Pure Love
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No.6 『冷たいもの』

空が暗闇に包まれ街はさらに賑やかになる中、あたしはカプセルホテルの看板を見つけた。そして人通りの殆どない道を歩いていた時、悪魔に出くわす…。

「ねぇねぇ♪どこいくの~?」
【もう夜だし~子供は帰る時間だよ~?】

痩せこけた2人のオトコが話しかけてきた。…はぁ、ナンパか…。今日はそんな気分じゃないんだよ、宿ありだし…。て言うかガキ扱いされんのがムカつくんだけど…。

『ごめんなさい、ぁたし今急いでるんで~♪』

あたしはそう言って走ろうとした。が…

「…てめぇに拒否権はねぇんだよ!…おもしれぇもんがあるんだ…試そうぜぇ?」

狂気…いきなり1人のオトコがあたしの腕をあり得ないくらい強い力で握り締め、声を荒げてこう言った。今までのナンパとは違う…あたしは恐怖で震えていた…。するともう片方のオトコがそれを見て言う。

【あっ!…乱暴なことしてごめん…僕らね、こんな暗いところで若い子が1人で歩いてるから心配なんだ…。だから怯えないで…。そうだ!冷たいものをあげるよ!】

あたしは早くこの場を立ち去りたかったけど、あまりの恐怖にただただ頷くしか出来なかった…。優しい言葉をかけてくれたオトコは何やらカバンの中を探っていた。乱暴なオトコはあたしの腕を掴んだまま…。

そして!

優しそうなオトコは注射器を手にとり、乱暴なオトコは再びあり得ないくらい強い力で腕を握り締める…!!

『やっめ…やめ…ろよぉ!あっ…痛い…やめ…て…』

思いむなしく、注射器の中の液体は全てなくなってしまった…。

「良かったなぁ~これでてめぇも幸せ者だぜぇ!」

あたしは崩れ落ち、放心状態のままオトコの話をぼんやりと聞いていた…。

【ふふ…君、覚せい剤は初めてかな…?『冷たいもの』って言うのはコレのコトだよ?これで君は覚せい剤が無性に欲しくなる…そしたら僕のアドレスを教えるから、メールちょうだい…?ただし…次からは有料だけど…ふふ…。】

そう言うとオトコはあたしの頭の上にアドレスを書いた紙を置き、立ち去っていった…。
わずか数分であたしは地獄に落とされた…。…あたしは泣き崩れた…。あたしは何か悪いことをしたのだろうか?何故こんな事になったのか?

…あたしはしばらく泣いたあと、これは覚せい剤じゃない、覚せい剤だとしても依存なんか絶対にしない!そうポジティブに捉えてカプセルホテルに泊まりに行った…。

No.5 普通という幸せ

あたしは少し考えた。知り合ったばかりのオトコにまさかこんなコトを言われるとは…。高校生で、身分証明が生徒手帳だけのあたしにとって部屋を借りるということは難しい。優しさに寄りかかってしまいたい…。…だけど…あたしは1人で生きていく!!

『…その気持ちはとてもありがたいですが…やっぱりあたし、行きます!ありがとうございました!』

そう言ってあたしは雨上がりの深夜の街中へ走り出した。優しい手を払いのけて、あたしは自ら困難な道を選んだ。あたしが気を失っている間決して手を出さずに介抱してくれたオトコは、きっとあたしに優しくしてくれたと思う…だけど後悔はしたくない。とは言え宿のないあたしは、あてもなくふらふらと歩き回る…。夏の、しかも雨上がり。まるでサウナのような環境の中で、あたしはこの東京のアスファルトのジャングルを朝がくるまでさまよっていた…。

しばらくして、陽がどんどん昇っていく…はぁ…今日はどうしよう…?お金は2万円、無傷で残ってる。コスメグッズを買っても1万円以上残る。…そうだ!今日の夜はカプセルホテルを利用しよう♪
これで、今日の夜は宿ありという楽しみが出来た。今日1日幸せに過ごせる気がする…。
あたしは公園の時計を見て、午前9時になったのを確認するとデパートに向かった。そこでグロスやマスカラ、アイシャドウなど、残量の少なかったものを買った。次にあたしは贅沢にもカバンの中の着替え一式をクリーニングに出した。そして服を見て回って、お昼ご飯はデパート内のカフェでサーモンとえびにバジルのソースがかかったパンを食べて、冷たいココアを飲みながら公園で拾ったファッション雑誌を読んで退屈な時間を潰した。
久しぶりに普通の生活を送ってる…あたしは自然と笑顔になった。普通の生活がどれだけ幸せかは普通を失わないとわからない。失って初めて気がつく。
時計を見ると時刻は午後6時…あたしはカフェを出てクリーニング屋に服をとりに行き、カプセルホテルを探すべく歩き出した。涼しい所にいたから、外の熱気が一段と苦しかった。

この時、まさかこの後地獄の螺旋に堕ちるとは思っていなかった…。抜け出したくても抜け出せない、『破滅』への1歩をあたしは踏み出すことになる…。死よりも苦しい地獄の螺旋……。

No.4 不思議な大学生

『ママはあたしのコトなんにもわかってないよ!あたしはもう子供じゃない!自分が選んだ道を行くんだ!』

ハッ!一気に目が覚める。嫌な思い出は1番の目覚ましなのかもしれない…。

『あれっ?』

異変に気付く。素早く体を起こして自分の周りを見渡す。あたしは白い布団の上で白い毛布をかぶり白い枕で寝ていた。ホームレスのあたしがこんな環境で寝れる訳がない…かと言ってホテルって訳でもないらしい…。部屋から、あまり整理されていない台所と玄関が見えるし…。
ガチャッ!…玄関のドアが開いた。

「あれ…起きてたんだ…。」
『まぁ…てか!ここはどこですか?意味がわからないんですけど…』
「あぁ…公園の入口で倒れてたからウチまで連れてきたんだよ…佐倉早紀さん…。」
『そっか…倒れちゃったんだ…て言うか!なんであたしの名前知ってるんですか?』
「サキのカバンの中に生徒手帳があったよ…。高校生なんだね…中学生かと思ったよ…。」
『ちょっ…仲良くもないのに名前で呼ばないでください!てかアンタはなんで人のカバンの中勝手に見てんのよー!』

ムカッ…一体この失礼なオトコは何なんだろう…。痩せていて、金髪で、ピアスをしていて…姿はコワそうなんだけど…何だろう…優しい顔をしている…。

「サキだけじゃ不公平だよね…自己紹介するよ…。僕は梅原優希…18歳の大学生だよ…。」
『えっ…大学生?高校生かと思った!…この度は助けていただいてありがとうございました!親も心配するんで失礼しま…』
「嘘はやめなよ…。普通の女子高生がカバンの中に着替え一式を持ってる訳ないでしょ…?それに…うなされてたよ…。家出したんじゃないのかな…?」
『……そうです…あたしは…』

自分でもビックリした。どんなオトコにも自分のコトはあまり話さないんだけど…彼の顔を見たら嘘をつかずにホントのコトを話さずにはいられなかった。あたしは家出に至るまでの経緯と、家出した後の生活について話した。

「…そっか…大変だったね…。これからどうするの…?」
『とりあえずエンコーしながら生活費を稼いで、家を借りようと思います。ホントに、助けていただいてありがとうございました!あたしはもう平気なんで…』

あたしは玄関に向かって歩き出した。オトコは無言であたしの姿を見ていた。靴を履いて軽く会釈してドアノブに手をかけた。その時、オトコが思いがけないコトを言った。

「僕の家に…居候する気はないかい…?」