「大野さん・・・起きて!時間ですよ」
ニノに起こされて寝ていたことに気づく
翔くんの声が一瞬聞こえた気がしたけれど
夢だったのか現実だったのかよくわからない
熟睡はしていなかった気はするけど・・・
何を言っていたのかまでは分からなかった
隣にいって
話す時間がなくなってしまったことは
非常に残念に思った・・・
話したいことたくさんあったから
楽しみにしていたのにな・・・
気づけば俺はジャケットを掴んでいた
・・・・?
「これって、翔くんのだよね?」
翔くんのよく使う香水がふんわり香る
「もしかしてかけてくれたの?」
そう言って翔くんの方を見ると
新聞から一瞬だけ目を離し
「うん」と言っただけで
黙って立ち上がるとジャケットを取りにきた
その顔に笑顔がなかった・・・
無言で受け取る翔くんを見て
なんだか急に不安になる
いつもの弾けそうな笑顔で俺を見てくれているのに
俺の好きな笑顔が・・・・
消えていた
声をかけようと口にしかけたところで
スタッフが始まりを告げに来てしまった
結局、なんの話も出来ないまま
モヤモヤした変な感情だけが残っていた
それが何なのかなんて
分かるわけもなく
自然と尖って行く唇を
ニノにいじられながら収録が始まった
撮影の合間にふと翔くんを見ると
目が合う・・・よく合うのだけれど
そのたびにフイッとそらされてしまい
仕事上の絡みの時以外は
話すらしないまま収録は終わった・・・
「・・・・・翔くん?」
小さな声で呟いた俺の声は届くはずもなく
撮影が終わると同時にスタジオを出ていく背中を
見送るしかなかった
楽屋へ戻るとそこに翔くんの姿はすでになく
ボーっと立ち尽くしている俺にニノが声をかけてきた
「翔さんと話しました?」
「えっ?な、なんで・・」
「順番からすると今日あたり翔さんなのかなって思ったので(笑)」
ニノ・・・・
「いや、寝ちゃって翔くんが来たのだって気づかなかったから・・・」
「翔さん、結構早い時間に入ったみたいでしたけど、起こさないように
気配りでもしてたんでしょうね・・・大野さんの様子見つめながら」
「見つめながらって・・・。そう言えば・・・俺、何かしたかな?
今日・・・全然笑ってくれなかった」
そう言って塞ぎこむ大野さんは、
小学生のような幼さと、危うさの入り混じった
複雑な顔で宙を見つめたままじっとその場から動くことはなかった
帰る前にもう一度声をかけては見たけれど
「先に帰っていいから」って依然としてボーっとしたまま
それが何故?なのか解るのには、まだスパイス必要ですかね?
微笑まない相手が他のメンバーだったら
そこまで落ち込まないだろうに
自分の事にはホント鈍感なんだなぁ、二人とも・・・(苦笑)
部屋を出たところで
中の様子を伺っていたJにそっと囁く
「どうする?気づいちゃう前に何とかしないと
この人たち二度と離れない関係になると思うよ
今ならまだ攻め時かもしれない・・・保証はしないけど」
軽く肩をたたき
その場を後にした・・・・
Jがその後どうしたのかは
分からない
ただ、あの人の愛し方も深いから
もがき苦しんでいるのはみな同じ
なら、大野さんが気づかない間は
平等でいいはず・・・
大野さん・・・決めるのは
あなただ・・・素直になれば自ずとわかること
ただ、人は弱い・・・
弱いんです・・・・