「もう・・・・時間?」


 


「ん? あぁ、もう時間だね」


 


 


「あっという間だな。智くんと過ごす時間は」


 


 


小さく笑って薄日が差し込む空を見上げる


儚くそれでいて凛々しい横顔


二つの相反する面を持ち合わせる稀有な存在


 


 


いま、何を考えているのだろう?


智くんの瞳には何が映っているのだろう?


その景色に・・・俺は


俺らはいるのだろうか?


 


 



 


 


 


 


 


 


 


「すげぇな、やっぱ海って・・・」


 


 


 


智くんの声をゆっくり追いかけながら


何がすごいのか聞いてみた


 


 


「ん?なんかさ、眺めてると


落ち着くっていうか


自分が小っさいっなって・・・


いつも思い知らされる(苦笑)」


 


「小さい?智くんが?」


 


 


俺の声があまりにもデカかったせいか


きれいなアーモンドの形の瞳が

まん丸に変わっていた


 


 


「なんだよ、急にびっくりさせるなよ!」


 


 


そういうと俺の肩をポンとたたき


静かに横を通り過ぎた・・・・





音がしないんだよな・・・この人って


 


 


 


 



 


 


 


 


 


「さて、行くか!あいつらも来てるんだろ?」


 


 


しなやかに腕を開き


まるで風にでもなったかのように


その身をゆだねている・・・・


この人のこんな仕草の一つひとつが


俺らにはきっと一生かかったって真似できない


培ってきた努力の賜物なんだろう・・・・


 


 


 


 


・・・・・・・・・・。


 


ねぇ、それ以上遠くまで


 


「飛んでいかないでよ・・・・・」


 


 


 


 



 


 


 


「ふふっ、行かねぇよ。羽がない」


 


 


「あったら行っちゃうの?」


 


 


この期に及んで駄々っ子のように


智くんを・・・・困らせてる


 


 


そんな俺を『仕方ねぇな』って顔で見るから


余計に・・・離れがたい


このままここで引き留めておけるのなら


どんなにか・・・


 


 


 


 


「・・・すぐだよ、あっという間に過ぎてる。十年だって振り返ったら


あっという間だったろ?」


 


 


「でも、これから過ごす時間には智くんがいない」


 


 


「・・・・・いるさ、いつもいる。そばにいるよ」


 


 


 


 


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「智くん・・・・・」


 


 


 


「だから、そんな顔すんなっ」


 


 


 


遠くから智くんを呼ぶ声


俺だけじゃない


あいつらもきっと同じ気持ちだ


 


 


 



 


 


 


 


また、ここに戻ってくるって


信じているから


それまで、俺らも自分の信じる道を行く


自信なんてないよ


だから必死になれるんだ


一つ一つ経験して大きくなるから


 


 


だから・・・・


 


 


 


「翔さ~ん、もうタッチ交代!!時間ないんだから


独り占めしないでよ!!」


 


 



 


 


「そうだよ、おーちゃんだって俺らと話したいんだから!」


 


 


「リーダー、マジで時間ないよ」


 


 


 


「おう!」


 


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歩く智くんの背中を見ていたら


なんだか目頭が熱くなってきて


夕べも散々泣いたのに


枯れることなく涙って出るんだな


 


 


 


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突然立ち止まり


ゆっくり振り返る智くんの栗色の髪の毛が


風になびく・・・


画になる


ずっと見ていられる


 


 


 


 


一つ息を吸い込み


智くんが叫ぶ・・・・


俺の大好きな声で叫ぶ・・・


 


 


「翔くん、じゃぁ、ちょっくら行ってくるかんな、


後のことよろしく頼む!」


 


 


そんな智くんも・・・・


泣き出しそうな顔をしていた


 


智くんが我慢しているのなら


俺が泣くわけにいかない・・・


 


笑顔で送り出そう


 


 



 


 


 


「翔さん、何その不細工な顔!!」


 


「うわっ、ひでぇ顔!鼻水拭きなって!」


 


「・・・・・喜怒哀楽が激しすぎるんですよ」


 


 


 


そんな俺らを見つめて一瞬指先で


目頭を押さえた智くんを


俺は見逃さなかった・・・


気持ちは一緒なんだって


安心した瞬間


 


 


「雨降りそうですね、さすが雨男」


 


「ふふっ、まぁな、俺の特技だ。忘れるなよ」


 


 


「「「「笑」」」」


 


・・・・・忘れないさ


絶対に


 


 


 



 


 


 


またいつか、ここで集まって話すときには


違った未来が見えているかな?


 


 


 


 


風が運ぶそれぞれの未来に包まれて


短い夏が終わる


 


 


 


 



 


 


 


そしてまた歩き出す


俺らの新しい未来に向けて


 


 


 


風はそんな俺らを優しく包み込んでいた


 



fin