前回の「前書き」に続き、今回から、実際のプレゼンで提示するスライドの解説を始めます。







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 まず、そもそも私がなぜこのプレゼンの作成に取り掛かったのかについてポイントを箇条書きで紹介します。 

・きっかけは、精神科医・医学博士であり、自身のクリニックでも多くの患者さんの悩みに向き合われている岡田尊司氏のベストセラー著書「愛着障害〜子ども時代を引きずる人々〜」(光文社新書)の以下の指摘を目にしたことです。

「愛着(愛情に支えられた親子間の心の絆)の問題は、従来は、特殊で凄惨な家庭環境で育った子供の問題として扱われることが多かったが、近年では一般の子供にも当てはまるだけでな、大人にも広く見られる問題として考えられるようになっている。」

「しかも、(その一般の子供や大人の愛着問題が)うつ症状、アルコールやギャンブル等への依存症、境界性パーソナリティー障害等の現代社会を裏付ける精神的なトラブル等、今日、社会問題となっている様々な困難や障害に関わっていることが明らかになってきた。更に、離婚や家庭の崩壊、虐待やネグレクト、結婚や子供を持つことの回避、社会に出ることへの拒否(引きこもり)、非行や犯罪と言った様々な問題の背景の重要なファクターとしてもクローズアップされている。」

「しかし、(幼い頃に形成された)愛着がその後の発達や人格形成の土台となることを考えれば(前述のような問題は)至極当然のことであり、どういう愛着が育まれるかということは、遺伝的要因に勝るとも劣らないほどの影響をその人の一生に及ぼすことになる。」


・つまり、特に大きな問題を抱えていないと思われがちな一般家庭で育った子供達が、幼い頃に親から受けた養育によって形成された愛着次第では、将来、上記に挙げたような様々な社会問題を引き起こすリスクがあるということです。
・特に昨今では、「少子化」という日本の未来を破壊しかねない大きな問題が私達の前に立ちはだかっていますが、これも、岡田氏の言うように、結婚や子供を持つことを回避する若者が増えていることの表れであると捉えることができます。世の中には「少子化の原因は、若者の雇用等に起因する経済状態の悪化が原因である」とする考えがあるようですが、岡田氏は、「バブル期であっても出生率が下がり続けていたことから、むしろ愛着の問題の方が大きく影響している」と指摘しています。
・この現象を決定づけるのが、精神医学では「至極当然」とされる、幼い頃に親によって形成された愛着であるということになれば、これは決して目を背けてはならない事実です。このことから私は、「今、具体的にどのような子育てをすれば、子供達が将来健全な生活を送ることができるようになるのか」という問題意識を抱き、このプレゼンテーションの作成に取り掛かりました。

 ここでは、本プレゼンの流れを紹介します。
 第1章では、特に、現実にはあまり知られていなかったり、または誤解されたりしている育児環境等について紹介します。
 第2章では、特に、多くの親御さんが知らず知らずのうちにしてしまっている子供への誤った接し方の2つのタイプを紹介します。
 第3章では、子供を愛着不全に陥らせないようにするために、具体的にどうすることが、母性と父性、それぞれの働きを子供に伝えることになるのか、その方法を紹介します。
 第4章では、家庭の中で見られる6つの代表的な生活場面を事例として扱いながら、煩雑な子育て作業を最終的に3つの場面に絞って、それぞれの場面で父母両性のどちらを施せばいいか?(「いつ?何を?」)というシンプルな子育て法を紹介します。



ある専門家によれば、不登校に陥った子供を持つお母さん方を分類すると、2つのタイプに分けられるそうで、そのうちの一つが仕事の関係等で十分に愛情をかけてあげられなかったタイプだったそうです。ただ、その多くの親御さんが、ご自身は幼い頃に親から十分に愛情を注がれて育っており、そのため本人も母親として母性的な愛情を十分に持っていたそうでしたので、決して「育児から手を抜こう」と思ったわけではないと思います。単に「この時期なら、このくらいなら、子供から離れても成長には影響はないだろう」くらいの気持ちだったのでしょう。しかし結果的には、子供に十分に愛情が伝わっていなかったために不登校に陥ってしまったのです。つまり、「この時期なら」「このくらいなら」というさじ加減が、本来健全な成長のために必要とされる育児条件とは異なるものだったのだと思います。
この章は、その「本来必要とされる育児条件」をご紹介するためのものになります。
 なお「前書き」を読まれた方はお分かりだと思いますが、場合によっては、その事を知らなかったばかりに、子供の人生が大きく変わってしまったということも起こり得ます。特に、子供が1歳半になるまでの時期が愛着形成に重要な役割を持っていることから、この章で紹介する内容は、更にその前、つまり、子供が生まれる前に知っておきたいものです。
 



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・このスライドでは、愛着の意味や意義について紹介します。
・「愛着」とは、養育者と子供とを繋ぐ“愛の絆”のことであり、言わば、愛情に支えられた心理的な絆を意味します。
・子供と愛着で繋がるためには、その養育者自身が子供にとっての心の「安全基地」となる必要がありますが、その「安全基地」によって安心感が満たされた子供は、新しいことに挑戦する、苦しいことにも耐える、人間関係が良好になるように調整する等の様々な前向きな探検行動を積極的に行うことができるようになります。(これが子育ての基本中の基本となる考え。“安心感”こそが問題を抱えた子供が前向きな探検行動を行うことができるようになるためのエネルギーの源
・自分の記憶にも残らないような1歳半までに養育者から愛され、安定した愛着を獲得できた子供は、その後の人生を、周囲の人間を信頼し人間関係を円滑にするだけの「基本的信頼感と、不安な状況下でも「自分は大丈夫だ」「何とかなる」と思える「基本的安心感とに、無意識のうちに支えられて生活することができます。特に、常に社会の中で生きていく人間にとっては「基本的信頼感」は重要で、仮に相手を信じることができないと自分を守るための防衛反応が起きて、相手を攻撃したり(暴言、暴力等)、相手から逃げたり(別れ、転職等)、相手との交流を遮断したり(心を閉ざす、従順等)することが起こりやすくなります。
乳幼児期に獲得された愛着は、別名「第二の遺伝子」とも呼ばれ、先のような漠然とした信頼感や安心感の他に、人間関係能力をはじめとして、自立面(自分の力でがんばる気持ち)、ストレス耐性面(多少のストレスに耐える気持ち)、感受性(他人の言動や芸術等を人間らしく受け止める気持ち)知能面非行や犯罪結婚や子供を持つことの回避精神的・身体的健康面ゲーム・ギャンブル・アルコール等への依存性等、成人後の様々な人格形成に大きな影響を及ぼします。
・特に昨今顕著になっている少子化問題は、正に結婚や子供を持つことを回避する若者が増えていることの表れです。世の中には「少子化は若者の雇用等に起因する経済状態の悪化が原因」とする考えがありますが、先の岡田尊司氏は、「経済的に豊かだったあのバブル期であっても出生率が下がり続けていたことから、むしろ愛着の問題の方が大きく影響している」と指摘しています。