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・このスライドでは、なぜ昨今の日本社会の中に、「回避型」(他者との絆回避、共感性不足、暴力的言動、自己表現不得手等)や「不安型」(周囲の評価に過敏、他者の愛情を過度に求める等)という愛着不全症状が生まれたのかを明らかにするために、精神科医の岡田尊司氏の著書「愛着崩壊 子どもを愛せない大人たち」を基に歴史的背景を整理します(特にお父さん方にはぜひ見てほしいもの
・愛着不全の始まりは戦後の高度経済成長期です。この時の日本の工業化に伴う核家族化と、父親が仕事で家を留守にする子育て形態とが背景になって、父親は子育てから離れ、結果的に、母親だけに子育てを押し付ける形になりました。そのことによって、家の中での母親と子供との距離が近くなり、母親が気分次第で褒めたり怒ったり(→「不安型」愛着不全へ)、「ちゃんとしなさい!」「何やってるの!」等と子供を日常的にに否定・支配したり(→「回避型」愛着不全へ)したことが愛着崩壊の最初のステップとなりました。(各愛着不全タイプについては第二章参照)
現在深刻化している「8050問題」の50歳世代はこの高度経済成長期に生まれています。ある調査によれば、引きこもりに陥る理由として最も多いのが、退職後に復帰できなかったこと人間関係上のトラブル”でしたが、愛着不全が、面倒事を避けたり自己否定感を強めたり、更には、人間関係能力の発達を著しく妨げたりすることを考えれば、当時父親が家庭から距離を置き母親だけに子育てを押し付けたことが、結果的に長い引きこもりを生む原因になっていた可能性は十分にあるのです。
更に心理療法家の網谷さんが、長い引きこもりに陥っている成人の原因として乳幼児期の不安感を指摘しているように、この高度経済成長期における不安定な養育が現在の「8050問題」を生み出していると考えて間違いないでしょう。
・また、東京オリンピックをきっかけにカラーテレビが普及したり、技術進歩に伴って家族個々にパーソナルメディア機器が行き渡ったりしたために、家族の視線がメディア機器に奪われるようになりました。そのことによって、家族皆が一方的に流されてくる情報に注意を奪われ、家族同士のコミュニケーションが疎かになってしまい、母性の働きに当たる「安心7支援」の「見る」「微笑む」「話す」等が減少し、結果的に子供が親の愛情不足による「回避型」愛着不全に陥りました。
・更に、オイルショック時に物価が高騰したことや、“自給自足経済”から他人が生産したものを購入して生活を成り立たせる“商品経済”に移行したことによって、家庭ではより多くの購入資金が必要になり、女性も外に働きに出なければならなくなりました。それに伴って、子供を早々に保育所に預け、結果的に子供に愛情を与える時間が以前より少なくなったために子供が「回避型」愛着不全に陥りました。
・しかし現在でも、母親がたった一人で子育てに当たる「ワンオペレーション育児」がまるで当然のように行われ、母親が一人で育児を担うことになった高度経済成長期の育児環境と何一つ変わっていません。現在の核家族の環境にあっては、最低限、育児休業を僅か12.7%(2020年)しか取得していない父親の意識が変わることが不可欠です。もっと母親が安心して育児に当たることができる環境が整わなければ、今後も愛着不全に陥る子供が現れ、特に異性や子供との絆を避ける「回避型」が増えて少子化問題が続くことも、過去の歴史を見れば明らかです子供の幸せは、あくまでも母親の幸せの延長線上にしか成り立たないのです。母親の育児環境の改善は必須であり急務です。