翔くんの悲鳴・・・久しぶりに聞いた(笑)
結構高い声出るんだ・・・・ふふふっ
のそのそと顔を出しに行くと
「智くん!これ、これ・・・」
さっきのカエル?らしきものを指さして必死に払いのけようとしていた
来客はそんな翔くんを訝しげに見ている・・・・
ふ~ん・・・あの人には見えていないのか
なら、仕方ない・・・・
僕は半紙を持ち出しそのカエルらしきものをそっと包んだ
それは半紙に姿を現す
目の前で繰り広げられる不可思議な行動に
来客と・・・・翔くんまで(苦笑)・・・
目をまん丸にしている
その画は僕が今日描いた金魚と対になるような
画だった・・・・・
そうか、この来客は君が連れてきたのか・・・・
その金魚の画を手にとり
僕が翔くんにさっき渡した画を受けとりそっと重ねると
コロンと何かが落ちてきた
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
三人でそれをみつめる
金魚は綺麗な銀細工の帯留めになっていた
来客はその銀細工を見て涙を浮かべている
翔くんが・・・・わけがわからん?
とでも言いたげに僕を見るもんだから
僕はゆっくりと説明することにした
「この銀細工は・・・・どなたからかの贈り物ですね?」
「・・・・はい、婚約者からいただくはずのものでした」
・・・はずのもの?
「その方は・・・今は?」
そう聞き返すと
ハラハラと大粒の涙を零し目頭を抑えながら
「実は、連絡がずっととれません・・・・夜な夜な夢に現れるその金魚の
帯留めを探していたら、ここのお店の名前を知りました、」
ふぅ~・・・・
困ったね、また僕が持ちこんじゃったのか・・・
翔くんを見れば・・・その泪に感化され
オイオイ恥ずかしげもなく泣いている
結婚詐欺だの、だまされたんだ!だの・・・
結構うるさいし、非常識・・・・
少し放っておくか・・・
僕は来客の目の前で
その帯留めをそっと手のひらにのせて
ゆっくりとにぎってみる
すると、一瞬だけ
フワッと春の馨りがしてきた・・・・
この人にこれを渡してもいいよって
この帯留めがいってる気がした
白檀の馨りが強くなっていく・・・・・
僕の周りに聞こえてきた水音は
金魚の跳ねた音なのかな?
早く元に戻りたがっているようだった
「この帯留め・・・どうしてここにあったのかわかりませんが
これはあなたに持っていてほしいといっています。今日ここに来たのは
この帯留めの意志でしょう・・・持って帰って一日身に着けてみるといい
何かわかるかもしれません・・・」
そうにこりと微笑んで
来客にそっと手渡した・・・・
その途端、銀細工の帯留めは元の僕が書いた金魚の画に戻って
もう一つの・・・カエル?のようなものは
再び飛び跳ねて翔くんの元について行く
あれ?翔くんがいいんだ・・・・(笑)
翔くんて・・・・式神使えたっけ?
来客は・・・・特にここでの事を疑わず
僕の書いた画を譲ってほしいと懇願し
少しですがと代金らしきものを置いて帰って行った
来た時よりも少し抱け明るくなって・・・
その来客が帰るとき・・・
帯留めから香った春の匂いと同じ香りがしていた
何かの役に立てたらしい・・・・
「うわぁ~~~~!!!!」
また、翔くんの悲鳴・・・・(苦笑)
今日はよく聞けるな・・・
「どうしたの?」
見れば大きく口を開けて、もともと大きな瞳が
更に大きくなって・・・・
封筒を指さしパクパクしていた
「なに?・・・・」
そっと覗き込むと・・・・
「げっ!!!!!、な、なにこれ!!」
来客の置いていった代金・・・・・
札束だった・・・・1CMくらいの厚みの・・・・・
どこぞの令嬢?
それとも・・・・金魚のお礼?(笑)
しかし・・・・翔くんってえげつない
ふつう見る?あの場面で封筒・・・・(苦笑)
後日・・・丁寧な礼状が届いた
婚約者が事故にあって記憶を一時無くしていたそうで
僕の店から帰って行く途中に落としたカバンから画が飛び出し
それを拾った女性がその婚約者の妹さんだった
帯留めを取りに行く途中の事故だったらしく
その画がお兄さんの頼んだデザインと同じだったことから
そこで繋がった縁で・・・無事に記憶を取りもどした
婚約者に逢えたそうだ・・・・・
良家の出なら周りが騒がないはずはないのに
ただ静観していただけだったそうだ
家訓によれば「当主の大事には必ず救いの手が現れる
水ものを慈しみ待て」とあったそうだ・・・・・
それで・・・金魚ね
翔くんは・・・・それ以来面白がって
僕の手伝いをしなくちゃって
仕事場にまで押しかけてくる・・・・・
自分も忙しいはずなのに
ある日ぼそって翔くんが呟く
「智くんの画って・・・・幸せを運ぶのかな?」
夕日を背に逆光の中の翔くんが
綺麗で・・・・思わず息を飲む
顔の輪郭の産毛が金色に縁どられていて・・・・
「うゎ~・・・・きれい・・・」
って、感動してウルウルしちゃったくらい
「そんなこと…無いよ」
「いや、あるね、だって俺が前に貰った画・・・・それ覚えてる?」
・・・・・確か、ムキムキのキン肉マンのような画を掻いたかも?
「それが、どうしたの?」
「ふふっ、その画のように鍛えだしたら・・・智くんとよく一緒に
いられるようになったから・・・・予知夢的な画なんだと思わない?」
一緒にいられるの・・・・喜んでくれてるんだ
え?でも・・・それが幸せを呼ぶのとどういう関係なの?
小首をカシカシ傾げながら考えてたら・・・・
「智くんの理想像に近づけたのかな?俺?・・・」
何てことをさらっと言う翔くん・・・・
「理想像って・・・別にそんな筋肉質がいいってわけじゃないし・・・」
「えっ?筋肉がいいんじゃないの?」
「うん・・・特に意識したことないけど・・・?」
「・・・・・・・・・マジ。」
そう言えば・・・翔くんこんなに筋肉あったっけ?」
首も太くなってる・・・・・
あれ?・・・
二の腕も太くなってる・・・・・
もしかして、画のせい?
潜在意識が出やすいのかな?
下手に描いた画を上げるのやめておこう・・・・・
なぜだか更になで肩になっている翔くんに声をかけて
飲みに誘った
たまには外でデートっぽいのもいいよね?
※ランチュウだと思うんだけど・・・


