虫の音が賑やかな夜
揺れるカーテンの波間に見え隠れする
我が愛しの君
いつのまにか夜蝉の音が
物静かな鈴の音に変わっている
昼間の喧騒はどこへやら
こうして過ごす
静かな空間も
たまにはいいものだと思う
まぁ、誰と一緒かで
だいぶ変わるのだが...(笑)
ふと気づけば
心地よい音色に誘われるまま
ゆったりと船を漕ぎ始める
愛しの我が君
左右前後と器用に船を漕ぐ
いつも思うことがある
落ちそうで落ちない
バランス感覚は
流石としか言いようがなく
優雅とさえ思えてくる
一際大きな波間に包まれた時
小さな咳払いをひとつした我が君が
ゆっくり起き上がる
辺りを見回し
わたしの存在に気づくと
少しはにかみながら
...おかえり
と言う
わたしはこの瞬間が
たまらなく愛おしいと感じてしまう
その思いを抑えつつ
...ただいま
そう言いながら
波間に体を滑り込ませる
しばしの抱擁の後
今日あった出来事を訥々と
話始める我が君を
飽きることなく只々
見つめ続ける
やがて波間が小さくなり
虫の音がやむ頃
満足げに微笑む我が君に
そっと思いを伝えてみる
ひとつ目はオデコに
ふたつ目はまぶたに
みっつ目は鼻頭に
よっつ目は....,
ジッとその場所を見ていると
もどかしいとばかりに
我が君から頂戴する
深く熱い思い
昂る心を落ち着かせる間もなく
カーテンの波間から
いつしか絹の波間へと誘われ
二人漂いながら
やがて一つになる
小さな寝息は
この上ない幸福感を
わたしに与えてくれる
そんなひとときが
わたしは手放したくはない
願わくばこの幸せが
出来る限り続くようにと
祈らずにいられない
どうかこのひとときを
奪うことなかれ
と.....


