「・・・大野さんのことなんだ 」



静かに松潤が語り出した・・・



「 病室に何度か足を運んだ時、翔さんの話がまるで

出てこなかった

最初は、あえて話さないようにしているのかと思って

こっちもそれに合わせていたんだ」



「・・・・・・・・。」



指先がだんだん冷たくなっていくのが分かる

松潤の話を聞きたくないと思っている自分を

必死で押さえつける



「それで・・・退院の日わざと聞いてみたんだ

どっちに送ればいい?って・・・・そうしたら大野さん

家は何軒もないって・・・自分のマンションに帰るって・・・

なんで、俺の家に来たのかでさえ・・・覚えていなかったんだ

多分・・・一時的な記憶障害だと思う」




「・・・・・・・。」



天を仰ぎ思わず瞼を閉じる・・・

両手は血の気が失せ爪が皮膚に食い込むほど

きつく・・・きつく握り閉めていた




長い沈黙が続く・・・・・




虚ろな瞳に今にも溢れだしそうな泪をためている

そんな翔さんを見ていられなくて視線を外せば




もう一人の存在が目に飛び込んでくる


翔さんには似つかわしくないそれら・・・






瓶に入れられた色とりどりの筆先

転がるスケッチブック

奥の部屋から覗く大きなキャンバス

チラシの裏の落書き・・・・

アニメマンガに・・・画集





いつの間にか俺の目にも


熱いものが溢れていた・・・・





ここで過ごした幸せな時間を


なんで・・・忘れちまうんだよ!!





ふと顔を上げると翔さんと目が合う



泣きながら笑っている




「松潤・・・お前が泣くな!ばかっ」



クシャっと俺の頭をなで


・・・・サンキューな


と、小さな声で翔さんが囁いた





大野さん・・・・・戻ってきて


翔さんのところに・・・・・早く!





そう願わずにはいられなかった・・・・・