「推し」という言葉が散見されるようになってから久しい昨今。
今やオタ活界隈のみで使われるスラングの域を超え、日本全国津々浦々、老いも若きも毎日のように使っているに違いない。
そんな便利なことば「推し」
主な用途は「推しが尊い」など、主語となるケースが多い。
この場合、おそらく
(自分の)推し(ている人・モノ)が尊い
といった具合に括弧内が省略されていると考えられる。
であれば、「推し」の原形「推す」はサ行五段活用の動詞なので、「推し」は連用形ということになる。
動詞の連用形を名詞的に用いる例はごまんとある。
ではなぜ「推し」という表現に新鮮味があったのか。
たとえば「貸し」や「借り」という表現がある。
「俺はアイツに貸しがある」
「彼にかつての借りを返さねばならない」
といった風に使う。
それぞれ
(自分が)貸し(ているもの)
(自分が)借り(ているもの)
の省略形と考えられる。
活用の種類は違うが、どちらも連用形だ。
ただ、「推し」と決定的に違うのは
主語として用いていないという点だ。
「貸し」も「借り」も、あくまで目的語である。
「推し」は三人称の主語なのである。
動詞の連用形を主語に置くことで、その言葉の意味合いが強調され、かつ動作の主体となるため人間味が増すという、一種の擬人化のようなカラクリになっている。
いま一度肌で感じてほしい。
「推し」という表現から伝わってくる質感と立体感を。
余談だが、「分かりみが深い」のように使われる「〜み」も、本来は形容詞を名詞的に使うための表現だが、これも同様に動詞の連用形と組み合わせることで、動詞を形容詞的に用い、話し手の感情と動詞の絶妙なハーモニーを上手く表現している。
※尚、今では名詞(専らキャラや人名)に「〜み」をつける表現もある。
ここまで見てきてお気づきかと思うが、連用形というのはヒジョーに便利なのである。
ちょっとお堅い話になってしまったが、連用形を普段の会話で活用することで、トレンディーな言葉の使い手になってみてはいかがか。