ルームナンバー  1034







手の中のグラスをぼんやりと眺める



来るはずのない人を部屋で待ち



コルクを開けたばかりのCHAMPAGNEを味わう


あいつの好きだった銘柄




それを口にするたび湧き起る


甘い疼きに心乱れる









十年前の今日、あいつと交わした約束を


俺は片時も忘れたことはなかった


どんな自分になっているのかさえ


わからなかったあの頃



ただ求められることがすべてだったあの頃


不安に押しつぶされそうになりながら


がむしゃらに進んできたあの頃



一番純粋だったあの頃



常に傍で寄り添い俺を包みこむその手に縋り


求めてきたあの頃・・・・・


その全てが眩しすぎる時間となり

二度と手にできない時間となった




人気も上がり仕事も増え、

社会的責任が纏わりつくようになって


俺等の周りは激変した


本人の意志とは裏腹に


一人歩きを始めることに戸惑う現状の中


少しずつ狂っていった歯車が


噛み合わずキシキシと悲鳴のような音を立て始める


余裕のない心理状態の中ありえない感情に支配された月日は


欲を吐きだすための行為にいつしか変わって行った


心の伴わない虚しい時間だけが重なっていった





・・・・・・・・出した答えは



離れても再び逢いたいと思えたのなら


十年後の今日この部屋で持つと・・・・・



そう言って終わりにした・・・・・はずだった








心にぽっかり開いた穴はどんなに埋めようとしても


塞がることなく一時の救いを求め


乱れ散る・・・・・・


それを見つめるお前の悲しげな視線に戸惑い


すぐにでも抱きしめたい衝動を誤魔化すように


酒に、女に・・・・男に


溺れていった・・・・・



それでも喉の渇きが潤うことは・・・・・なかった・・・・



枯渇した心はいつも悲鳴を上げ


ずっと求め続けていた


手放した温もりを・・・・・


戻れない時間を・・・・・




約束の時間が迫る