どんどん惹かれていく自分の気持ちに
向き合えないでいた俺


いつもと同じ
夕焼けの空を見上げていたある日・・・
俺の知らない翔くんの顔を見つけた

切なそうに俺を見つめる翔くんの顔
肩が触れあうくらいの距離に座っていた




俺等は・・・・


自然と・・・・

惹かれ合うように

想いを唇に重ね合わせていた




翔くんのスキが流れ込んできた瞬間

二人の間が”特別”に変わった瞬間


それからは・・・ほぼ時間が合えば
お互いの家を行き来して
抱きしめ合った
片時も離れたくなく
・・・離したくなくて


そしていつしか不安がスキを追い越していく
些細なことでも話題になりやすいこの仕事

俺のせいで翔くんに何かあったら
そんな不安が心をよぎる

ことある事に、そんなこと気にするなって
言ってくれる翔くんに

俺は何もしてあげられていない

守ってもらっているばかりで何も・・・


焦り、不安は大きくなるばかりで


翔くんがいくら信じてよ、と繰り返しても

それをどう声に出して伝えていいのか

わからなかった



そんな俺に痺れを切らして

翔くんは少しずつ俺から距離を取りだしていった


そんな翔くんを俺はどんな顔で見ていたのだろう



好きなだけじゃ埋まらないものがあるって
この時初めて知ったんだ


そして・・・
忙しさが二人の距離を余計に広げ始める





想いは残したまま


身体ごと引き離されていく・・・


埋まらない溝を抱えたまま気づけば


何年たっていたのだろう







断片的な記憶をかき集めては




繋ぎ合わせ・・・




久しぶりの二人の時間を
無意識に俺は楽しんでいた




あの時と同じ気持ちのまま・・・・




「・・・・・くん?」


翔くん・・・俺は今もあの時のまま

変われていないんだ
おかしいだろう?

翔くんを追いかけもしないで
気持ちだけが残ったまま



「・・・・しくん?」


風は・・・・ずっと吹いていたんだな

俺が気づかなかっただけで

いつも俺の周りを吹いていた




「智くん!!!」




翔くんの大きな声に驚いて振り向くと
あの時と同じ顔をした翔くんが目の前にいた


切なそうにでも・・・どこか優しげな
翔くんの顔が・・・・・


目の前に、



「翔くん・・・・・?」


「智くん、今完全に一人の世界に入り込んでいたでしょう?」



あの時と同じ満面の笑顔で
俺に話かけてくる翔くん・・・・



心の鼓動まであの時と同じように脈を打つ




ドキンッ





「ふふふっ、・・・・ぁははははっ」


俺は思わず声を上げて笑っていた
あまりにも変わっていない自分の気持ちが

おかしくて・・・・

そして、愛おしくて・・・・・

足元のつゆくさに視線をおとし
目尻にたまる雫を見えないようにそっと隠す

ゆっくりと土手に腰を下ろし
咲き誇る花をじっと見つめていた




「智くん・・・・・」





頭の上から優しい声が降る


でも、ゴメン



俺、今・・・顔あげられそうにない



「風見鶏・・・・ってさ、」





翔くんはそんな俺なんか構うことなく
話しだす





「風の吹く方向へ常に向き合うんだよね、それってすごくない?」





「なんで?」





俺は下を向いたまま間抜けな返事を繰り返す





「どんなに強い風にだって向き合うんだよ、あの頃の俺等のように」





いつの間にか隣から聞こえてきた翔くんの声




肩先が触れる距離にいることがわかる




「智くん・・・・・」




”天丼”訛りの俺を呼ぶ声




ゆっくり顔を上げて翔くんを瞳に捉えると




あの時の記憶が重なり合い
翔くんが溶け込んできた





瞳を閉じて耳をすませば



あの時聞こえなかった翔くんの声も



あの時言えなかった俺の想いも



全部流れ込んでくるかのように



唇から伝わってきた




翔くんの温もりが



あの時と変わらない温もりが今も・・・・・




そこにずっとあったなんて







「・・・・俺ね、今でも智くんが好き」




「・・・・・翔くん?」




「智くんは?」




「・・・・・・・・・・・・(泣)」




「ははっ、それじゃどっちだか分からないなぁ~(苦笑)」




俺は・・・・答えの変りに



きつく翔くんを抱きしめた




そして・・・微笑み返した



それで伝わるかな?ゴメン・・・・




声だしたら・・・・俺、無理だもん



泣きだして・・・・もう止まらないから







翔くん・・・・・・好きだよ



















切なくてただ愛しくて  



暮れゆく夏



風になって




瞳閉じて耳をすませば  僕と君の未来になった



僕と君の未来になった・・・・・・   







One~

風見鶏より抜粋