ここから、これまで述べてきた2つの愛着不全(子供の一生に渡る人格不全)に子供が陥らないようにするための具体的な方法についてお話しします。ここでは、今回の二つの柱である「回避型」と「不安型」の愛着不全に陥る原因を基に、私が考えた、父母両性の働きを表すそれぞれの支援方法を提案します。
2章では「子供を厳しく否定してはいけない」「過干渉をしてはいけない」等と禁止の指摘を並べましたが、それだけでは「じゃあ一体どうすればいいの?」という疑問がわいてきます。具体的にどうすることが母性や父性の働きを子供に伝えることになるのかということに注目です。
 


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・このスライドでは、今回の一つ目の柱に当たる「回避型」愛着不全に対する改善策について、母性の働きとしての「安心7支援」という支援方法を提案します。
・「回避型」愛着不全は、第2章でお話ししたように、子供に対する親の愛情が不足しているために陥るタイプです。これを改善するためには、子供に愛情を注ぐことを、愛に支えられた心の絆(愛着)を形成することと捉え、そのための具体的な支援方法が必要と考えました。
・そこで、複数の専門家等が提唱する安定した愛着を形成する愛情行為の中から、ある程度共通し重要と思われるものを私がピックアップしたある7つの支援行為を「安心7支援」として次のスライドのように定義しました。
 



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(以下の内容は本プレゼンの心臓部に当たるものなので若干長めに記載)

・第1章でお話しした、乳幼児期に安定した愛着を形成するために必要な「適切な養育」というのが、母性の働きを表したこの「安心7支援」によるところが非常に大きいです。
・その7つの支援とは、
①「子供からスキンシップを求められた時にはそれに応じる」
②「子供と話す時には子供をきちんと見る」
③「子供に微笑む」
④「子供の話を最後まで否定せずに聞き、共感する」
⑤「子供に指示や注意をする時には、穏やかな口調で話かける」
⑥「子供の中に良さや小さな伸びがあった時には、逃さずそれを褒める」
⑦「以上の中でやると決めたものは、いつも心がける」
・これらの支援内容を見て、「なんだ、当たり前の事ばかりじゃないか」と思った方もいらっしゃったのではないでしょうか。実は、私達は幼い頃に自分の母親の「役割行動」 (母親に特徴的にみられる行為)を見て無意識のうちに母性の働きを学んでいるそうです。仮にこの「安心7支援」の各行為が母親の「役割行動」を表していると考えれば、「当たり前」と感じた人は、幼い頃にご自身の母親が「安心7支援」と同じような「役割行動」で接してくれていて、それを見て既に学びとっていたとも考えられます。そういう方にとっては、この支援は十分実践可能と言えるでしょう。
・一方で、ご自身が子供の頃に先の「回避型」や「不安型」のような接し方をされていた方の場合でも、この「安心7支援」で「本当は親として何をすれば良いのか」ということを知っていただければ全く問題ありません。更に、「安心7支援」のような行為で子供と継続的なふれあい体験をすることによって、育児経験のない男女でさえ「子供に愛情を注ごう」という気持ちが湧いてくることが報告されています。
・実は、どの支援も無意識の内にしたりしなかったりする事が多いです。しかしこのような支援行為が必要だと分かれば、必要なタイミングで意図的に子供に働きかける事ができるようになるでしょう。
・更に、例えば電車の中のような会話がしにくい場所でも、「おしゃべりをしないように気を付けよう」と努力している子供に対して、見て微笑むだけでも「頑張っているね」という気持ちを伝えることができます。つまり支援行為が複数あることから、その場その場出来ることを選んで実践できるというメリットもあります。
・言わばこれらの支援は意識さえできれば誰でも有効な実践が可能、そんな支援と言えるでしょう。

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・精神科医の岡田尊司氏は、たとえ発達障害の子供であっても、親が適切な接し方をすることが改善の鍵を握っているとの旨を指摘しています。例えば、私が以前担任した、ある小学5年生の自閉症スペクトラム障害の男の子は、ある時までは親御さんの厳しい表情に敏感に反応して暴力を振るうこともありましたが、そのお母さんが、当時私が紹介した「安心7支援」と同じような複数の支援の中から「自分にできそうなものからやってみます」と、“微笑む”を選んで実践したところ、その数日後にはすっかりお母さん大好きっ子に変身、つまり親子間の愛着が形成されていました
・この自閉症スペクトラム障害は、その感覚過敏の特性から“究極の安心欠乏症”とも言える症状であり、それだけ極度に安心感が不足した子供であっても「安心7支援」によって劇的に改善したことから、ある程度の不安感ならコントロールすることも可能な一般の子供であれば更に十分な効果が期待できます。
・しかも、そのお母さんがお子さんと話している様子を見ていると、ただ微笑んでいるだけではなく、常に子供を見つめ、話しかける声も明るく穏やかなものになっていました。また、お母さん自身、自分が微笑んだことで我が子の態度が変わったことに喜びを感じ、無意識のうちに他の支援行為も取り入れているようでした。
・そのように、たとえ「安心7支援」の全ての支援をしようと思わなくても、どれか一つの支援を選んで意識して実践すると、親の中に必然的に「子供に安心感を与える支援をしよう」と言う気持ちが湧くため、それに付随するようにおのずと他の支援行為も取り入れられると考えられます(上記事例のように子供の様子が変わればなおさら意欲が湧いて他の支援も行われる)。逆に、微笑んでいるのに子供は見ないとか、微笑んでいるのに言い方は厳しくする等と言う方が無理だと思います。
・個人的には、先のお母さんのように、先ず「微笑む」ことをお勧めします。なぜなら、微笑むことは、「安心7支援」の中で最も日常的に無理無くできる支援だからです。
・更に、もう一つ可能であれば、話を否定せずに聞くもぜひお勧めします。子供の話を聞いて共感することは、問題を抱えた子供に接する際の基本中の基本となるもので、先の「微笑む」支援も、そのことによって親の雰囲気が穏やかになり子供が話しかけやすくなる、そういう環境を作るための布石と言っていいほどです。
・昨今、親に相談できないまま自ら命を絶つ子供の事例が報告されていますが、親が「忙しい」「聞くのが面倒」というオーラを消さないと、感覚が敏感な子供ほど、それを瞬時に察知して相談できなくなってしまうでしょう。
・その後は、慣れてきたら他の支援にも気を付ければ良いと思います。
・因みに、認知症患者との絆や信頼感を作るとされ、「まるで魔法のように患者の症状が改善する」と評判の支援法「ユマニチュード」の柱となる4つの技法(①患者と視線を合わせて見る②ケアの実況をしながら優しく話す③やさしく触れる④立つように促す)も「安心7支援」(①スキンシップ②相手をきちんと見る③微笑む④否定せずに聞く⑤穏やかに話す⑥褒める⑦いつも同じことをする)と酷似しています。つまり「安心7支援」は、年齢、性別、障害の有無や種類に関係なく、対人関係を築くうえでの基本なのではないかと思います。

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・このスライドでは、私が個人的に母性の働きを表すものとして提案する「安心7支援」の働きが、本来の母性の働き(精神科医の岡田尊司氏の考えによる)に沿ったものになっていることを説明しています。(言わば「安心7支援」の品質保証)
・「安心7支援」は「子供の求めに応じてその気持ちを受容し安心感を与える」という重要な点において本来の母性の働きと共通しています。
・更に母性の働きについて以下のことを定義しました。
「母性の働きとは、『安心7支援』の行為で子供の求めに応じることによって、ストレスを溜めた子供に安心感を与えること」
「母性による愛情とは、『安心7支援』によって安心感を与えること」

・ですから例えば、子供に「ちゃんとしなさい」「やめなさい」と怒ることが多いお母さんには、もっと「安心7支援」で子供に安心感を与えてほしいです。お父さんと一緒になって子供を叱りつけず、お母さんだけは「安心7支援」で子供の気持ちを肯定的に受け止める役目をしてほしいです。学校の先生から「お母さん、もっとお子さんに愛情を注いであげてください」等と抽象的な言い方をされた時にも、「『安心7支援』で子供に接して安心感を与えてあげればいいのだな」と具体的に考えてほしいです。

特に母子家庭では、「一人親だから」と意気込むあまり、指示や命令の多い父性が強く表れがちなので注意が必要です。