お久しぶりです。「Binding of Isaac: Repentance」がSwitchで販売されたためプレイしたところ、このブログを書いてたことを思い出して再び筆を手に取りました。
それで、一通り全エンディングを見たのですが、ストーリー考察について再考の余地があると感じたので今回はその記事となります。
ネタバレ注意!

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これから各エンディングを述べながら詳細を分析することになるが、
長くなるのでまず結論から先に述べよう。

① Binding of Isaacのゲーム世界はIsaacの意識の中の精神世界であり、また死後の世界につながる煉獄でもある。つまりオカルトの設定を認めている。
実際には地下室など存在しない。Isaacにとっての深淵に潜っているだけなのである。
また、時系列は混濁しており、過去と未来が混じり合っている。

② ママは常時 Isaacを虐待している状態であり、ナイフを持って殺しにかかった話はその一部を誇張した虚構・被害妄想に過ぎない。
ママが虐待した理由はおそらくIsaacに奇形があり「罪に汚染されている」と感じたから、そしてパパが窃盗を働く罪深い人間だったからである。

③ Isaac自身は家庭を破壊したのは自分自身だと思い、己の罪深さを憎み、死を願い、あるいは自分自身の出生の否定をもしようとしたが、はたしてそれが正しいのかどうかのためらいもあった。そういった心の中の決断の数々が、Binding of Isaacのゲームのプレイ数であり、その過程で死んでしまったIsaacはモンスターになってしまうし、あるいは救われて昇天したり悪魔になったり、もしかしたら店員にもなっている。Isaacに立ちはだかる敵はそういったすでに死んでしまったIsaacたちであり、ストーリーは幾度となく運命を変え続ける物語なのである。

④ 最終エンディングの父子の会話と思われるものは、神とIsaacの象徴的な会話であり、実際に起きたのは不幸のうちに死んだIsaacが運命を変えることに成功し、温かい平和な家庭に生まれ変わったのだ。

というわけでその根拠をこれからエンディングをたどりながら説明しよう・・・。
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参考文献:

「Binding of isaac」 FANDOM Wiki
Title Sequence
https://bindingofisaacrebirth.fandom.com/wiki/Title_Sequence

「Binding of isaac」 FANDOM Wiki
Ending
https://bindingofisaacrebirth.fandom.com/wiki/Endings


■タイトルシークエンス
ゲーム起動前のタイトル前に、どうしてIsaacが地下世界に入ることになったのかが、下記ナレーションでらくがきと共に語られる
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丘の上の小さな家で、母と二人暮らしのIsaac。母はキリスト教のテレビ番組を見つめていてIsaacはおもちゃで遊んでいる。
生活は貧相だったが幸せではあった。
しかしある日、母に謎の声がささやきかける。
「お前の息子 Isaacは罪に堕落した。彼は救われる必要がある。」
それを神の声と思った母は「はい、神よ、仰せのままに」と答えてIsaacからおもちゃを取り上げ部屋に監禁する。
しかし謎の声は続いて、母に信仰心を試すために「Isaacを生贄に捧げよ」と命じる。
母はナイフを手に取りIsaacの部屋に入ろうとする。
Isaacは恐怖に怯え、生き残るために部屋を探し回った結果、カーペットの下の地下への扉を見つける。
Isaacは母に殺される前に扉に逃げ込み、地下への冒険が始まる・・・。
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・考察
モチーフは言うまでもなく旧約聖書の創世記22:1-19におけるアブラハムとイサク(Isaac)の生贄の話である。
ある日、アブラハムが神に「息子を生贄に捧げよ」と恐ろしい命令をくだされ、苦労してできた子を生贄に捧げるのか、と葛藤しながら手に掛けようとするエピソードに由来する。
旧約聖書では神がアブラハムの信仰を試すために行っており、殺す寸前にアブラハムの手を止めているため、イサクは生き延びた。
Binding of Isaacにおいては母も同様に神のような声に導かれているが、客観的に見ればおもちゃも身ぐるみも剥いで監禁するなど(一応信仰の名目で)虐待をしている。ナイフもその行き過ぎた結果とも言えるものである。また、後々の展開が示すとおり、Isaacは死んでいるので神が止めもしなかった。
余談だが、Isaacのアイテムから考察すると、Isaacから取り上げた「この世の存在」にゲームそしてタロットカードが取り上げられているのではないかと思う。
特にタロットカードはキリスト教とは違う異教のもののため、信仰心の強い母からは「忌むべき物」と捉えられても不思議ではない。

このタイトルシークエンスで重要なのは、ナレーションと手書き絵で語られているということである。
というのも、後続のエンディングムービーのほとんどが違う作画のアニメーションで描写されるので、ここの物語が手書きの世界線の話だからである。
つまりこの話が本当かどうかが次でわかるのだ。



■エピローグ?
最初のラスボス The Momを倒すと現れるエンディング。
ここでは次のエピローグが語られる。
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Isaacはとうとう母に追い詰められる。
Isaacは必死に神に祈った。すると奇跡が起きた。
聖書が落ちてきて母の頭に直撃したのだ。
母は死に、Isaacの勝利!
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ここまでタイトルシークエンス同様、ナレーションと手書き絵で語られているが、シーンが切り替わり、それらの絵がIsaacが描いた落書きであることが明らかになる。
理想的な物語を描いたことに悦に浸るIsaacだが、扉が開いてナイフを持った母が現れ・・・・。

・考察
先ほど手書き絵のタイトルシークエンスが違う世界線であることを述べたが、つまりこれらはIsaacの作った絵本の物語であることが明らかになる。
物語は最終的に狂った母が聖書の奇跡によって退治されるような内容だったが、それが嘘だったのだ。
これがIsaacの作った物語だとすると、「母への復讐を夢見て悦に浸るIsaac」の様子から察するように、彼は母から常日頃虐待を受けていた事が示唆される。
虐待によって粗末な生活をしていたことは、Isaacのアイテムを見ると非常によく分かる。夕食!と称されたアイテムが缶詰だったり腐ってたりしてたのを見ると、母親からは料理された食事も無く、ろくな生活を与えられてなかったことが示唆されるのである。


■ママの心臓撃破後 (エンディング1~11)
困難な子宮ステージを乗り越えると、そこには宝箱がある。その宝箱にはいろんなものが沢山入っており、開けるたびにその中身は変わっていく。
自由に別人になれるEdenのヘアスタイル、セメント、首吊縄、コートハンガー、吐き気薬、実験薬、25セント、Dr Fetus・・・ただしIsaacは愚かなのか、自分を傷つける使い方をしたりもする。
また、母の手に引きずり込まれることもあるし、
箱の中に自分の死体があったりもする。
最終的に箱の外に、自分に似た胎児(It Lives!)が現れる。

・考察
一旦最終ステージなので、しばらくこのステージにとどまり続け、何度もママの心臓を撃破することになる。
考察上このシーンで重要なのは以下の3つ。
・このエンディング以降は必ずIsaacは「宝箱」に到達する。
⇒当然今後示唆される宝箱の窒息死を表す。
・ママの心臓を撃破し続けた結果、未来/過去の自分を象徴する胎児と遭遇する。
⇒これはIt Livesの実績解除時に「将来の過去が待ち受けている」という文章があるためである。
・Isaacは変身願望がある。
⇒反出生主義ともつながるが、Isaacの自己の否定がこの作品のひとつのテーマである。

一つ別の観点の考察もあげよう。
Isaacはピノコのように畸形嚢腫持ち、もしくは結合双生児で、かつて死別した兄弟がいたのではないか、という考察である。
この根拠として、同じく結合双生児である双生児ボスのGeminiやBlighted Ovum(枯死卵、妊娠中発育が停止した状態になる病気のこと)やTeratoma(畸形嚢腫)の存在があげられる。
また、Isaacの僚機として胎児の形をしたbabyがいる点である。(ちなみに製作者McMillenの前作Super Meat Boyの宿敵は胎児である。)
またIt Lives!(生きている)という名前のボスに与えられた「将来の過去」という二つ名である。It Livesは明らかに妊娠した胎児そのものであり、これがIsaacの内面世界にあるということは、Isaac自身が胎児を意識する出来事があったのではないかと考えられる。そして双子ボスがいることからも、Isaac自身が結合双生児で一方がすでに死んでいたと考えることができる。
この考察を更に裏付けるポイントとして、信仰深いママがIsaacを悪魔の業と関連付けて虐待していることである。悲しいことだが、しばしば奇形や障碍というのは宗教的なレッテルを貼られる傾向がある。日本でも、先祖が悪い子としたからバチが当たったという言葉があるように。
Isaacももしかしたら出生時になにか異常が起きて手術をしたことで病める信仰深き母親が狂ってしまった可能性がある。



■サタン撃破後(エンディング12)
箱を開けた時、Isaacの姿はかつてのプレイヤーキャラクター(Cain, Magdalene, Judas, Eve, Azazel)に変化する。部屋も変化し、自室と戻った時彼は呆然とした表情で宝箱に入る。

・考察
選択できるプレイヤーが全てIsaacである事がここでも明らかになる。無論、ここで語られるまでもなく、すべてのエンディングで必ずIsaacで出演するので容易に考察できる側面でもあるが。
一つ強調しておきたいのは、Isaacルートとサタンルートで運命は分岐しており、それぞれ善のルート、悪のルートとして分岐しているということである。
これの根拠は後々それぞれのボスを3体倒したあと、ママのボス撃破後に出てくる写真アイテム「ポラロイド」と「ネガ」である。それぞれのアイテムに「運命は選ばれた」という説明が入る
上記アイテムはエンディングに関わるため、エンディングはつまり、今回プレイしているIsaacの運命、ルートを定めているということがいえるのだ。

で、サタン撃破後である悪のルートでは積極的に宝箱に入っている。
キリスト教において自殺は罪であり天国に行くことはできない。
この作品において、宝箱に入るということは窒息による自殺を暗示するので、罪を犯しに行くということである。それがあの間の抜けた表情に反映されているのであろう。
もしかしたら己の身を悪魔に捧げようとしてる、ということかもしれない。


■Isaac撃破後(エンディング13)
聖書を開くIsaac、しかしその鏡に映るのは罪深い悪魔を暗示する黒くて赤い目の姿。
Isaacは憂鬱そうに宝箱を見つめている。

・考察
このルート単体だと少々意味不明だが、サタン撃破エンディングの考察と組み合わせると理解できる。こちらは聖堂ステージにいくため正義ルートといえるので、自殺という罪に対して、Isaacは良心に目覚めて躊躇しているということである。
また、Isaacが己のことを罪深い存在だと自己認識していることもいえる。



■???撃破後(エンディング14)
宝箱の中に沢山の写真が現れる。
家族。
母と、母にそっくりのコスプレをしたIsaac。
悪魔の影が映るIsaac。
仲睦まじい父母。
一人ぼっちのIsaac。
宝箱で泣くIsaac。
ナイフを持つ母親。
去っていく父親。

そしてこのエンディング唯一の「THE END」の文字。

・考察
THE ENDが映るということは、これがいわば一つ目の正史のノーマルエンドといえる。そもそもあらゆるエンディングに共通する、「Isaacは宝箱に入って死んでいる」ことが宝箱ステージの???ボスによって暗示されている。
また、ラスボスの中でもIsaacと???は昇天し救われる形で死亡する。つまり贖罪の意味合いを感じる。
また、他のエンディングについては実際に終わっていない、という可能性も示唆される。そうなればエンディング以降のIsaacはずっとループの中で生きているということにはなる。これは死後Isaacがモンスターに化けているという考察からも言える。
写真については、
・昔は平和だった家族から父親が去った事、
・母がIsaacに母の姿を強要していること、
などのIsaacの外部の世界のストーリーが明らかとなる。
特に「母がIsaacに母の姿を強要している」ことは、Repentanceのエンディングにおいて重要な伏線となる。いくつかのアイテムにある通り、ウィッグをつけて彼は母のコスプレをしていた。それはいったい何故か・・・?


■The Lamb 撃破(エンディング15)
家の外に迷子のポスター。探し回る母の姿。

・考察
母はナイフでIsaacを痛めつけた可能性はあるが、とどめを刺したわけではないことがここで明らかになる。なぜならIsaacが生きている前提で探しているからである。本当は宝箱の中で死んでいるがそれに気づかずに失踪したと思い込んでいるのである。
さて、迷子のポスターはアイテムとして登場する。これはThe Lostというプレイアブルキャラクターの解禁に必須であるが、Isaacはそれをゲーム世界内で見つけてしまう。
しかしそうすると宝箱で死につつあるり外に出れないIsaacがどうやって迷子のポスターを認知するのだろうか?という謎が発生する。
つまり、Isaacが宝箱で死んでいる状態を正史とする限り、このゲーム世界は単なるIsaacの無意識の象徴や悪夢などではなく、外部の現実世界と何らかの接点を持っている霊界ということになる。もしくは幽体離脱して外部の世界をすでに見ていて、それが骸になりつつあるIsaacの夢として反映されている。いずれにせよ、何らかの霊的な超常現象が現実で起きていることになる。
もしかしたらこのエンディングの視点は幽体離脱したIsaacの視点なのかもしれない。


■メガサタン 撃破(エンディング16)
宝箱の中で息切れするIsaac。そばには猫のGuppyのしっぽ。
それが交互に悪魔の姿と入れ替わり、やがて悪魔の唸り声になっていく。

・考察
???やThe Lamb撃破でも書いたが、ここでも悪に堕ちた側のIsaacは敵側に陥っていく事が示唆される。特にこのエンディングは悪魔の親玉を殺してしまったので、恐ろしい存在に成り果てていることになろう。
なお、猫のGuppyのしっぽがあることから、宝箱にIsaacの愛猫と思われるGuppyの死体があると考えられる。実際、黒い宝箱の中にGuppyのアイテムが現れるし、実際Guppyアイテムは蝿と関わりがあり、腐乱してると思われる。


■Hush 撃破(エンディング17)
The Lambエンディングの続き。迷子のポスターが貼り付けられ、母はふと蝿が群がる宝箱を発見する。恐る恐る箱を開けるとそこには白骨死体が・・・。
一方箱を開けたIsaacはなぞの白い世界に飛び出してしまう。ここはどこだろうと思ううちに、Isaacの影が肥大化し、悪魔の翼となる。

・考察
時系列的には母は相当時間を経て宝箱の存在に気づいたことになる。
つまりこれはそれほどまで開けたくない宝箱だったのだ。その理由は後ほど明らかになる。
またIsaac側で描かれてる世界は明らかに煉獄である。煉獄とは大悪とはいえない罪を犯した人が贖罪のために閉じ込められる、地獄のようで地獄でない空間のことだが、キリスト教通りに考えればIsaacはそれなりの罪を犯して死んだことにはなる。なぜなら自殺者は天国に行けないとされているからである。
煉獄であることは作者が名言してるとのこと。


■Ultra Greed(ir) 撃破(エンディング18-19)
ついに黄金求めて洞窟にたどり着いたIsaac。しかし洞窟が崩れて生き埋めになってしまう。
その結果ズタ袋のような無残な死体に成り果てる。しかしそれはIsaacがショップ行くときに出会う店員の姿そのものであった。

・考察
店員もIsaacの成れの果てということがいえる。つまりこれまで何となく示唆されていた「この世界では大量の死んだIsaacがいる」ことが明らかになる。
この世界の敵、ボスもほとんどがIsaacの変化したものと考えられる。
パワーアップアイテムによる変化等で敵の姿に近くなるものがいくつかある。吐き気薬やクモ、ムリガンなどが代表的であろう。
なお、店員を爆弾等で殺すと「敵1体をキルした」扱いとなって、キルによってパワーアップするアイテムなどに反映される。つまり、Isaacは店員であり、店員は敵オブジェクトである。


■Derilium撃破(エンディング20)
Isaacは宝箱の中で息切れしている。その中で走馬灯のように様々なシーンがかけめぐる。
落書きに楽しむIsaacと、夫婦喧嘩の声。落書きにはWe LIVED HERE(私達はここに住んでます)の文字。
泣く母親。
父親の顔が焼かれた写真と、写真が沢山入っている宝箱。
壁に書かれた絵。左から順番に、猫や父親と楽しくするIsaac、夫婦喧嘩、女装するIsaac、悪魔になるIsaac、家族を殺す悪魔と絵の内容が荒んでいく。

そして箱の中の白骨死体。
迷子ポスターは剥がれ落ちてどこかに行く。
そしてIsaacのような人影がどこか白い世界の遠くを歩いている。

・考察
ボスであるDeriliumは「せん妄」を意味するため、ほぼ死ぬ直前のIsaacの意識下のエンディングである。
そしてThe Lamb、Hushエンディングの補足およびその続きである。
これまで示唆されていた宝箱の中での窒息死がここで明らかになる。
またIsaacはさんざん夫婦喧嘩を部屋の中で聞いていたことも明らかになる。
またその関連で自分を悪魔だと責めていると示唆できる箇所もある。

そして、宝箱には父親を含む写真が入っていることも明らかとなる。
これが母が宝箱を探さなかった原因であり、Isaacが自殺場所として選んだ理由でもある。
また、IsaacはおそらくHushエンディングの煉獄?と思われる空間でどこかさまよっている、ということであろう。はたしてIsaacは永遠に救われないループの中にさまよい続けるのであろうか・・・。

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ここまでが、Afterbirthで描かれたエンディング内容である。
以下からRepentanceのエンディングである。
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■Mother撃破(エンディング21)
母「Isaac、あなた何を描いているの?・・・見せなさい。」
描かれているのはRepentanceの別ルートのボスであるMotherの醜い姿。
母「これが私?どういうつもり?モンスター?」
Isaac「違うの、違うの、僕はただ・・・」
母「あなたには私がこう見えてるの?私がモンスターだって?じゃあモンスターらしくこうしてやるわ!」
Isaac「やめて、ママ、やめて!」
部屋に監禁されるIsaac。
母「ほんとあなた父さんに似てきたね。もうあなたなんか見たくない・・・」
そして泣きながら母は「天にまします我らの父よ・・・」と祈る。

すすり泣くIsaac。部屋のそばには宝箱。Isaacの背後に悪魔。

・考察
母の虐待の動機がここで明らかになる。母はIsaacの父を憎んでおり、父に似てきたIsaacを「悪魔に惑わされている」と考えるようになったのである。
また化け物のように描くIsaacを父に似てきた、と言ってきたあたり、夫婦喧嘩の一つにそのような侮辱を何度もされたのではないかと予想される。
こちらを正史とすると、タイトルシークエンスで描かれた物語はほぼIsaacの被害妄想や作り話に近いといえる。母は悪魔に囁かれて突如虐待をしたのではなく、精神を病んだ状態で離婚したため、悪魔=父に似たIsaacを虐待したということだ。
母が精神的に病んでいることは、ピルがパワーアップアイテムで化粧台やポーチから入手できることから読み取れる。通院しているのだ。
そして宝箱のある部屋の背後に悪魔が微笑むということは、母が病んでいることとは別に真の悪魔が微笑んでいるのかもしれない。Isaac自身の悪魔が・・・。
また重要なこととして、母が父に似ているIsaacを嫌悪しているということは、母がIsaacに自分そっくりに女装のコスプレをさせた理由がコレということである。
もう一つ、Isaacの敵は肥満体、いわゆるデブに対する悪意や嫌悪感が強いデザインのキャラクターばかりであるが、もちろん作者のキッチュな表現の一つではあるのだが、Isaacが母をぶくぶくの化け物に描いたあたりを見ると、母を念頭に置いているのではないかとも考えられる。
母が怖い敵になるのは、容赦なく産み、容赦なく殺していくChubや、Widow(寡婦)というクモのボスからも見て取れる。

■昇天中
エンディングではないが、The Beast戦のルートを歩く時に今までのルートを遡る際に夫婦喧嘩が聞こえる。ストーリー上重要なので下記翻訳(やや意訳)を記載する。

父「お金使い果たした。無くなった。すまんががんばって欲しい。」
母「どういうこと?無くなったってどういうこと?貯金をどうやって使い果たしたの?」
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母「Isaacが自己破壊的で荒れてる・・・あなたみたいに。良い模範がいるからでしょうね。それで、ほら、また酔ってる!」
父「マギー!黙れ!」
母「じゃあ出ていって!あなたがいなくなっても大丈夫だわ!あなたが自分を見捨てたように家族を見捨てて頂戴!」
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母「あなたは悔い改める必要があるの。罪を告白して救われる必要がある。主の光の中に迎え入れてください。あなたの魂を清め・・・」
父「お前は正気じゃない!やりすぎだ!」
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母「あなたどこにいくの!あなたが必要なの!父親が必要なのよ!」
父「俺は良いことどころか悪いことばかりしている。これ以上どうすることもできない。すまない。」
母「お願い・・・いかないで・・・!」
父「すまない、Isaac・・・。」

・考察
Isaacの家族の模様がここでわかる。つまるところ、父は飲んだくれで浪費家のクズであり、それを母のマギーは「自己破壊的」と呼び、Isaacの良い模範になってるね、と嫌味を言っている。これはつまり、罪に溺れる父親を軽蔑するママということである。
そして一方母も狂っており、極度な信仰に走りIsaacを追い詰めている。これにより我慢の限界となった父が母を捨てて家を出ていった、ということである。
Isaacがただただ可哀相だな

■The Home
昇天後にIsaacの部屋にたどり着く。周りには悪魔の魔法陣の落書きがある。
通常ベットのある部屋はカーペットを爆破すると地下につながるが、ここでは何もない。
宝箱がある。
小部屋とテレビつけっぱなしのリビング。次の廊下には隠された戸棚(赤い鍵のみで見られる場所)がある。
そして母の部屋で眠る時、一緒にテレビを見る夢を見るが、そのテレビの内容がおかしくなる。
Isaacがリビングに戻ると、テレビの砂嵐から胎児が現れ・・・。

■Dogma撃破ムービー
テレビの中のボスDogmaを撃破した後、ノイズの十字架がIsaacの目の前に現れる。そしてそれは目の前に倒れIsaacを取り込む。
涙がノイズの状態のIsaacの周りで世界が崩壊を始める。Isaacの姿はForgotten、???、The Lostの姿に一瞬切り替わり、翼を生やしたIsaacの目の前に見えてきたのは大きな恐ろしい化け物The Beastであった・・・。

・考察
まずThe Homeで重要なのは、Isaacの部屋に地下に通じる部屋などない、ということである。ここからも、この昇天に至ったときにタイトルシークエンスの物語が完全な虚構であることが初めて明かされるのである。
またテレビの中のDogmaは母を狂わせたキリスト教番組を意味する存在と考えられる。このシーンによりIsaacも同様にその番組を見ていた事がわかる。Isaacに言わせれば母を惑わした悪魔はテレビの番組なのである。
Dogmaの意味も「グループによって定められた一連の規則、信念、または意見で従うべきもの」という意味であり、宗教的な抑圧を暗示している。


■最終エンディング(The Beast撃破)
下記の物語がタイトルシークエンスと同様の落書きとナレーションで描写される。
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空に光が降り注ぎ、大淫婦を打ち砕く。ビーストは血の湖に沈み、Isaacは天に上昇する。その時様々な過去の光景が流れた。
母が死んだ息子を見て泣く光景。
父がさよならも言わずに去る光景。
母が眠る隙に父が金をかすめ取る光景。
Isaacは自分のせいで両親が喧嘩していると思っている。
胃が痛くて眠れぬ夜、クローゼットで待ち受ける彼の影が見える。

しかし、上昇するうちに恐怖や悲しみが抜けていく。彼の上昇はさらに速くなっていく。
彼の唯一の仲間(猫のGuppy)が生きていて元気だった。
父と母が抱き合っていた。
祈りを捧げた後、母がIsaacの頭をキスし、誰かが見守ってくれてることに安心感を感じた。
自分の誕生とそれを祝福する両親の姿を見た。
そして・・・彼は何も見なかった。
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父「この結末でいいのかい?Isaac。君が描いた物語だ。こんなルートである必要はない。他の結末で考えてみないか?ハッピーエンドで。」
Isaac「いいよ、パパ。」
父「よかった。眠いかい。」
Isaac「うん。」
父「OK。こほん。Isaacとその両親は小さい家に住んでいました・・・」
タイトルシークエンスのような映像が流れてフェードアウトする。

・考察
大ボスのThe Beastをナレーションは大淫婦と呼んでいる。このThe Beastは黙示録13-1に登場する獣の象徴であるが、よく見ると母の服のようなものを着ている。
いわばIsaacの母への恐怖の具現化ともいえるものであるが、これに打ち勝ったときに、Isaacに走馬灯がめぐり、時間を遡行するようになる。
そして死体を見て悲しむ母親から、かつて平和だった家までの歴史を見ていくのだ。
つまりは幽体離脱的な現象が起きており、The Lambラストにおける行方不明ポスターが幽体時にみた出来事であることが示唆される。

ところがここまでの話が、なんとIsaac自身が作り上げた作り話だったかのように、ナレーションとIsaacが会話する。そもそもナレーションはIsaacの父親だった。
「こんなエンディングでいいのかい?ハッピーエンドにしないのかい?」と尋ねられ、ナレーションは今度は両親がいる前提の物語を始めてしまう。

このエンディングが何を意味するのか、が考察の難しいポイントなのだが、
まず現実的な落としどころでパッと思いつくのは、結局今までのはいわゆる王道ファンタジーでよくある内面の世界の物語であり、真実はパパのメモを見たIsaacがパパの元に向かい、パパは再婚していたというパターンである。これなら一応、両親がいる前提で物語が始まる点でもつじつまが合う。そしてIsaacは自分自身のモチーフにした物語を作り、パパが読み聞かせていたのだ。
ただ違和感が多い。例えば、Isaac自身の作った物語でIsaacの父親はかなりクズ野郎みたいな描写がされていたにも関わらず、父親はそれを感情的に害することも制止することなく、あくまでIsaacの選んだルートとして客観視しながら物語を語っていることである。ナレーターと、Isaacの実際の父親は少なくとも当事者性が低いように感じられるのだ。
また、宝箱で死んでいるとこれまで何度も強調された構成が崩壊することにもなるし、そのような夢オチな結末だと、周回前提のゲームシステムで浪費した時間が全部無かったことになる。
Hushエンディングでも述べたが、作者のMcmillenがHushエンディングの場所について「煉獄である」と名言しているので、Isaacの死が無かったことになるのは違うような気がする。

というか、Binding of Isaacは周回することもストーリーの一部として作用している。いわゆるループ説である。
この根拠に、ボスを倒すことでアイテムがアンロックし、それが次のルートで役に立ったりすることもあるからだ。
このことは例えば、複数キャラクターが同じくIsaacであるというエンディングが完全にそれを示唆している。最初にIsaacから始まり、ルート中の様々な条件でキャラクターを開放してまたスタートする。
つまりIsaacは何度も死んでるし生き返ってるし、死体は敵になるし、やり直しを何度もしている。つまりはプレイヤーとして挑戦し続ける限り周回しているのである。
(余談であるが、作者のMcMillenの前作Super Meat Boyは、Meat Boyが瞬時に蘇る特性がそのままボスになったり能力になったりすることがあるので、こういったループ説がIsaacでも仕込まれてるのは当然でもある。)

ここで逆の考え方をしてみる。Isaacは周回させられているのではなく、周回したかったのである。周回する必要があったのである。それはなぜか。
まず、Isaacは己を罪深い存在と認識していた。Mom's Heartを撃破したときに現れるIt Lives!は「将来の過去」である。つまり胎内にいたIsaac自身とも考えられる。(そもそもBinding of Isaacに登場する敵はほとんどがIsaacかMomのどちらかに分類可能に思える)
これと対峙しようとする、ということはIsaacはまず自殺によって己の生を根源から否定しようとした、といえる。
また、Hushエンディングから考えられるようにIsaacのいるところは「煉獄」とも考えられる。天国にも地獄にもいけない魂が永遠にさまよう場所だ。その幻影の中を絶えずさまよっているという考察である。
いずれにせよ罪悪感で苦しむIsaacは何かを変えたかった、これがミソである。

そんなわけで、一つ提案したいのは、例えば???がIsaacを倒したときに「運命を変えるサイコロをもらう」というアンロックがあったようにに、
Isaacは最後のボスを撃破することで天の救いにあずかり、運命の改変に成功した、という考え方でどうだろうか。

IsaacはThe Beastを撃破したことで神(物語を書く立場)と同じポジションになった。
そして今度は両親がいる次元から物語が再始動するのである・・・・。

・・・ではなぜ最後のナレーションの世界が神の位置だとして、なぜそこに父親がいるのか。
非常にシンプルな解釈を求めるなら、キリスト教で言うところの「神」は父を意味することが多いので、Isaacと神の対話という説である。ここでは物語を作るIsaacと父親という形でたとえ話のように世界の再生が促されているということだ。
個人的には父親はもうこの世にはおらず、首をつって自殺したのではないかと思っている。
根拠として、骨であるForgottenがUltra Greedを倒すと父絡みのアイテムを入手できるからである。
Ultra GreedやGreed、ショップキーパーは皆首を吊っている。
また、父親は母から金をかすめ取るなど強欲(Greed)な一面がある。
つまり父親の末路をIsaacは知っていて、家を出ていった後首を吊って死んでしまったのではないか、そしてIsaacと同じ霊界にさまよっていたのではないか?と思うのだ。

無論、強欲が首をつるのはイスカリオテのユダの象徴という向きもある。実際彼は銀20枚でイエスを売った後首を吊って自殺したからである。
しかしながらそれも含めて、Isaacは父親のことをユダと捉えたのではないだろうか。
実際に家を裏切ったのは彼である。またユダが登場すること自体、もし父親が首吊り自殺したならば、Isaacは母も知らなさそうな父の死因を知っていることになるのだ。

そんなわけだが、最後父とIsaacが健やかに会話しているシーンの安堵感は、Isaacのその後の運命が明るいことを示唆していることになる。最終的にはこの不幸な物語はそれなりに幸せになっていくのであった。