風見鶏を見ると想いだす
ある夏の終わりの風景を・・・
忘れかけていた淡い記憶を蘇らせる
甘酸っぱい感覚とともに
俺の心一杯に優しく・・・
広がっていく
それは
ふとしたことがきっかけだった
次の機材の準備に手間取り
ぽっかりと空いた待機時間・・・・
せっかくの絶景をそのままには出来まいと、
突然、翔くんが言いだして
どういう訳か二人で散策に出かけることになった
久しぶりの二人っきり
なんだか照れる
まぁ、そんなこと考えてるの俺だけだろうけど(苦笑)
独特のテンポで歩く翔くんの後ろ姿を眺めながら
景色を楽しむ横顔をのぞき見る
「・・・・・イケめてる、(笑)」
そっと聞こえないように囁く
いいんだ、俺だけが分かっていれば
伝わらなくったって・・・・いい
「何か言った?」
イケメタ顔で振り向く翔くん・・・
ドキンッ
と、一瞬で高鳴る鼓動
それでも平静を装い
・・・・・何でもないよ
と、笑顔で答える
ふわりと吹く風はどこか肌に心地よく
季節の移り変わりを感じさせる
足元に咲く青紫のつゆくさが
潤いを溜めてひんやり肌に降り注ぐ
熱くなりかけた心を落ち着かせるかのように・・・
気づかれ無いようにそっと
小さなつゆくさに想いを馳せる
しばらく歩いてくと土手沿いの遊歩道に出た
眼下に遠く広がる街並みと、見渡す限りの田園風景
小高い丘の上に佇んでいると、カラカラと回る風見鶏が見えた
あの夏を思い出させる・・・
サワサワと髪を揺らす風がさっきよりも冷たく感じられる
いつの間にか日が傾き茜色の雲がたなびき始めた
ふと、それまで景色を思う存分満喫していたであろう
翔くんがポツリと話し始める
「智くんさ、覚えてる?昔Jr.っだた頃、レッスン場飛び出して
近くの河川敷まで遊びに行ったこと・・・」
「あぁ、そんなことあったっけな・・・・ふふっ、どうした?急に」
それまで俺に横顔しか見せなかった翔くんが
くるりと向きを変え俺を待正面に見据えて話を続けた
「ここさ、なんだかその場所に似ていると思わない?」
満面の笑みで俺の心臓を一瞬にして鷲摑みにする
そんな翔くんに戸惑いながらも
昔の想い出を手繰り寄せている自分がいた
あの頃は、怖い物なんか何もなかった
ただ、好きなことを好きなだけ楽しんで・・・
仕事も遊びの延長で、恋愛もそれと同じように
捉えていてのだろう・・・
ただ、楽しければいいと、思っていた
この時の恋愛の対象がお互いであったことは
もちろん知らなかったから・・・
今思えば複雑な心境ではあったはず・・・
それでも、それなりに楽しかった
他愛もない話に腹を抱え
くだらない話を夜通し語り合い
ぶらりと抜け出しては日ごろの憂さ晴らしをかねて
いろんなことをやっていた
明日の天気を占い、靴を蹴飛ばしてみたり・・・・
ただ、土手に座り陽が沈むまで黙ってみていたり
さしずめ、小学生並の夏休み気分で
その当時ほとんどできなかった虫取りや、土手滑り
そんなことをすり傷だらけになりながら
しこたま経験していったんだ
”天丼”と、同じイントネーションで俺の名前を呼ぶ
翔くんが・・・愛おしくて・・・
名前を呼ばれるたびに募る想いが溢れて
俺のスキがドンドン強くなって・・・
でも・・・違っていたんだよね


