(BL/お山OS/妄想小説)

 

 

 

 

「翔ちゃん、行ってらっしゃい」

 

「行ってきます」

 

朝、仕事に向かった翔ちゃんを、駅で見送って、俺はそのまま、画材店へ。

 

大きなビルが、そのまま全部画材店だ。

 

色々な画材を見て回って、目当てのものを買うと、もうお昼だった。

 

「翔ちゃん、何してるかなあ」

 

思わず、声に出して呟いた。

 

 

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急に季節が変わって、寒い午後。

 

画材を持ったまま、画材店近くの駅ビルで、喫茶店に入る。

 

平日のお昼は、会社員があちこち、いっぱいだった。

 

(翔ちゃんて、お昼は何を食べてんのかなあ)

 

そんなことを思いながら、3Fの喫茶店の窓から、下を見る。

 

会社員が並ぶ定食屋、テイクアウトの移動するランチ屋さん。

 

俺のいる喫茶店の客たちの話し声がする。

 

みんなが、口々に言ってる。

 

「寒いなあ。もっと厚着してきたら良かった」

 

本当だ、翔ちゃんも、確かスーツだけ。

 

きっと、帰りは寒いはずだ。

 

「……ご馳走様」

 

急いで、コーヒーを飲み干して、席を立った。

 

 

 

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お昼を、外食してビル街を通ると、すごい北風。

 

「さっむっ!」

 

どこからか、枯れ葉が飛んできた。

 

思わず、自動販売機で、熱い缶コーヒーを買う。

 

智君は、どうしてるかな。

 

画材買いに行くって言ってたけど、寒くなかったかな。

 

ショーウィンドウの人形は、みんな真冬の服装だ。

 

智君に似合いそうな、マフラーが見えて。

 

それに惹かれて、店に入った。

 

 

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最近は、あっという間に暗くなる。

 

夜7時なんて、真っ暗だ。

 

翔ちゃんの会社のそばの、喫茶店で待つこと1時間。

 

帰っていく人たちが、ガラス越しで見える。

 

いつも、帰りはここを通るって言ってたから。

 

翔ちゃんの帰りの時間は、色々だから、早めに来たんだ。

 

あ、でも会社の人と出かけるんだったら、どうしよう。

 

マフラーとコートだけ渡してあげたら、先に一人で帰れば良いかな。

 

とても、今日は寒いから、心配で迎えに来ちゃった。

 

人が増えて来た頃、通りの向こうから、すごいイケメンが歩いて来た。

 

もちろん、翔ちゃんだ。

 

 

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寒すぎる帰り道。

 

早足で、駅に向かう。

 

智君に、連絡しようかと思って、歩いていたら。

 

 

 

「……? 智君?」

 

 

 

優しい笑顔で、綺麗な立ち姿の彼が、帰り道に立っていた。

 

「翔ちゃん、おかえり」

 

驚いて、駆け寄ると、抱きしめてくれる。

 

 

 

「翔ちゃん、冷たくなってるじゃん! 早くこれ着なよ?」

 

智君が、俺のコートとマフラーを持って来てくれたんだ。

 

「智君……このために、来てくれたの?」

 

「うん、寒いだろ? 風邪ひいたら、大変だから」

 

どうしよう、嬉しくって笑っちゃう。

 

と、同時に泣きたくなった。

 

「……ありがとう」

 

「良いんだ、俺、今日は暇だったから」

 

「あ、そうだ」

 

カバンに入れた、今日買ったマフラー。

 

「智君に似合うと思って、買ったんだけど……」

 

綺麗なカシミヤのマフラーを、智君に巻いてあげる。

 

「自分の買えよ、寒かったろ? でも……嬉しいよ」

 

照れて、恥ずかしそうに笑う智君が、ひたすら可愛かった。

 

「智君に買いたかったんだ」

 

「ありがとう、翔ちゃん」

 

いつだって、可愛くって、優しい君が好き。

 

初めて、智君と一緒に、家に帰る。

 

一緒に住むって、なんて幸せなことだろうかと、心から思った。