タクシーを捕まえ急いで乗り込むと

行先を伝える

幾度となく向かった場所に

 

 

 

渋滞・・・・・

ノロノロと走る速度が何万倍にも遅く感じられ

苛立ちで身体が小刻みに揺れる

 

たまらず、タクシーを降り

まだ少し距離のあるあなたまでの時間を走った

 

息が上がるほど、走ったのは何年ぶり??

持つれそうになる足元に力を込めて走った・・・・・

 

家にいないことなんて微塵も考えず

荒くれだった心を静めたくて・・・

 

いや、智くんに会いたいだけ

ただ・・・・それだけだった

 

その想いで湧き出る汗も気にならないほど

走った

 

 

 

 

 

 

エントランスをくぐり抜け

 

エレベーターを待つ時間さえわずらわしい

何度もボタンを

押し続けた壊れるくらいに・・・・・

 

降りる人を押し分けて乗り込み最上階のボタンを押す

 

早く・・・・・!

早く・・・・・!

 

 

 

ドアが開く

 

僅かな隙間に身体を滑らせ

 

勢いよく出た瞬間目の前に立っていた

 

人とぶつかる・・・・

 

「あっ、すみません、」と、だけ手短に謝り

 

逸る心を落ち着かせる暇もなく

 

その場を立ち去ろうとした

 

 

 

その時・・・・・

 

いきなり腕を掴まれ

 

引き戻される

 

 

「えっ?・・・・」

 

 

智くん????

 

 

「・・・・・・どこ行くの?そんなに慌てて・・・・(笑)」

 

 

智くん・・・・・

 

 

噴き出してくる汗は・・・・走ったせいなのか

 

それとも・・・・・あなたを前にしてだからなのか

 

容赦なく顎を伝う・・・・・

 

 

「ひでぇ顔・・・・イケメ台無しじゃん(笑)」

 

 

「・・・・・なんで、ここに、いるの?」

 

 

「・・・・・・・なんでここにいるの?ってそのまんま翔くんに返すけど?」

 

にこやかな笑顔に面喰う・・・・

 

「あっ、いやぁ・・・・その、・・・・俺は、」

 

 

「会いに来てくれたんでしょ?」

 

 

智くん・・・・・

 

 

「違うの?・・・・汗かくほど急いで来てくれたんでしょ?」

 

 

「・・・・・ゴメン、」

 

 

「翔くん??」

 

 

 

なぜだかそれ以上・・・・言葉が出てこなかった

 

 

何も言えない俺を不安気に覗き込む瞳に・・・・

 

落ち着きかけた心臓がまた走りだす・・・・・・・

 

 

鎮まれ俺!・・・・・云わなきゃいけないことがあるだろう!

 

大きく息を吐きだし・・・・

 

智くんに向き直り

 

頭を下げた

 

「・・・・ゴメン、俺、自分のことばっかで、智くんに甘えてた!」

 

「翔くん・・・・・」

 

 

「だから、も戻ってきて!」

 

 

「・・・・・翔くん、俺も謝らないと・・・同じだから、」

 

 

「智くん?・・・・」

 

 

「俺ね、一人がいいと思っていたの」

 

 

「・・・・さ、智くん!!」

 

 

「最後まで聞いて、その一人はね・・・・違ったんだ」

 

 

「そ、それって、俺といるのが嫌だってこと?」

 

 

「最後ま聞けって!!・・・・・翔くんの気配がある一人がよかったんだ」

 

 

「えっ?・・・・俺といての一人って・・・・」

 

 

「丁度、いま、翔くんの家に行こうと思っていたの、そしたら・・・翔くんがいた!」

 

 

 

 

 

 

屈託のない笑顔で俺を見る智くんに俺の心臓は我慢できるわけもなく

 

人目もはばからず、思い切り抱きしめていた

 

 

「ちょっ、翔くん!!!!」

 

 

思い切り走ってきたせいか、智くんの言葉が嬉しかったせいか

 

ふわりと意識がぼやけてきて

 

気が付けば見慣れた天井を見上げていた

 

近くに智くんの気配を感じながら

 

重くなってきた瞼をゆっくり閉じる

 

久しぶりの微睡み・・・・・

 

どこかで鼻歌が聞こえる・・・・・

 

カナリアのように澄んだ声が耳の奥をくすぐる

 

近くにいられることだけでも

 

こんなに安心出来るなんて・・・・・・・

 

改めて・・・・気づいた

 

大切な人と同じ空間にいられる

 

それだけで・・・・・幸せなんだ

 

 

ずっと一緒にいさせて・・・・・ずっと一緒に

 

 

 

 

ずっと・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グガァ~~~。

 

ピィ~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

 

 

 

 

 

 

 

 

フフッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久々に聞いた・・・・翔くんの鼾は

 

到底眠れるものではなくて

 

だけど・・・・妙に落ち着く(笑)

 

 

いつの間にか、俺の子守歌になっていたんだね

 

 

目を覚ましたら思い切り

 

抱きしめよう

 

・・・・・・抱きしめてもらおう

 

 

俺の・・・・・ゆりかご