本プレゼンのオプションとして、感覚がとても敏感な子供(ASDとHSC)の特徴と必要な支援の方法について紹介します。いずれも先天性の大人になっても変わらない特徴ですが、ASDが“障害”であるのに対してHSCは“気質”とされています。ASDは主に学校で人間関係上のトラブルが起きやすく、HSCは主に悩みを抱えやすかったり家庭で親に登校を渋ったりしやすいものです。


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・改めて「自閉症スペクトラム障害(ASD)」(出現率約3%)の特徴について紹介します。
・まず五感刺激に対する感覚過敏について。聴覚、臭覚、触覚、味覚、視覚のいずれか(複数ある場合もあり)に対して過敏に反応します。中でも一番多く見られるのは聴覚、つまり音に対する過敏性です。
・それに加えて以下の特徴が見られます。
①「周囲との関係性の弱さ
②「周囲とのコミュニケーションのずれ
③「こだわりの強さ
それぞれ以下に乳幼児期に顕著なものを紹介)
  1. ①「周囲との関係性の弱さ」について
     例えば、親に懐かない、周囲のペースに合わせられない、あやしてもあまり笑わない等の特徴が見られます。
  2. ②「周囲とのコミュニケーションのずれ」について
     例えば、言葉の発達が遅い、抑揚のない一本調子の話し方をする、難しい表現の言葉を話す等の特徴が見られます。
  3. ③「こだわりの強さ」について
     例えば、いつもの生活習慣が変わることに強く抵抗する、同じものを集めたり並べたりするのが好き、興味があることにはとても詳しい、一番になることに過度にこだわる、思った通りにならないと怒りだす等の特徴が見られます。
・以上、いずれも感覚過敏の特性から常に周囲からの刺激に悩まされ不安感を抱き警戒しているためと解釈できます。例えば、「周囲との関係性の弱さ」は相手に対する警戒心があるため。「周囲とのコミュニケーションのずれ」は警戒する周囲とやり取りすることに抵抗感があるため。「こだわりの強さ」は自分の世界に頑なに閉じこもることで周囲からの刺激から身を守ろうとする防衛本能の表れではないでしょうか。

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・次に、今紹介した自閉症スペクトラム障害への具体的な支援の方法について。
・特に気を付けることは、「 共感』『配慮』『安心』に気を付ける」ということと考えます。以下に一つずつ説明。
◯「共感」とは、子供の特性に共感することです。特に子供を苦しめているのは感覚過敏の特性から生まれる不安感に対しては、これまで繰り返しお話ししてきた“母性による共感”が大切です。具体的には、「…ちゃんのことで安心できないんだね」「急に変わってびっくりしたんだね」「一番になりたかったんだね」「上手に書きたかったんだね」等の共感の仕方が考えられます。
◯「配慮」とは、子供の特性に配慮することです。これについては、まず、前のスライドで紹介した3つの特性(①「周囲との関係性の弱さ」②「周囲とのコミュニケーションのずれ」③「こだわりの強さ」)を尊重して、無理に直そうとしないことが大切です。これらの特性は、その子供が生まれながらに持っている特性であり、それを直そうとするのは、まるで生まれつき身体的ハンデを持って生まれてきた子供に「きちんと歩きなさい」と促しているようなものです。また、五感過敏の元になる刺激軽減することも必要です。例えば、大きな音を小さくする、苦手な料理は食べさせない、肌触りのいい服を着せる、嫌な臭いは消す等のような工夫が必要です。これは例えるなら、車いすで生活する人のために段差を無くす等の配慮に当たります。
◯「安心」とは、日常的に子供に安心感を与えることです。具体的には、努めて安心7支援(「まとめプレゼンテーション5」参照)で接して安心感を与えることです。安心感が十分になると、「3特性」が(完治はしなくても)緩和します。この「安心」が無いと、どんなに「共感」や「配慮」の支援をしても効果が現れない場合が多いです。「共感」や「配慮」はある意味支援の“技術”であり、安心感を与える「安心7支援」による母性が全ての土台であることは、一般の子供と何ら変わりません。

 

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・次に、「人一倍敏感な子ども(HSC)」の特徴を紹介します。
・このタイプは約20%つまり5人に1人の子供に見られます。ただし、このHSCについてはASDの自閉症スペクトラム“障害”とは異なる、単なる「気質」として捉えられています。
・この考え方が日本に初めて紹介されるようになったのが2015年と最近であるという事に加えて、正式な病気や障害ではない為、学校教育でもあまりマークされていないのが現実のようです。しかし原因不明の長い登校拒否に陥るケースにはこのタイプの子供達が多いようですから注意が必要だと思います。
・まず五感刺激に対する過敏性があります。これは自閉症スペクトラム障害と同じなのでここでは省略します。HSCの場合はそれに加えて、他者への共感性、創造性のある思考力、外部刺激を受け止める感受性、我慢して環境に適応しようとする順応性が、それぞれ、普通の人よりも強い傾向を示します。

・まず他人の気持ちに敏感に反応する強い「共感性」について。
他人の気持ちを損ねないように過度に気をつかってしまいます。例えば親が「忙しくて子供の話を聞くのが面倒」等と思っていたり、普段から「自分の力でがんばりなさい」等と自立を求めていたりすると、子供はその気持ちを敏感に察知して、親に話しかけることができなくなってしまいます。その事が親に「手のかからない良い子」「思いやりのある良い子」等という誤解を与えがちです。
困っている人がいるとまるで自分の事のように悲しみ傷つきます
他者の本音矛盾を察知して傷つきやすいです。例えば親の都合から「それくらい我慢しなさい」等と無理強いさせられると強いストレスを感じてしまう等ということが見られます。

・次に高い「創造性」を持つ思考力です。これはプラスに働くことが多い特徴です。
・物事を深く考え子供らしからぬ大人びた発言をする事があります。
場の空気を和ませるユーモアのセンスもあります。

・次に外部からの刺激に敏感に反応してしまう強い「感受性」。
人や状況から受ける刺激をネガティブに受け止めてしまうため精神的に疲れやすいです。そのため学校から帰ってきて、しばらくぐったりして横になっているというようなこともあります。
失敗を過度に恐れ、ちょっとした事で精神的なダメージを受けやすいです。この「ちょっとした事」と言うのは、例えば成績が下がった、体型をからかわれた、人前で体調不良になった等のいわゆる完璧が崩れた時等です。
・大人や友達が発する強い口調の言葉を嫌いますし、みんなの前で褒められる時に周囲からの視線を集めることも苦手です。
・「良い子にしていないとお化けが出るよ」「ちゃんとしないとお小遣い無しだよ」等のいわゆる“脅し育児“も厳禁です。
・なお先ほど紹介した「ユーモアで場を和ませる」という言動も、実はもめ事の無い平穏な環境が崩れる事に耐えられない為にしていることがあります。
・友達が学校で忘れ物をした為に先生から厳しく叱られる様子を見ているだけで「自分は絶対に忘れ物できない」と過度に緊張するようなことがあります。

・我慢して環境に適応しようとする「順応性」。
学校での環境の変化や強い刺激に対しても我慢して順応しようと努力します。しかしその分自分の中にストレスを溜め込んで、ある日突然家庭の中で不満を爆発させる事があります。

・「気の散りやすさ」という二次的な症状もあります。これは些細な刺激に過敏に反応してしまう特徴の為にたくさんの事に気が付き過ぎて注意散漫になってしまうものです。
・一方で安心できる環境にいる限り高い集中力を発揮します。因みに子供がHSCであるかどうかを確かめるうえでは「HSC子育てあるある~うちの子はひといちばい敏感な子~」という本が全て4コマ漫画で描かれていて分かりやすいですし、本人がHSCであるかどうかを調べる設問も掲載されています。



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・このHSCへの具体的な支援の方法について。

・この場合も、乳幼児期のきめ細やかな世話によって愛着を形成した子供が一生に渡ってストレスから守る「基本的安心感」を獲得する事はもちろん、普段から親が信頼できる「安全基地」になり“安心貯金”をするのが何よりの心の支えになる事も他の子供達と何ら変わりません

・それ以外には「子供の気持ちを尊重する」ということが何より大切です。例えて言うなら「職場の同僚や大人の知人に接するように」と考えると分かりやすいと思います。なぜでしょうか。ここでは、前のスライドで紹介したHSCの特徴に沿って説明したいと思います。(スライド参照)因みに、「一生幸せなHSCの育て方」(時事通信社)の著者である公認心理師の杉本景子さんも、ネット記事「繊細な子に『スパルタ教育』は絶対NG【専門家に聞く】」(https://news.yahoo.co.jp/articles/c639065cd6864829876d983fc8a35bd9eaa1fa48)の中で、「HSCに対しては『子どもだから』という考えを捨て、ひとりの人間として誠実に接してください」と指摘しています。

・五感刺激への過敏性については、ASDと同じように本人にとって不快な刺激を取り除いたり軽減したりします。決して無理強いをしてはいけません。

・HSCの約20%という出現率は、全部で23個の設問に答えて基準値である13個以上に当てはまる子供の割合を表しているもので、当然のことながら、その13個には満たないけれども1個当てはまる子供から12個当てはまる子供達も大勢います。つまり、HSCと診断された子供の気持ちに寄り添うことは、実は基準値未満の子供達にとっても優しい配慮であり、HSCの子供達は、まるでその“子育ての基本”を私達に気付かせてくれているかのようです。いっそのこと全ての親がHSC支援で子供に接していれば、本プレゼンで取り上げている愛着不全症状が生じることもないはずですし、子供の気持ちが大人に近づく反抗期にも、わが子を子供扱いして反発に苦しむこともなくなるでしょう。

・とは言え、HSCの子供に配慮するべきことが、一般の子供に比べて多くなることは否定できません。例えば、まだ乳児の頃に癇癪持ちで大泣きしても、その時期がただでさえ生理的早産によって完全無防備な状態にあるということに加えてHSCの感覚過敏という特性も重なるとなれば「おそらく針で刺されているような苦しみに襲われて泣いているのだろう」と察してやる必要があるでしょう(ただし「うちの子供はなぜこんなに泣くのだろう」「私の世話の仕方は悪いのではないか」などと思い悩むよりはずっと安心できる)し、また、親が言いがちな「人に迷惑をかけてはいけません」「弱音を吐かないで頑張りなさい」「人に頼らないで自分の力で解決しなさい」等の“自立”を強く求める叱咤激励も極力避けるべきだと思います。更に「自分の事より相手の気持ちを優先できるなんてなんて優しい子供だろう」等と誤解せず、できるだけ早い時期に、「嫌なことがあれば遠慮しないでお話しするんだよ」ということを伝えておくことも必要でしょう。

・なおHSCの子供がストレスを溜めるのは、親御さんが油断して“子供扱い”するためです。逆に「安心7支援」、更にその中でも「子供の話を最後まで否定せずに聞き、共感する」の支援に気を付けて親に本音を言えるようにさえしていれば、逆に“人一倍心優しい”素敵な大人に成長します。先に紹介した杉本景子さんも「HSCの話を聞くのに、特別なスキルはいりません。ごくごく普通に純粋に話を聞くことができれば良いのです」と指摘しています。

最後に、あるHSCのお子さんのご家族のエピソードを紹介します。


 不登校を経験したAさんは、小学校2年生の時に、ある日突然、学校に行けなくなりました。そんな兆候はそれまで全くなかったので、家族は口々に「どうして行かないの?」とたずねました。が、当時のAさんは、理由をたずねられるのが嫌で、言葉で説明することもできませんでした。

 しかし、20代になったある日、お母さんにこんな風に話しました。「最近、思い出すんだけど、小学生の時、いつも大きな声で怒る先生がいたの。他の子が怒られてる時も、ずっと動悸がしてた。ある日の授業で、学校のベランダに花の種を植えることになったんだけど、私、種の処理の仕方を間違えてしまったの。このまま植えたら、私だけ芽が出なくなって先生に怒られちゃう。怖くなって種をこっそりベランダから捨てたの。でも、捨てたことがバレたらどうしようと思ったら、気になって気になって、さらに苦しくなって学校に行けなくなっちゃった……」。大人からすれば、些細なことに見えても、当時の繊細なAさんにとっては、絶対に口に出せない秘密だったのです。

 さらには当時、Aさんのお父さんがお母さんに「学校なんて行くのが当たり前なのに、お前の育て方が悪いんだ!」と怒鳴っていたり、祖父が毎日のように「あの子はなんで行けないんだろう」とお母さんに問いかけたりするのをAさんは耳にしていました。悩み苦しんだお母さんは、近所の人に相談し涙することもあったそうです。そんな家族の様子が、さらにAさんを追い詰め、ますます身動きがとれなくなっていったのかもしれないと、今、Aさんのお母さんは振り返ります。

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 このお子さんは、おそらくHSCだと思います。もしも、HSCが親御さんの育て方によるものではなく、先天性の気質であり、そのための接し方もあるということが知られていれば、このように苦しむご家族もないのだろうと思います。