「智くん?そろそろ休んだら・・・・・・」
リビングから低く優しい声が響く
創作に夢中になると時間を見計らって
声をかけてくれる
そのトーンが僕の耳に心地よい
「もう少し・・・後この碧をのせれば完成だから・・・」
そんな僕をニコニコしながら
見つめる翔くん・・・・可愛いんだよね
僕が趣味で始めた水彩画
「夢のお告げ」じゃないけれど頭に浮かんだビジョンが
そのまま画になると、どういう訳かその画に因んだ来客が来るようになった
今書いているのは「碧の竜」
竜って本で見ると滝を登ったり雲間から空を駆け上ったり
結構リアルな画材が多かったのだけれど
僕の描いている竜はどういう訳か金色で碧色のアスパラガスに巻き付く
少し変わった画・・・
それにどんな意味があるのかわからないけれど
描き上げたころには、きっと来客があるんだろうな・・・
もっぱら相手をしてくれるのは口の達者な僕の同居人・・・翔くん
翔くんは、一般的に知られている報道関係の仕事をしている。
所謂キャスターってやつらしい・・・
稼ぎがいいのにわざわざ僕とこんなせまっ苦しいマンションで
生活してくれている・・・変わった人なんだ(笑)
僕が以前の仕事をやめた頃からなんとなく一緒にいる機会が増えて
それが嫌じゃなく・・・自然にいられたから翔くんが一緒なら毎日楽しいのにって
つい口滑らせたんだよね
次の日には・・・荷物が運ばれてた・・・入り切れない程(苦笑)
あっけにとられている僕をしり目にテキパキ部屋中を模様替えしてしまった
アトリエだけは手つかずにしていてくれたようでホッとしたけど・・・
有無を言わさずってこんな感じ?そう思うとなんだか可笑しくて
クスクス笑いが止まらなかった
自分の家を散々無断で改装されてるのに怒る気がしなかった
そんな翔くんが僕は好きなんだよね・・・・
多分・・・片思いなんだけどね(笑)
翔くんと一緒に生活するようになってすぐに
夢を見た・・・・
金魚の夢。
その金魚は、ランチュウって種類の金魚で頭が大きくて
尾びれがヒラヒラして羽衣みたいな可愛い金魚・・・
起きてすぐに描きだしたんだ
3時間くらいで出来上がったんだけど
急に眠気に襲われて
ウトウトしていたら・・・・
女の人が僕の顔を覗き込んでいた
ひどく悲しそうな顔で・・・・・
着物を着た綺麗な人だった
それも・・・夢だったのかそれとも
現実だったのかわからないくらいの
鮮明さなんだ・・・・
白檀の馨りが強く残っていて
起きてきた翔くんがしきりに
「おばさんの匂いがする!!」ってブツブツ言ってたぐらいだから
それから間もなくだった
夢で見た女の人が僕の家を尋ねてきた
着物が洋服に変わっていただけで
後は全くそっくりだったんだ・・・・
一応僕の家は自営業扱いで・・・事務所兼アトリエになっている
そんなに依頼は多くはないけれどありがたいことに
口コミで広まっていって贅沢しなければ
日々の生活に困らない程度の収入にはなってる
だから・・・翔くんが来てくれなくても大丈夫だったんだけど
光熱費とか半分で済むからって・・・・(苦笑)
今思えば、精いっぱいの理由を考えてきてくれたんだろうな(笑)
その日も翔くんは女性だったからか素早く仕事内容を
聞きだして品定めしながら手短に要件を済ませようとしていた
少しして翔くんが僕のところにきて不思議なことを聞いてきた
「智くん・・・あの女の人の匂い・・・朝の匂いなんだけど何かしってる?」
あれ?翔くんにもわかるんだ・・・・
僕は翔くんに事のいきさつを話した
そしてその画を見せたんだ・・・・
「あぁ~・・・またか・・・何でこう呼んじゃうのかな?」
その画を受け取って事務所に戻って行く翔くんの後ろで
ピョンピョン跳ねてる変なものを見た・・・・
「なんだろ?あれ・・・・カエル?」
悪い気がしなかったから何も言わずにいたら
奥で悲鳴が上がった・・・・・翔くんだった(笑)
