
智くん・・・・
全然目を合わせてくれない。何で?
俺なんかまずいこと言ったか?
例えば・・・って期待しちゃいけなかったのか?
智くんの口から『イヤダ』って聞きたかっただけなんだ
ひょっとして、そんなこと考えてるの
俺だけなのか?
一緒にいる = 一生涯
にはならないのか?
将来を夢見ちゃいけないんだろうか?
智くん・・・・
式はまだ続いているが、セキュリティー上の関係で
最後まではいられず、途中で退出をする予定になっていた
それもあってか、以前憮然とした表情の智くんを
気にしつつ、席を立つとどういう訳か
出口とは反対の方向に行ってしまった
そこは、会場の中・・・・
とめる間もなくひな壇にいる彼女に向かっって、
つかつかと歩き出す
一瞬のことで俺は何が起こっているか理解できず
ただ、ことの成り行きを呆然として見ていた
湧き上がる歓声、一斉にたかれるフラッシュ
彼女の近くまで来ると
新郎に一言二言
彼女に何やら話しかけ一瞬躊躇した表情から
一遍、視線を俺に向けた
その顔は、花嫁にあらず
夜叉のような形相に変り
俺に向けて放たれたであろう言葉を
確認する・・・
もちろん声になんて出来ないような言葉を。
『ク・ソ・ッ・た・れ!!!』
そう、見て取れた・・・・
智くんは司会者から渡されたマイクを手にとり
言葉を選びながら丁寧に祝いの言葉を伝える
ゆっくりかみしめるように
それを聞いているうちに、智くんの
思いが伝わってきた・・・
俺は・・・何をした?
智くんになんてことをした?
自己満足のために安易に言った言葉
智くんを試すような言葉
どっと押し寄せる後悔の波
呆けてる俺をよそに慌てて駆けつけるマネージャーに
連れられその場を去っていってしまった
歓喜の拍手に送られ・・・・
マネージャーに声をかけられ我に帰る
俺は・・・・・おおバカだ!!
急いで智くんの後を追いかけようと
居場所を確認すれば、もう帰ったとの返事
智くん・・・・
ごめん!俺・・・・・
どうにもならない焦燥感が俺の心を支配していく
取り返しのつかないことをしてしまったかも
そんな不安だけが広がって行った・・・