
マンションにタクシーが着いた急いでエントランスを駆け抜け
翔くんが待っててくれることを期待して
エレベーターのボタンを何度も押す
ドアが開き、部屋へ行く通路に出るが、
翔くんの姿は・・・ない
・・・・鍵持っててくれたのかな。
中で待っててくれてるのかな・・・・
もしかしたら別のところ?
それとも・・・・・
急に足取りが重くなる・・・・・
ドアが開かなかったら・・・・
もう俺から連絡できない
翔くん・・・・
ドアノブにそっと手をかけてみる
ゆっくり下ろしていく・・・・
ガチャガチャ
虚しく響く鍵音・・・・
翔くん・・・・・
待てなかった?
それともここへは来ていなかった?
どこにいるんだ、
ここじゃなかったんだね
もう会えないのかな?
翔くん・・・・・
直ぐ行くって言ったじゃん・・・
呆然と立ち尽くすしか
できないでいた・・・
それは突然起きた・・・

ドアが中から開き
すごい勢いで腕を掴まれ
引きずり込まれる
とっさに身構えるも
気が付いたら・・・
懐かしい香りに
抱きしめられていた・・・・
薄暗い中で
冷たく濡れた唇が俺に重なり
ゆっくりと温まっていく
どれだけ泣いていたんだろう
ぐしゃぐしゃだ

そっと背中にまわした腕から
震えているのがわかった
力いっぱい抱きしめる
いちど離れた唇からは、掠れた
泣き声が聞こえてきた
「くっ・・・・」
翔・・・
「うれしいよ・・・待てってくれたんだね」
「さ・・とし・・・くん・・俺は」
「・・・一人にしてゴメン。翔くん、」
「・・・・・さと・・しくん?」
ゆっくり腕を振りほどいて
翔くんの頬に手を伸ばす
そっと包んで涙をぬぐう
「翔くん、顔よく見せて・・・」
いつの間にか、涙が溢れていた
ボヤケてよく見えないよ・・・
翔くん・・・・翔くん・・・・・
もう一度力いっぱい抱きしめる
お互いを慈しみながら、歓喜の泪に濡れて
心が満たされていった
ずっと欲しかったもの
かけがえのないもの
何で手放そうとしたんだ
俺は、俺らしくいればいい
それがどんな俺でも
翔くんにとってはきっと
同じなんだろう
変わらず側にいてくれる
それが一番嬉しいから・・・・
ただいま翔くん・・・・
