大分前になりますが、小椋佳作詞・作曲で布施明が歌って大ヒットした「シクラメンのかほり」という曲がありました。1975年の日本レコード大賞に選ばれた曲です。
私の大好きな歌の一つで、カラオケのレパートリー曲の一つに入れてよく歌ったものです。
特に歌詞が素敵で、シクラメンという花はこの歌がきっかけで覚えたぐらいです。
ここに歌詞の一部をご紹介しましょう。
真綿(まわた)色した シクラメンほど
清(すが)しいものはない
出逢いの時の 君のようです
ためらいがちに かけた言葉に
驚いたように ふりむく君に
季節が 頬をそめて 過ぎてゆきました
薄紅色のシクラメンほど
まぶしいものはない
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
ところが、先日花の英語名を調べていて、たまたまシクラメンが出てきました。
シクラメンとは学名Cyclamen persicumのCyclamen(英語の読みはサイクラメン)をカタカナ読みした名で、和名は豚饅頭(ブタマンジュウ)とか篝火花(カガリビバナ)と呼ばれているそうです。
あのシクラメンの別名が、「豚饅頭」??、 そんなバカな!
そこで、早速調べてみました。すると次から次へと興味をそそられることが出てきて、作者の小椋佳氏にはまことに失礼ながら、オリジナルとは似ても似つかぬ私流の解釈が出てきました。
そんな「珍説シクラメンのかほり」をここで皆様にご披露したいと思います。
ここは、しばし、お付き合いのほどを・・・。
まず、「豚饅頭」ですが、これは、明治期に欧米からこの花が伝わってきて、その英名“sowbread(メス豚のパン)”を「豚の饅頭」と和訳したためにそうなったらしい。これは欧州(原産地は地中海)ではその球根を豚の餌として使っていたところからついた名のようです。
「篝火花」は花が「篝火のようだ」とさる高貴なご夫人が言われたところからつけられたものらしい。これは至極妥当な名だと思うが、なぜかこの和名は今では殆ど使われなくなっている。
そこで、余興としてこの歌詞のシクラメンのところを「豚饅頭」に置き換えて歌ってみると、それだけでニュアンスががらりと違ってくることに気づかれるだろう。ちなみに、英語のsowには米スラングで「ブス」の意もある。
まず冒頭部分の、「真綿色した豚饅頭ほど清しいものはない」と歌っても清々しさは感じられない。「清しいもの」を「食べたいもの」と置き換えた方がよほどしっくりくる。
そして「出逢った時の君が豚饅頭のようだった」と言われても彼女はかなり引いてしまう、というよりも、怒りだすのではないか。 事実この曲は、作者の小椋佳氏が自分の妻の「佳穂里」(かほり)に宛てた愛の賛歌であり、美しいシクラメンを妻に見立て、妻の名を付けたと推測する説があったらしいが、小椋氏は「それ(家内の名前が込められていること)を聞くと家内は怒りますよ。それは俗説です」と妻への賛歌は言下に否定している。
そして、英名のsow breadのsowは大人のメス豚のことであまり良いイメージではない。たとえば、「うりのつるになすびはならぬ」ということわざの英訳は、“You cannot make a silk purse out of a sow's ear. ”(雌豚の耳から絹の財布はできない)となっていて、「雌豚の耳=品質の悪いもの」、「絹の財布=品質のいいもの」で、メス豚は品質の劣るものと特定している。 こんなものに譬えられた、しかもsowの俗語が「ブス」だと妻が知ったら怒るのは当然ですよね。
さらに豚饅頭みたいな彼女に向かって「ためらいがちに かけた言葉」がどんな言葉だったのかわからないけれども、例えば「きれいだね」ぐらいのことを言ったとしたら、言われたことがない彼女が「驚いたように ふりむく」のも無理からぬことではないか。
でもそんなきれいごとも、「季節が(変って) 頬をそめて(秋の紅葉が深まって) 過ぎてゆきました(終わってしまった)」のです。 それは、この花が秋から春にかけて咲く「冬の花」であることから、この恋が春を待つことなく、早く終わってしまったのだろうと推測できる。
さらに付け加えれば、この曲の発売当時にシクラメンの花に薄紫色はなかったし、また、シクラメンには元々香りはなく、まれにあっても極めて薄いことから妻君の名の「佳穂里」と花の「香り」を重ねるのは無理がある。 なお、この歌のヒットをきっかけに薄紫色のシクラメンも、香りのあるシクラメンも開発されて今はどちらもあるらしい。しかし、小椋佳は元々薄紅色も香りもないことを知っていて作詞をしたのであろうか?
それとも単なるイメージだけで作詞したのだろうか? 本人に訊いてみたいですね。
そもそもこの花はその名前から、「死」「苦」との語呂合わせ、花の赤色は血をイメージするなどで病院への見舞いにこの花や鉢植えを持っていく事は縁起が悪いとされている(鉢植えは「植え」が「飢え」、「根付く」が転じて「寝付く」となる語呂合わせのため)。
そんな花を恋歌に仕立て上げ、大ヒットさせた小椋佳の非凡な才能に今更ながら頭が下がる思いです。
以上
