カズは無言で立ち上がると
金髪と俺の前に腰をかがめた
「・・・あのね、いつからあなた
カズって呼ぶようになったんです?
気味が悪いからやめてくださいよ」
言葉とは裏腹な恥ずかしそうなカズの顔を
初めて見た気がした
この金髪も・・・
カズにとっては特別?
「ふふふっ、だってそっちのほうなんだか楽しそうだったから
混ぜてほしくてさ、ついでに俺にもそこの人紹介してよ」
ついで・・・って
あらためて金髪を見ると
さっきまでのふくれっ面とは
似ても似つかない柔らかな表情が
目に飛び込んできた
・・・・綺麗な顔してるんだなぁ
間近で見るとそんな形容詞が
ぴったり合う気がした
そんな俺の隣でカズが大きなため息をつく
「大野さんもなの?なんだってまた
こんな奴がぁ?
・・・翔ちゃん、自己紹介してだって」
こんな奴・・・って
露骨に面倒くさがって顎で催促する
カズと金髪を交互に見ながら
状況をよく呑み込めないまま
半ば強制的に一通りの
自己紹介とやらを済ませた
金髪は「サトシ」と名乗り
今回嫌々の参加で
俺と同じように連れてこられたらしい(苦笑)
大学ではめったに見かけない顔で
カズと話しているのを聞いていると
ほとんど研究室にこもっているらしい
幻の珍獣というところか?
本人は否定するも、
カズはかなり迷惑を被ると
「サトシ」に熱く訴えていた
「だいたいね、あなたがいけないんですよ、
中途半端に愛想振りまくから、」
「愛想なんて振りまいてないから、
挨拶返してるだけだろ」
「これだから無自覚はイヤダ、
昨日も今日も、そうそうたる面子に
所在確認されてましたよ、」
「だからさ、それ誰が・・・」
まだまだ盛り上がりそうな
二人の間に挟まれ、
居場所がなくなった俺・・・
席を譲ろうと立ち上がったところで
会話が途切れた
「なに?どこ行くの」
そう聞いてきたのは金髪
おまけに、がっしり手首をつかまれている
「どこにって・・・
話が立て込んでそうだから
席変わろうかと思って」
「なんで?」
「なんでって・・・・」
濁りのない澄んだ瞳が
じっと俺の答えを待つ
・・・・・・・。
たまらずカズを見れば
肩をすぼめて元の席に戻っていった
しばし無言で見つめ合う金髪と俺
つかまれたままの手首に視線を落とすと
ゆっくりと指が放れていく
もう一度金髪に視線を戻せば
「あらためまして、俺は大野サトシ
ふふっ、・・・よろしく」
そう言って俺の右手を握りしめた
