奴が出て行ってから一変した
俺の生活
面白みのない空間に
少しずつ色が増えていく
一人分にしては多すぎる食材
日用品の買い置き
色違いの衣類
飼い猫の帰りを待つ心境は
こんな感じなのだろうな
それは・・・
思いのほか楽しくもあり
寂しくもある
以前とは明らかに違う時間軸
他人のことをこれ程までに
気にしたことなどあっただろか?
誰かのために何かをするという行為は
俺の中に小さな種を落とす
ただ、生きているだけだった
無機質な毎日に
思いがけなく飛び込んできた
華ひとひら
手折るつもりなど
無かったのに
奴の瞳が俺を呼ぶから
抱きしめるたびに
流れ込んでくる様々な感情
若いくせに手練れたそれは
奴の苦労を物語る・・・
時折見せる無垢な反応は
それが義務じゃないと思わせる
虚ろな瞳が潤いを増し、
肉厚のくちびるが開きかけ
白い吐息が部屋に舞う
気づけば夢中で抱いていた
そんな俺を奴はどんな思いで
受け止めていたのだろう
今となっては
それも聞くすべはなし・・・か
どれもこれも
面倒くさい
とうに忘れていたはずの
懐かしい記憶のようによみがえる
何度目かの夜
奴が初めて口にした
『セツゲッカ』
最初は何を意図するのかわからず
不愛想に返事をすると
今までにない柔らかなまなざしで
クスっと笑った
この時俺は
この生意気な若僧の術に
・・・・・落ちたのかもしれない(笑)
季節はその言葉通り巡る
奴と初めて会った場所
家の前じゃなけりゃ・・・
もう少し感傷的になれるのだが(苦笑)
窓から見渡す白の世界に
ひときわ目立つ真っ赤な椿
今まで視界にすら入らなかった
色の洪水が
微笑み立つ
奴とともに飛び込んでくる
それは俺が見た
今までのどの景色のよりも
最高のものになった
雪月花・・・・
花を愛で
酒酌み交わす
・・・伴侶かな
「・・・・メシ、食うか?」
fin
