セミが鳴き始めた
季節は黙っていても刻々と変わっていく
人の気持ちも然り
カズが誰を見ていたかなんて
考えたこともなかった
それをマサキから指摘されるまで
まったくもって論外なことで
堂々と、自分の思いを貫こうとしている
マサキがやたら眩しくて
キラキラ輝いて見える
これも・・・ある意味
そうできない自分への劣等感が
見せる羨望の眼差しなのだろう
ゲームに夢中のカズをみながら
己を振り返る
振り返ってみたところで
何も変わらないのだが・・・
「なに?」
ムスッとしながら面倒くさそうに
カズが顔をあげた
「・・・あのさ、カズって誰かを見てたの?」
語彙力なさすぎの間抜けな問いに
以外にもカズは淡々と答える
「見てたよ、ずっと」
「それって・・・俺の知っている人?」
「・・・・・・・。」
「あっ、無理に言わなくてもいいよ、ゴメン。」
「・・・・翔ちゃん」
「はい?」
「だから、翔ちゃん」
聞き間違いか?
俺の名前を言っている気がする
「えっと・・・・」
「言えっていうから言ったんだけど」
「あの・・・・」
ゲームの音がやんだと同時に
サラサラのカズの髪の毛が俺の鼻先を
かすめた・・・・・
細っこい腕が俺を抱きしめていた
この時初めて
マサキの言葉を理解した