもりなど毛頭ない。だがしかし、ここで戦りあえば貴公の攻撃で彼らは傷ついてしまうだろう?」とさも当然のことを何も知らない子供にわざわざ教えなくてはならない大人のようにつぶやいた。
「俺が? はっ、そんなわけないだろう。第一、どうしてお前が傷つけない技術を持っているってのに、俺がその技術をもってないんだよ」
「事実、であろう?」
「俺に負けたやつの言うセリフかよ」
 慎のこの言葉にさすがにカチンと来たのか、白藤は「よかろう。ならば戦やろうか」と宣戦布告した。
「な、やめてください」
 この状況はまずいと思った淳は止めに入ろうとするが、二人は聞く耳を持たない。そして白藤が日本刀を抜き放ち、慎が片手に漫画を持った瞬間、
「「!!」」
 大地震が起きた。



「淳、雄二!」
 大地震が起きた瞬間、慎はすぐに頭を切り替え淳たちの安否を気遣い、冷静に二人のいる場所を見る。だがそこで見たものは慎には信じがたいものであった。
 多数の葉や、砂利、埃や水しぶき。
 否、それを舞わせている別の。
 そう、風が二人を中心として球になるように渦巻いていたのである。まるで二人を守る城壁のように。少し考えれば分かる。白藤が慎が対応するよりも早く二人を守っていたのである。信じがたいこの光景であったが、しかし認めないわけにもいかない。やはり認めたくない気持ちもあり、それらが葛藤するその心を何とか静めて「白藤」とつぶやきかけたとき、「渚!」と怒声が響いた。
 たった一瞬の間に大地震がおき、白藤が怒声を放ったため、その場にいた淳、雄二、慎、優希には理解ができなかったが、白藤は「どういうつもりだ、貴様」と怒鳴り続けた。
「そう怒鳴るな」
「今一度聞こう。何のつもりだ、貴様」
 白藤が怒の感情を出しているのに対して、渚は一切の感情を消している。まるで白藤の怒声を気にもしていない。渚は「何のつもりか、か。まったくお前は」とひとつため息をついた。
「だがこれで落ち着いただろう?」
「落ち着いた? ふざけているのか貴様。これが落ち着いていられるとでも思っているのか!」
「いや、ふざけているのはお前のほうだ。赤羽と戦りあっても何の意味もない。お前の負けず嫌いなところは悪くはないが、それをいさめる心も持て」
「えっと」
今の会話で理解できたことを淳は「つまり慎先生と白藤さんが一触即発の雰囲気を出していたから、それをハプニングを起こすことによってとめた、ということでしょうか?」と渚に聞いた。渚は「ああ、そんなところだ」とうなずき、もうひとつため息をつく。「要らぬ世話を」と悪態つく白藤にもう付き合いきれないと渚は淳たちに「そろそろ昼の時間だ。行こうか」とさっさと別荘に向かっていってしまった。
 最初のうちはなかなか白藤と慎たちは打ち解けなかったが、しかし慎の人懐こい性格や馬が合ったなどの理由ですぐに仲良く話す仲になっていた。
「最近の政治家はさ、政治屋ばっかりなんだよな」
「同感だな。だからこそ、自分たちの手で変えてゆかねばならん」
 慎の問いかけに対しても最初はつれない態度をとっていた白藤も、徐々に彼に対して心を開いていった。
 だからこそ、二人は淳たちを白藤たちに任せることにした。
「とはいっても5日くらいのペースでくるよ。飯は美味しいし」
「なんだ、貴公。ただ飯のためだけに来るのか?」
「いやいや、ここまでの運賃を考えると普通に飯食ったほうが安いって。だからそれはついでさ。ついで」
「ふっ、どうだかな。まあ気が向いたら来ればいい」
「おう。じゃあな」
 慎たちを見送る白藤の後ろで雄二は淳に「まさかここまで仲良くなるとはな」と信じられない光景を見るように語ったが、「もともと似たもの同士なんじゃないかな。二人とも正義感がとっても高いし」と分析した。そんな二人のやり取りを見て、「そしてどっちも頑固だしね」と優希も割り込んできた。



 自分のマンションにに着いた慎は「つかれたー」と独り言を言いながらオートロックを開き、そして郵便箱のある空間へ向かった。そしていつもの習慣で郵便受けが空であることを確認しようとしたが、しかしその中には少しのビラと、一通の手紙が入っていた。
「そうか。ようやく予定が決まったのか。しかし、豪華客船の上でかよ。ブルジョワジーというかなんと言うか」
 親友の一人からの手紙にすこし肩をすくめ、すぐに笑顔になった慎は「よし、寝るか」とエレベーターに向かったのだった。



>>2-14

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