「大野さん、何か用事?」

 

真っ先に口を開いたのは意外にもカズで

聞いたことのない冷たい口調に驚いて

振り返るのを忘れた

 

カズの顔を凝視していた俺は

背後から届くその声に

さらに驚く

 

「ちょっと、時間取れる?」

 

 

久しぶりに聞く声は

あの時と全く変わらず俺の中に

すとんと落ちてくる

だが、その声は俺を飛び越えて

カズに向けられている

 

「誰に言ってるんです?」

 

眉間に皺を寄せていぶかし気に

カズが苦々しく言い放つも

背後の声はどこ吹く風のごとく

飄々と答える

 

 

「ん? だれって?ニノ・・・だけど」

 

「俺?」

 

 

 

・・・・・ニノ?

カズって呼んでたんじゃないんだ

 

 

背後の気配を嫌というほど感じていても

身動き一つできないで

二人の動向をただ見ているしか、

聞いていることしか出来ない俺って・・・・

さぞや滑稽だろうな

 

カズを見ている眼はもう一人いて

その眼が、ばつの悪そうな顔をするから

まるで自分を見ているかのようで

思わず苦笑した

 

そんな俺に気づいたのか

黒目の大きな瞳が照れくさそうに

弧を描いた

 

とてもさわやかに

 

背後の気配と目の前にいたカズが

消えていった

 

あの時と同じ残り香を残して

俺に見向きもせず

消えていった・・・・

 

 

てっきり、俺に会いに来たのかと

一瞬でも思った自分が女々しい(苦笑)

 

自惚れってこんな感情なんだ

初めて知った・・・

 

初めてだらけの感情を押し付けて

金髪は俺の前から消えた

 

 

俺の中の金髪もいっそ消えてくれたらいいのに。

 

始まってもいないで終わりになった気分の「それ」

恋ってやつなんだよね?

同性にそんな感情を持つなんて

既成概念になかったからさ

認めたくなかったんだろうな

 

まだまだ、小さいな俺!