(BL/お山OS/妄想小説)
「翔ちゃん、行ってらっしゃい」
「行ってきます」
朝、仕事に向かった翔ちゃんを、駅で見送って、俺はそのまま、画材店へ。
大きなビルが、そのまま全部画材店だ。
色々な画材を見て回って、目当てのものを買うと、もうお昼だった。
「翔ちゃん、何してるかなあ」
思わず、声に出して呟いた。
********
急に季節が変わって、寒い午後。
画材を持ったまま、画材店近くの駅ビルで、喫茶店に入る。
平日のお昼は、会社員があちこち、いっぱいだった。
(翔ちゃんて、お昼は何を食べてんのかなあ)
そんなことを思いながら、3Fの喫茶店の窓から、下を見る。
会社員が並ぶ定食屋、テイクアウトの移動するランチ屋さん。
俺のいる喫茶店の客たちの話し声がする。
みんなが、口々に言ってる。
「寒いなあ。もっと厚着してきたら良かった」
本当だ、翔ちゃんも、確かスーツだけ。
きっと、帰りは寒いはずだ。
「……ご馳走様」
急いで、コーヒーを飲み干して、席を立った。
********
お昼を、外食してビル街を通ると、すごい北風。
「さっむっ!」
どこからか、枯れ葉が飛んできた。
思わず、自動販売機で、熱い缶コーヒーを買う。
智君は、どうしてるかな。
画材買いに行くって言ってたけど、寒くなかったかな。
ショーウィンドウの人形は、みんな真冬の服装だ。
智君に似合いそうな、マフラーが見えて。
それに惹かれて、店に入った。
********
最近は、あっという間に暗くなる。
夜7時なんて、真っ暗だ。
翔ちゃんの会社のそばの、喫茶店で待つこと1時間。
帰っていく人たちが、ガラス越しで見える。
いつも、帰りはここを通るって言ってたから。
翔ちゃんの帰りの時間は、色々だから、早めに来たんだ。
あ、でも会社の人と出かけるんだったら、どうしよう。
マフラーとコートだけ渡してあげたら、先に一人で帰れば良いかな。
とても、今日は寒いから、心配で迎えに来ちゃった。
人が増えて来た頃、通りの向こうから、すごいイケメンが歩いて来た。
もちろん、翔ちゃんだ。
********
寒すぎる帰り道。
早足で、駅に向かう。
智君に、連絡しようかと思って、歩いていたら。
「……? 智君?」
優しい笑顔で、綺麗な立ち姿の彼が、帰り道に立っていた。
「翔ちゃん、おかえり」
驚いて、駆け寄ると、抱きしめてくれる。
「翔ちゃん、冷たくなってるじゃん! 早くこれ着なよ?」
智君が、俺のコートとマフラーを持って来てくれたんだ。
「智君……このために、来てくれたの?」
「うん、寒いだろ? 風邪ひいたら、大変だから」
どうしよう、嬉しくって笑っちゃう。
と、同時に泣きたくなった。
「……ありがとう」
「良いんだ、俺、今日は暇だったから」
「あ、そうだ」
カバンに入れた、今日買ったマフラー。
「智君に似合うと思って、買ったんだけど……」
綺麗なカシミヤのマフラーを、智君に巻いてあげる。
「自分の買えよ、寒かったろ? でも……嬉しいよ」
照れて、恥ずかしそうに笑う智君が、ひたすら可愛かった。
「智君に買いたかったんだ」
「ありがとう、翔ちゃん」
いつだって、可愛くって、優しい君が好き。
初めて、智君と一緒に、家に帰る。
一緒に住むって、なんて幸せなことだろうかと、心から思った。