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これまでは、一般論ばかり並べてきましたが、ここからは、具体的な生活場面を事例として扱いながらお話しします。まず初めに、代表的な6つの生活場面での支援のあり方を説明し、最終的には、ある3つの生活場面に集約して、それぞれの場面で父母両性の働きをどのように使い分ければいいかを説明することによって、煩雑な子育てを「いつ?何を?」というシンプルな形にまとめます。
子育て中のご夫婦を対象に行ったある調査によれば、子育てに対する悩みとして、「勉強しない」「言うことを聞かない」「コミュニケーションがほとんどとれない」等が挙げられています。しかし、これらはどれも母性と父性の使い分け方に要因があるものですから、この章での内容は、とても大切なものになると思います。



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・このスライドでは、本章での指導を考える準備として、これまでお話ししてきたことを整理しています。

・まず子供の様子は、子供が何らかの問題を抱えている場面と、親と愛着で繋がり安心感に満たされた結果、問題が解消され前向きな活動ができる場面とに分けられます。ここでは、それぞれ「不安場面」「活動場面」と呼ぶことにします。

・それぞれの場面で陥りがちな愛着不全症状は、愛情不足による「回避型」愛着不全と愛情過多による「不安型」愛着不全であり、そこでの支援方法は、子供を受容する母性としての「安心7支援」と子供に社会的自立を促す父性としての「見守り4支援」でした。

・それぞれの子供に見られる具体的な生活場面は、「不安場合」では、登園・登校を拒む、不適切な言動が繰り返し行われる、約束の時間を過ぎてもテレビを見ている、「イヤイヤ」をする、スーパーの中で「あれ買って~」と駄々をこねる等。「活動場面」では、子供が遊びや趣味等に熱中して取り組んでいる、既に一人で活動できる課題(身支度、手伝い等)に取り組んでいる、自分でできるようになろうと努力している等です。

・精神科医の岡田尊司さんは、この「不安場面」のような問題を抱える子供と愛着を結んで安心感を与えると、子供は自分の力で「活動場面」のような健全な状態に移ることができるとして、「愛着アプローチ」という手法を提唱しています。私はこの自ら移るこの力を「自力回復力」と呼んでいます。

・親御さんの中には「いくら注意しても子供が言うことを聞かない。どうしたらいいか分からない」と悩んでいる親御さんがいらっしゃいますが、この「自力回復力」の考えによれば、子供を叱らなくても「安心7支援」によって子供に安心感を与えさえすれば、子供は自ら問題を解消し、親が望む姿に変わることができるということになります。たとえ不登校事例であっても、子供が安心して心の傷を癒せる環境を親が提供した場合、親が学校に引っ張っていくようなことをしなくても、ある突然「明日から学校に行く」等と言い出すような事例はいくつもあります。

・子育ての中の生活場面はあと一つあります。それが子供がリビング等でくつろいでいる場面、ここでは「日常場面」と呼ぶことにします。ここで子供に働きかける支援は「安心7支援」ですが、このことについては第4章でお話しします。

・つまり子供は必ず3つの場面のどこかにいて、支援方法は「安心7支援」か「見守り4支援」のどちらかのみであるということが言えます。以後、この表を「子育て三場面表」と呼ぶことにします。

・この表は父親と母親が、自分の最低限の役割を果たすべき場を自覚する際の目安になると同時に、一人親家庭の親御さんが、自分の中で母性と父性のスイッチを切り替える際の目安にもなると考えます。

・ところが、昨今の子育て場面では、母親の方が立場が強かったり、逆に父親の方が強かったりする家庭が見られるようです。子供は、この母性と父性とがバランスよく作用しないと健全に育つことはできないので注意が必要です。




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・先ず、「場面①」として、先ほどの「子育て三場面表」の「不安場面」にいる、何らかの問題を抱えた子供への支援について、ここでは、朝、登園時に母親から離れようとせず泣く子供を事例に考えます。
・先の「子育て三場面表」によれば、登園できないという問題を抱えている子供に対して施すべきは、子供の目をきちんと見て「寂しいんだね」等と穏やかに話しハグしてあげる等の、子供の不安な気持ちを受容する母性の働きだったでしょうか?それとも「がんばって行きなさい」等と、子供の社会的自立を促し指導する父性の働きだったでしょうか?
・この場合の自立を促す働きかけは、ある意味、泣いて困っている子供に対する「突き放し」にさえなってしまうものであり不適切です。一方、子供を受容する行為は、不安感に襲われている子供に安心感を与え「自力回復力」を発揮させる働きです。
・その結果、子供は「お母さんは、自分の不安な気持ちを分かってくれた」と受け止め、「行けそうな気がしてきた」と思うかもしれません。その時にたどり着いた場面が、問題が解消され前向きな探検行動を行うことができる「活動場面」です。
・児童青年精神科医の佐々木正美氏によれば、子供は自分がピンチに陥った時こそ親がどう行動するかを観察しており、「親は自分の気持ちを分かってくれた」という実感を持てた子供は自分の気持ちを理解して、大切に育ててくれる、この親の言うことを聞きたいという気持ちになるとのことです。往々にして「注意して子供にこちらの言うことを聞かせよう」と考えがちな私達が子育てを行う上で、これらの指摘ほど大きな意味を持つものは無い最大のキーワードになります。
・以上のことから、この場面のポイントは、「無理に登園を促さないで、先ずは子供の不安な気持ちに共感し、スキンシップを図る」となります。
(これ以後もこのスライドと同様のチャート図で支援の流れを紹介。それによって皆さんの中に子育てに対するイメージが少しずつ培われていくことになる)
 



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なぜ朝保育園で母親と別れる時などに泣く子供がいるのでしょうか? 実はそこに、「養育者の内在化」という心理現象(「愛着が形成され、養育者のイメージが子供の意識の中に内在化すると、養育者が目の前にいなくても、そのイメージを自分の心の中に呼び起こすことができる」)があると考えられます。この「養育者が心の中にいる」という感覚こそが、親との愛の絆、即ち、愛着で繋がれている感覚そのものです。
・子供が目の前にいない親を恋しがり泣くということは、それまでの養育者のイメージが定着するだけの愛着形成行為が不足していたことの表れと考えられます。
更に、心理療法家の網谷由香利氏が「『0歳児』という最も母子を分離してはいけない時期に分離させてしまい、本来は母子を分離しなければならない時期に適切に分離できないでいる親子が非常に多くなっている」と指摘していることからも、母親の愛情を受けるべき時に受けることができないでいると、“保育園への登園”という母子が分離しなければならない時期に子供が母親と離れられなくなるというケースが生じるということが分かります。
・つまり、今子供が泣いて登園を渋るのは、明らかに親による愛情行為が不足していたためであり、今からでもその不足分を補ってやるしか方法はありません(ガソリンが無くなった車を無理に走らせることはできない)。
・過去何年間にもわたって愛情が不足していたともなれば、その日の朝に行動が変わらない場合も当然あるでしょう。その際は無理強いをせず、その晩にスキンシップを中心に、たっぷりと「安心7支援」(下記記事参照)

を施して、不足していた安心感を補ってあげる必要があります。

・この時に無理に登園させようとすると、子供が「過興奮性」をきたし、特に心配な事がなくても不安感を抱き、何か経験する度にその感情が付きまとうようになったり、脳の自律神経系がダメージを受け、ホルモン系や免疫系の異常をきたしたりするようになることがあるため無理強いは厳禁です
特にお仕事をお持ちのお母さんは、なかなか子供と交わる時間が持てないということも多いかと思います。そんなお母さん方に、児童青年精神科医の佐々木正美氏は次のような助言を送っています。「親子のふれ合いとは、子供と遊ぶとか絵本を読むとかだけではありません。家事をする間『ママにつかまっていなさい』とエプロンの端を握らせておくなどして、好きなだけまとまりつかせてあげる”ことも子供の心を満たす大事なふれ合いです」そうすれば、家事をしながら子供を見て微笑んだり、話しかけたりすることも可能です。
因みに、臨床心理士の網谷由香利氏は、乳児期のうちに母親の愛情が不十分であった場合の弊害は、ここで紹介した登園を渋る幼児期に子供の不安感が解消されなければ、その後多くは子供が親に強く反発する思春期に表れ、それでも解消されなければ、18歳以降に鬱障害や各種パーソナリティー障害等、思春期よりも悪化した状態で表れると指摘しています。鬱や精神疾患が現れるようになれば、長く深刻な引きこもりに陥ることになり、もはや親の手に負えるような状態ではなくなるはずです。つまり、保育園への登園を渋るような早い時期に子供に問題が表れることは、思春期や18歳以降に比べればその解決ははるかに容易であり、幼児期が子供を休ませて愛情のかけ直しをする大きなチャンスであると言えるでしょう。
・ある専門家によれば、小学校に上がってから学校を休ませて愛情のかけ直しをした場合、「赤ちゃん返り」は約3週間で終わり、更に1週間で再び登校できるようになるそうです。そうでない場合でも、子供の「赤ちゃん返り」を拒否せずに受け止めることができれば、期間はかかっても何れ登校できるようになります。就学前であればもっと短い期間で問題は収まるでしょう