あぁ、智くん・・・
今ならわかるかもしれない
あの時の智くんの苦悩が
先の見えない不安定さから
道理に反する想いと
それ以上の思慕とで
揺れ動いていた
あの頃の智くんが
十年たった今も
ここにいる
年を経てその時とは違った
俺等がいて
それぞれが抱えていた想いは
今も色あせることなく
こうしてここにある
それだけ・・・・
それだけじゃ、ダメなのかな?
もう十分すぎるくらい
悩んで考えて出した答えが
今・・・・
この瞬間なんじゃないのかな?
正直、俺だけが取り残されていた気がしていた
でも・・・・智くん
智くんも
あの時から動けないでいたんだね
だからこそ
そこから、始めてもいいんじゃないのかな?
智くんが思うほど俺は常識に
囚われてなんかいない
もしそうなら・・・・
とっくに諦めていたよ
また、目の前からいなくならないで
一人で・・・勝手に決めつけないで
もう・・・・あんな思いはしたくないから
智くん・・・・・
同じ景色が見たいよ
二人でずっと・・・・・・
智くんが俺の名前を呼ぶ
声に出さずに・・・・
口もとだけが俺の名前を形どり
何度も俺の名前を
呼ぶ・・・・・
大粒の涙が頬を伝って流れ落ちる
その全てをただ動けずに見つめていた
何度も諦めかけた思い
その度にこの日の『約束』を思い出しては
その姿を目にすることを支えにしてきた
ドアを開けた瞬間から
俺の心は決まっていた
智くん・・・・あなたがこの部屋にいたことが
すべての答えなんだよ
俺たち二人のこれからの・・・・
答え
どちらともなく体を寄せ合い
気づけば骨が軋むような抱擁をしていた
その存在を今一度確かめるかのように
自分の気持ちを確かめるかのように
きつく・・・・・
きつく・・・・・

