人は一生に幾度

特別な人間に出会えるのだろう

 

何気ない日常から解き放してくれる

特別な人間

 

 

妻、夫、友人、上司、同僚、

医師、恩師、等々・・・・

身近にいる人間以外に

生きているうえで出会える数は

きっと決まっているはず

 

何十億分の一の奇跡

 

ともいえるのかな・・・(苦笑)

 


そんな・・・

偶然という必然を感じる瞬間に

幾度出会えるのだろう

 

 

 

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美術館に訪れた時、ある写真に目が留まった

そして、とまった瞬間そこから動けなくなった

 
 
「・・・・・・・・・・・・・。」
 
 
 
 
 
 
儚さと力強さ・・・
 
大パネルで展示された写真から
ものすごいエネルギーを感じたんだ
 
 
生への執着心・・・
 
ふと、そんな印象を持った

 

 

・・・・・この人は

生きているのだろうか

なにを思い自分を撮らせたのだろう

 

 

圧倒的すぎる

この・・・存在感が見る人すべてを

引き込んでいく・・・

 

 

 

 

いつしか

この人に逢いたいと強く

願うようになっていた

会ってどうするなんてことは

まったく考えもせず・・・

 

無性に会いたい衝動に駆られるがまま

展示される最後の日まで

毎日、この人に逢いに行くのが

日課となっていった

 

一人、また一人

この場を離れる人たちの足音を聞きながら

最後までそこに佇む俺を

きっと…不思議に思っていただろう

 

それでも、感じていたかったから

この人に心奪われた瞬間を

ずっと、感じていたかったから

それ以外にこの人と俺を繋ぐものが

・・・・・何もなかったから

 

 

 

 


最後の展示の日

いつものようにこの写真の前に立つ

そして、

いつものようにその場に佇み

飽きることなくこの人を見つめ続けていた

 

もうすぐ・・・これが取り外される

そう思えばこそ

目に焼き付けたい一心で

見つめ続けた

 

 

 

どれくらい時間がたったのだろう

この写真の前ではそれすら

無意味ではあるのだが。

 

 

 

しばらくして

最後の一人になるはずだった俺の背後から

ゆらゆらと影が近づく

その影は斜め後ろでピタリと止まると

それから動くことなく気配を落とす

 

ふっ、(笑)

 

あぁ・・・俺以外にも

同じような輩がいたのかと

笑みがこぼれた

 

 

 

閉館の時刻を知らせる

アナウンスが流れるまで

そんな影と共に

魅入っていた・・・・

 

 

静まり返った空間

ふうぅ~と一つ大きな溜め息を吐く

 

 

「・・・・・またな。逢えてうれしかったよ」

 

 

すっかり影の存在を忘れていた俺は

いつもの挨拶を済ませ

最後の日に一つだけ

してはいけないことを実行しようとしていた

 

 

立ち入り禁止の紐を跨ぎ

その唇をなぞるように触れようとした瞬間

冷やりとした感触が手首をつかむ

 

 

「!!」

 

 

それは一瞬だった

 

その手は俺を掴んだまま

グイッと写真から引き離すと

鼻先に柔らかな前髪をなびかせ

こう囁いた

 

 

 

「どうせなら・・・こっちにしたら?」

 

 

と・・・・・

 

 

 

 

 

何十億分の一の奇跡

 

 

 

俺は生涯忘れることはなかった

 

 

 

一期一会