日当たりのいい研究室

 

中庭の丁度端っこにあって

朝はそれこそ日が当たらないけれど

お昼からしばらくは適度な日が差す

 

机に顎を載せて俺の作業を眺めていた彼。

いつの間にか眠ってしまったらしく

あの晩と同じくお世辞にも可愛いとは言えない

いびきをかき始めた

 

 

「んふふっ」

 

 

鼻先をチョンと触ると

ムニャムニャと唇がゆがむ

薄目を開けて俺を確認すると

ほわっと笑って

また瞼を閉じた

 

あの晩もそうだったっけ(苦笑)

具合がよくなってきたと思ったら

マジで可愛い顔して笑うから

ちょっとイタずらするだけが

それで終わらなくなっちゃったんだよね

あっちこっちタコみたいに吸い付かれて

擽ったいったら(笑)

 

それでも

・・・酒の勢いで何とかなるかと

思ったけど、肝心のところで眠っちゃうから

収まりつかない俺は一人置きざりだし

朝になって彼、全然覚えていないし

何言っても怯えてるし・・・(苦笑)

 

悔しいから、マーキングしてやった

 

 

 

 

 

「・・・・寝ちゃったよ、こいつ」

 

さっきまで

散々悪態ついていたくせに

彼を見る眼差しは優しい・・・

 

 

「んふふ、可愛いだろ?」

 

 

「ん?可愛いもんか!生意気な小僧にしか見えないけど?」

 

冷めきったコーヒーをすすりながら

やっぱり眼差しは柔らかい(笑)

 

 

「そうでもないぞ、チョコマカしてて可愛いんだよ」

 

 

寝顔を覗きながら同じように机に顎をつく

 

 

 

「・・・ふ~ん、で、どうなんだよ、もう食ったのか?」

 

 

「・・・・それがね~、まだ。」

 

 

そう答えると持っていたカップから

コーヒーがこぼれた

 

 

「えぇええ?だって、持ち帰ったんだろ?」

 

 

「ん~・・・持ち帰ったことになるのかな?笑」

 

 

「なんだそりゃ?俺はそう聞いてるぞ?」

 

 

「確かにその気ではあったけど

想定外だったんだよね、色々と」

 

そう笑って答えると

そんな俺が珍しかったのか

半分口が開いたままになっていた

 

 

「・・・・なんだよ」

 

 

「いやぁ・・・マジで、何もしてないの?」

 

「うるさいよ、いつも盛ってるみたいに言うな!」

 

「いやいや、これは珍しいもんだ!

一晩お前といてその気にならないってか?」

 

 

「だから、何時もやってるように言うなよ、人聞き悪いな」

 

 

最後の一口を飲み終えると

ニヤッと笑い気持ちよさそうに眠っている彼の

鼻を思い切りつまむと

飛び起きたその顔をみて

豪快に笑って部屋を出て行った

 

 

「・・なっ、なに???」

 

 

つままれた鼻を摩りながら

まん丸の瞳がさらに大きくなって

その顔があまりにもツボって

久々に声をあげて笑った・・・

 

 

キョトンとしているその姿が

当分頭から離れそうにない(笑)

 

部屋を後にする彼の背中を見送った

 

 

 

これで

彼とは何もなかったってことを

あいつが広めてくれるはず・・・

 

そのうち

胸の跡が薄れていくように

彼の記憶も薄れていくだろう

 

少し寂しい気もするが

それはそれで楽しかった

また機会があったら・・・

 

その時は・・・

どうなるかわからんぞ(笑)

 

まだ何色にも染まっていない彼を

どう色付けしようか

考える時間が楽しみになっていた