【今回の記事】
「愛着障害の克服〜『愛着アプローチ』で、人は変われる〜」岡田尊司著(光文社新書)

【記事の概要】(記述内容を編集)

 印象深い少女のケース。彼女の産みの母親は、彼女を産んで2週間後、置き手紙を残していなくなった。その後母親は、覚せい剤に手を染め精神科病院に入院していた。

 少女は祖父母に引き取られ育てられた。中学に上り少女はスポーツクラブの指導者と衝突したことをきっかけにして挫折し、不良友達と付き合い始め、夜遊びをするようになった。養父母に対しても反抗的な態度をとるようになった少女は、小5の時に再会していた母親のところに飛び込むが、そこで母親の彼氏にレイプされてしまう。母親は娘をかばうどころか、自分の彼氏をとられたと受け止め「この泥棒猫が」と娘を攻めた。そこから少女の本格的な転落が始まり、1年後には夜の街で知り合った覚せい剤の売人の男と暮らすようになり、その後男の罪を1人で背負って少年院に入る。そんな少女には、薬物療法も、カウンセリングも、認知行動療法も、教育的なアプローチも通用しなかった。

 養父母と少女との面会のある日、意を決した筆者は、面会の前に養父母に会うことにした。そこで養父母に対して、「今日の面会では…………してください」とアドバイスをした。

 面会は終わった。それまで何度となく繰り返された面会でも養父母に決して心を許さなかった少女だったが、その面会を契機に内面的な話を熱心にしてくれるようになった。自分から悩んでいることを持ち出し、そのことについて自分の中で対立している思いを語り、そうすることで、自分で自分の気持ちを整理していったのである。


【感想】

 それにしても、こんな壮絶な人生を送っている子どもがいるのです。犯罪に手を染め少年院に送られるのも当然でしょう。改めて「子どもは親を選んで生まれてくることはできない」ということを私たち大人は自覚し、子どものためにより良い養育を施してあげることができる社会をつくったうえで子ども達の誕生を迎えてあげなければならないと思います。


少女を救ったたった一つのアドバイス

 さて、それにしても岡田氏が少女との面会の前に養父母にしたアドバイスとはいったいどんなものだったのでしょう。

 それは、

「今日の面会で仮に少女が『死にたい』等の否定的な発言をしたとしても、そのことを叱ったり説得したりせず、その気持ちをそのまま受け止め、反論をせず、その話にただ耳を傾けてください

でした。

 この養父母はどちらも生真面目な人で、それまで少女と会うたびに、養母はただ嘆き、養父は道理で説き伏せようとしていたそうです。その時少女は黙って本音を言わないが、言っても言い争いになって決裂決裂して終わると言う状況だったそうです。それだけ相手の気持ちを受け止めるということは難しいのだと思います。

 しかし、この岡田氏のアドバイスによって、少女がそれまでに味わった苦しさを否定せず、ただ聞き、受け止めることに徹したお陰で、人生のどん底を経験したその少女は救われたのでした。


 因みに、このブログ中で提案している「安心7支援」の7つの愛情行為の中に、この岡田氏のアドバイスに相当するものがあります。それは子どもから話しかけられた時には、子どもの話を最後まで否定せずうなずきながら聞くです。もちろん今回の事例では、養父母の方から面会に行ったという状況の違いはありますが、大切なことは「(子どもの話を)最後まで否定せず、うなずきながら聞く」ということです。この「最後まで否定しない」という支援者の“覚悟”が重要なのだと思います。とてもシンプルな心掛けですが、逆にシンプルであるからこそ、意識が一点に集中し、そのことで行動に現れやすくなり、より子どもの心に響くのではないでしょうか。


たった一つの支援が子どもを変える

それはもちろん「聞く」だけではありません。下のような場合は、子どもは「見る」を待っています。しかし、単なる「見る」という行為が親子間の愛着(愛の絆)の形成に影響を及ぼすということが認識されていないために、親自身が自分の行為をコントロールできていないことが多いと思います。


 更に、以前私が担任していた知的障害のある重度の自閉症の子どもの母親は、それまで我が子から暴力を受けるなど、親子の関係に悩んでいましたが、「微笑む」を意識したところ、数日後には見違えるような愛着の修復を果たしたのです。


養父母のある“失敗”の影響は…

 実はこの養父母でさえ、この少女との関わりの中で、ある大きな失敗をしています。

 それは、少女が中学に上りスポーツクラブで挫折し、生活態度が荒れて、養父母に対しても反抗的な態度をとるようになった時に、この養父母は焦ってこう言ってしまいます。

「母親にそっくりだ。母親のところに行ったらいい」

こう言われた少女は「わかった。出て行ってやる」と言い放ち、家を飛び出すと母親のところに転がり込んだのです。このことで、一度は少女と養父母との間の愛着は分断されました。しかし、最後には専門家のアドバイスもあり、養父母の愛情は少女に届き愛着は見事に修復されました。

人間ならば誰にでも失敗はあります。しかし、子どもへの愛情を持ち続けることができていれさえすれば、子どもの心が離れることは無いことが分かります。

 加えて、この少女を救ったのは、実の親ではなく育ての親でした。例えば仮に、今現在の養育者が子どもの親の再婚相手であったとしても、その子どもを思う愛情さえあれば、親子間の愛着も形成できるということですね。