ある日、いつものように屋敷に行くと

いつもと違ったあの人が俺を待っていた

 

今まで・・・待っていたことなんてなかったから

 

何も言わないあの人のそばに勝手に居座っているだけ

それをあの人も拒まないから

それが当たり前のよう感じていた

 

あの人を前にした俺は

直感で・・・もうここに来られない、そんな気がしていた

 

あの人は・・・・いつもの部屋ではなく

 

あの・・・・庭の隅にある小さな庵に俺を連れ出す

 

そう・・・・・あの人が愛を紡いだあの庵に

 

 

複雑だった・・・・誰かを愛したその場所で

最後の言葉を聞くことになるのかもしれないことに

それが今、目の前にいる人の望みならば

辛くても・・・・その通りにするだろう

俺の心は二の次だから

 

 

中へ案内されるとそこには

かつての面影がなく・・・とはいっても

じっくり見たことがないからイメージとして

そう感じたのだが・・・

 

不思議とホッとできるそんな空間になっていた

ここで・・・・また誰かに愛を紡ぐのだろうか

そう思うと・・・・なおさら寂しさが募る

 

この場所を・・・・もう、誰にも渡したくない

そう思った・・・・・

伝える気なんてさらさらないけれど

ここから・・・・何か始めるための

あの人なりのけじめみたいなものであるなら

喜んで受け入れる

 

 

「・・・・・・ここは、俺にとって特別な場所だった」

 

 

不意に語りだすその声を何気なく聞き流す

 

 

「・・・・・・それはこれからも変わらない」

 

 

あぁ・・・・・そうだろうな

 

 

「・・・・・俺のその場所にもう一つ不可欠なものがある」

 

 

・・・・・・・・不可欠?

 

うつむいていた顔を上げてその顔を見つめると

 

 

その口元が動く・・・・・・

 

俺の聞きたくなかった言葉を紡ぐために