毎年、この時期にお邪魔している、岩手県立大学看護学部の、将来保健室の先生を希望している学生さん方への講義。昨日がその日でした。


 今年の講義のテーマは「周囲から受け入れられにくい子ども達と心を繋ぐ支援の在り方」でした。ここで言う「周囲から受け入れられにくい子ども達」とは、「自閉症スペクトラム障害」及び「愛着スペクトラム障害」と呼ばれる、特に学校生活で、対人関係上のトラブルを起こしがちな子ども達です。
 講義のまとめは、ある事例(子どもが人間関係上のトラブルを起こした仮想事例)を元に、その子への対応の仕方を各自考えて、保健の先生役と子ども役の21組で行うロールプレイング(役割演技)による演習を予定していました。

驚いた学生さん方の反応
 さて、講義が後半に及ぶと、私は時間が気になり出して、あたふたしっぱなし。「こんな話で、学生さんは演習でロープレなどできるだろうか?」と不安になっていました。
 いよいよ演習の時間になり、学生さんが子どもに対するそれぞれの支援の仕方を考える個人作業の時間になりました。私は、「みんなかけなくて困っていたらどうしよう…」と恐る恐る作業の様子を見に行きました。すると、驚きました。「何を書いたらいい?」等と困っている学生さんは一人もおらず、皆集中してペンを走らせているのです。
 更に、驚いたのは、その書いている内容でした。ほんの一例を挙げると、「『さっきの2時間目にこんな嫌な事があったんだ』と話す子どもに『話してくれてありがとう』と言う」と書いている学生さん、「子どもに話す時はゆっくり話す」と書いている学生さんなど、どの人も、単に私の話をなぞって書いているのではなく、講義での話を応用して、既に自分なりの解釈を加えて書いているのです。因みに「話してくれてありがとう」は、「子どもとのやり取りの中で子どもの言動を褒めて心を開かせましょう」と言う講義内容を発展させたものですし、「子どもにゆっくり話す」と言うのは、講義での「微笑みながら聞く」「頷きながら聞く」、という教師の“表情”や“態度”を、“速さ”にまで発展させているものです。また「ゆっくり話す」とは、私がよく口にする「穏やかさ」に繋がるもので、そこに更に、“速さ”という新たな要素を加えるものでもあります。
 その後のロールプレイングでは、大学の講義室が既に完全な保健室になっていました。こんな優しい保健の先生達に話を聞いてもらうことが出来る子ども達は幸せです。

 とても熱心で、しかもとても礼儀正しい学生さん達。あんな風に一生懸命聴いてくれる方々がいるから、また来年も呼んでもらえるようにと、今日からさっそく、昨日上手く流れなかった箇所の修正に取り組んでいる自分がいます。

講義の補足〜親がたった一つでも愛情行為を取り入れると…
 さて、昨日は急ぎ足で通り過ぎてしまった箇所がいくつもあったのですが、実は、この場を借りて、補足したいことがあります。それは以下のスライドの説明の場面のことです。
「この頃、うちの子どもの親に対する態度がとても悪くて困っている」と言う悩みを持つお母さんには、「『安心7支援』(→https://ameblo.jp/stc408tokubetusien/entry-12365150177.html)の行為のうち、お母さんが、できそうと思うものから始めてみてはいかがですか?」と促すのが好ましい、という話を私がした時でした。急いでいた私は、その後「親がたった一つでも『安心7支援』」の行為を取り入れると、子どもはそこに必ず反応して、親に対して好ましい態度を示します。すると、親はそのことで手ごたえを感じることが出来るはずです」という結論だけを話すに留まり、その時の“子どもの思い”を具体的に説明できなかったのです。
 さて例えば、親が「子どもを見る」というたった一つの行為を意識的に取り入れた場合、子どもはきっとこう思うはずです。「あれ?いつもは私が話しかけてもスマホばっかり見てたお母さん(お父さん)が…

今日は私の方を見てくれた」。また、親が「子供の話をうなずきながら聞く」を取り入れた場合は、「いつもは僕が話しかけると『今忙しいから後にしなさい!』と相手にしてくれなかったお母さんが今日は僕の話を熱心に聞いてくれた」等と目を輝かせます。そうするとそんな子ども達の変化を目の当たりにした親御さんは「安心7支援」への手応えを感じることができるはずです。
 なお、子どもが親のたった一つの行為にも敏感に反応するのは、子ども達が一人残らず「親から愛されたい」と願っているからです。自分が恋い焦がれていた親からの愛情だけは決して見逃すことはないのです。
 また、それは親も同じです。我が子の親に対する言動に頭を悩ませていたのですから、子どもの変化を見逃すはずがありません。

「できるものから」を教えてくれたお母さん
 実は、この「できるものから」という勧め方を考えるようになったのには、あるきっかけがあります。私が北上市内の小学校に在職中、初めて自閉症スペクトラム障害の子どもを担任した時のことです。知的遅れもあるお子さんでしたが、その子は、自分を見るお母さんの厳しい表情に刺激されて、お母さんの顔を叩くことさえありました。
 そのお母さんに、現在の「安心7支援」の元になる「セロトニン5」という、当時市販されていた文献で見つけた、ある5つの支援方法を紹介しました。するとわずかその数日後、学校に迎えに来たお母さんに対するその子の様子が一変し、すっかり“お母さん大好きっ子”になっていたのです。当時「こうまで変わるのか?」と私自身驚いた記憶があります。今思えば、「具体的な行為」の有用性に目を向けるようになったのはこの時からでした。
 実は、このお母さんに「セロトニン5」を紹介した時に、そのお母さんが言った言葉が「じゃあ私にも出来そうなものからやってみますね」だったのです。その時お母さんが選んだのは、確か「微笑む」だったと記憶しています。その子は大好きなお母さんの“表情”の変化を見逃さなかったのです。
 
「安心7支援」の可能性
 私は昨日の講義の冒頭で、「今日の講義を通して、自分が『子どもにとって安心できる養護教諭』になるためにはどうすればいいのか?ということを具体的に理解して頂ければ幸いです」と学生さん方に話していました。
「安心7支援」は、ある五人の専門家の指摘に多く共通した支援方法を私がピックアップしたものです。行為一つ一つを具体的に定義することで、親御さんや教師が「子どもと心で繋がるために何をすればいいのか?」ということが明確になると考えています。仮にその具体性があったおかげで学生さん達が支援をイメージ化することが出来て、自分の解釈まで加えることが可能になったとするならば、これ以上嬉しいことはありません。
 つまり、私にとっては「安心7支援」の可能性を垣間見ることができた、とても貴重な一日となったのです。

 学生さん方、そして、この機会を設定してくださっている担当の先生、本当にありがとうございました・