『あなたに触れてもいいですか?』



今も君の声が頭の中でこだまする




僕が君を認識したのはかなり最近で
君が僕と変わらない頃から
ここにいることをその時初めて知った

人に興味の無い僕に構う変わった奴

それが第一印象だった

目ばかり大きくて身体は小さく
でこっぱち・・・クスッ

纏わりつかれるのが
そのうち当たり前になって
いつも一緒にいた

何も言わなくてもわかりあえて
空気みたいな・・・そんな関係
だった・・・

目には見えないけれど
それが無いと・・・生きていけない
大切なもの


僕はいつしか君を一人占めしたいと
思うようになっていった

誰かと話す姿にイラつき

誰かに微笑む姿に嫉妬し

誰かに触れるたび心が悲鳴を上げる


僕は・・・一体どうしてしまったのか
ずっと考えて
考えて・・・
考えて・・・

出した答えは

僕から君を排除することだった

君は周りからの人望が厚く
これからを期待される人
こんなところで燻ぶるような人間じゃない
だから・・・
これが最善なのだと
言い聞かせた



楽しい時間は終り
現実に向き合う新しい時間が始まると
君は僕を悲しげな瞳で
ただ・・・見つめることしかできないでいた


あるとき僕の心が壊れた

君を排除した穴を埋めるため
手当たり次第に恋をした
正確には・・・恋する振りをしていた
男も女も相手に困ることはなかった
その日で終わりにするものもいれば
何か月か付き合うものもいた
どれも味気の無い行為に反吐が出そうになりながらも
君を僕の中から追い出したかった


ただそれだけのために・・・
僕は無駄な時間を費やしていた
君と向き合うこともしないで
自分と向き合うことを恐れて




何年かが過ぎ
君は僕より大きく成長した
上から見下ろされるたびに
あの頃の
楽しかったころの二人を
思い返してしまう

変わらぬ思いで僕を見つめる
その瞳に
幾度となく手を伸ばしてしまいそうになるのを
必死で抑えた


君にはもっとふさわしい人がいる


そう言えたのなら・・・

もっと早くに自由を与えられたのに
浅はかな僕のエゴで君を知らぬ間に
縛り付けてしまった


僕の心は壊れたまま
誰にも修理なんて出来やしない
君の抜けた穴の大きさが
今になって・・・棘となり
僕の胸に深く刺さりつづける

意気地のない僕は
たった一度の小さな蕾に
花を咲かすこともなく

僕の中の

初めての・・・恋に

別れを告げる

君に覚られ無いように

そっと

そっと

そっと・・・



別れの朝

『あなたに触れてもいいですか?』


君が僕にそう囁いた



積年の想いは溢れる雫となり
止めどなく頬を伝う

言葉が出なかった
何も思いつかない

ただ・・・

ただ・・・

目の前の愛おしい人を
見つめていた・・・・


このままその胸に飛び込み
たくましいその腕に包まれたのなら
どんなにか・・・・


悦びで満たされる瞬間を思い描く
それだけで・・・よかった

君が僕を愛でてくれた瞬間が
あっただけで
それだけで心が穏やかになっていく


僕は
大きく首を横に振る

君は一瞬
その黒曜石のような瞳を
曇らせ・・・
物憂げな表情で僕を
見つめる・・・


君と僕との距離が少しずつ
離れていく

後ずさりする僕に君は今にも
泣きそうな顔になる

「笑って・・・翔くん」


君は笑顔が一番似合う

泣きながら笑ってくれた君の

最高の笑顔・・・忘れない

最高の笑顔を・・・





『あなたに触れてもいいですか?』


今も君の声が頭の中でこだまする
















2015-03-24-18:40:27