【今回の記事】

【記事の概要】
教育評論家の親野智可等先生が、保護者からの質問にお答えします。

≪質問≫
(相談者・ミニふりかけさん)
 思い通りにいかないことがあると、すぐキレる子っていますよね。キレて怒鳴ったり、物を投げたり、友達を叩いたりする子…。中学生や高校生でも、そして大人でもいますよね。どうしたらキレない子、キレない大人になってくれるのでしょうか?

≪親野先生のアドバイス≫
 ミニふりかけさん、拝読しました。これは親の切なる願いですね。

一番大切なことをひと言で言えば、キレない子にしたいなら、親がキレない親になることです。

 子どもに対して、親がすぐ「ダメって言ったでしょっ! なんでそんなことするの!」「また○○してない! 何度言ったらできるの!」とキレて叱るのは本当によくありません。親がキレる姿が子どもの見本(モデル)になってしまうからです。子どもは親が思う以上に親をよく観察していて、無意識のうちに同じ行動を身につけてしまいます。これをモデリング効果観察学習)と言います。
 モデリング効果について先駆的研究をしたアルバート・バンデューラは、特に(子どもの)攻撃的な行動は他人の攻撃的な行動を見ることによって強化されると指摘しています。親がしつけのためと言って子どもを叩くと、子どもも何らかの理由をつけて人を叩いたり、約束を守らないからという理由で親がゲーム機を壊したりしていると、子どもも何らかの理由をつけて物を壊したりするようになるのです。
 叩かないまでも、親がキレて叱るという行為も攻撃的な行動であることにかわりはなく、子どももキレて怒鳴ったり、攻撃的な言葉を相手にぶつけたりするようになってしまうのです。

 さらに、いつも叱られてばかりいると、子どもは「自分は親に愛されていないかも」と感じるようになります。これが“愛情不足感”と言われるものであり、親に対する不信感が強い状態です。
 また、親子関係は子どもが作る一番初めの人間関係であり、そこで“不信感”を土台にしてしまうと、その後の人間関係も同じ土台で作るようになります。これが“他者不信感”と言われるものであり、兄弟関係、友達関係、その他一生涯にわたる人間関係の土台が他者不信感になりかねません。他者不信感があると、いつもハリネズミ状態で、「あいつ、今にらんできた」「先生はオレばっかり叱ってくる」と被害妄想的なとらえ方をするようになります。こういう状態だと、ちょっと人と接触しただけで、「なんでぶつかってくるんだ。やる気か?」とキレてしまうことになりかねません。

 同時に、「また○○してない! 何度言ったらできるの!」と叱られてばかりいると、「自分は何をやってもダメだ。自分はダメな子だ」と思い込むようになります。つまり、自己肯定感が持てないまま、強い“自己否定感”にとらわれてしまうのです。自己否定感にとらわれている子は、自分が否定される状況に非常に敏感になります。他人の何気ない言動に対して、「自分がバカにされた」と思い込んで、キレてしまう可能性が高まります。

 以上のように、他者不信感と自己否定感にとらわれている子はちょっとしたことでキレやすくなります。ですから、キレない子にしたいと思ったら、親がキレない親になることです。

 さて、子どもの場合は発達の途上ですから、キレてしまうことも普通によくあるわけで、そういうときの親の対応がとても大事です。
 子どもがキレる姿を見て、「わがままは許しません」とばかりに頭から否定したり叱りつけたりするのではなく、まずは本人の言い分を聞いてあげることが大切です。そして、子どもが、「おもちゃを取られて嫌だった」「ぼくの場所を取られた。場所を取らないで欲しい」などと言ったら、「そうなんだ。おもちゃ取られて嫌だったね」と共感してあげてください。共感してもらえると、子どもは素直な気持ちになれて、その後の親の言葉も聞けるようになり、そこで初めて効果的な指導が可能になります。そして、「理由がちゃんと言えたね。自分の気持ちもちゃんと言えたね」と言葉で言えたことを褒めてから、「言葉で言うことは大事だよ。今度嫌なことがあったら叩く前に言葉で言うようにしようね」と教えます。
 さらに、「ぼくのおもちゃ、返して」「ここはぼくの場所だよ」など、実際に口に出して言う練習をすると、次の機会に実行できる可能性が高まります。まだ言葉で言えない場合は、「おもちゃを取られて嫌だったんだね」と子どもの気持ちを代弁しながら共感してあげるとよいでしょう。

【感想】
 とても共感する部分が多い記事でした。特に、「キレやすい子供は、実はキレやすい親をモデリング(観察学習)していた」という親野先生の指摘からは、改めて親御さんの言動が与える影響の大きさを痛感したところです。
   更に、親が感情的になって子どもを叱ることによって、愛情不足感がもたらす他者不信感、そして自己否定感(自己肯定感の逆)までを子どもに与えてしまうという指摘は、私達に「国から体罰を禁止されるから体罰をしない」ではなく、「親自身の行動が子どもに悪影響を及ぼすから体罰をしない」という考え方を教えてくれるものではないでしょうか?
 
 さて、今回の記事の中で特に印象に残った記述を挙げてみます。
○「子どもがキレる姿を見て、「わがままは許しません」とばかりに頭から否定したり叱りつけたりするのではなく、まずは本人の言い分を聞いてあげることが大切」
   全くその通りです。ただ、この時の“聞き出し方”でも子どもの様子は分かれます。「どうしてこんなことしたの?!」と厳しい口調で問いただすと、子どもは会のように口を閉ざして固まってしまいます。一方で、微笑みながら穏やかな口調で「何か嫌なことがあったんじゃない?」と聞くと、子どもは自分の気持ちを話し始めます。同じく穏やかな言い方で「どうしてこんなことをしたの?」と聞いてもいいかもしれませんが、場合によっては、この「どうして」と言う言葉から、自分の行動を責められている気持ちを抱いてしまう恐れもあります。それよりも、子どもが嫌に感じることがあったという前提で「何か嫌なことがあったんじゃない?」と聞く方が、子どもは自分の気持ちを話しやすくなると思います。
 
○「共感してもらえると、子どもは素直な気持ちになれて、その後の親の言葉も聞けるようになり、そこで初めて効果的な指導が可能になります」「言葉で言えたことをほめてから、『言葉で言うことは大事だよ。今度嫌なことがあったら叩く前に言葉で言うようにしようね』と教えます」
   これも同感です。子どもの言い分に共感し、自分の気持ちを言えたことを褒めると、子どもの気持ちが上向きになり、子どもは望ましい行動について振り返ろうとするので、正しいスキルの学習に繋がりやすくなります(逆に、“叱責”から入ると、子どもは逆に反発し、素直に学習しようとしません)。そのうえで、「あの時なんて言えばよかったのかな?」等と投げかけて、一度は子どもが自分の力で振り返る機会を作りましょう。
 
○「『ぼくのおもちゃ、返して』『ここはぼくの場所だよ』など、実際に口に出して言う練習をすると、次の機会に実行できる可能性が高まる」
   直ぐ攻撃的な言動に走ってしまう子どもは、理性的に言葉で相手に伝えるスキルが身に付いていません。そこで、子どもの振り返りを補う形で、適切な言い方を具体的に教える(「よく考えたね。『………』と言うともっと良いかもしれないね」等)と、子どもはその後の行動に活かしやすくなります。逆に、「次からはちゃんとしなさいよ」や「その気持ちを相手にきちんと言うんだよ」等のような言い方では、子どもには抽象的過ぎて自分の言動に活かせない場合があります。成功体験を重ねることで少しずつ抽象的な理解ができるようになっていくので、スキルはあくまで具体的に教えることが大切です。
 
   以上のことをまとめると、次のようになると思います。
  1. ①「何か嫌なことがあったんじゃない?」と子どもの気持ちを聞く
  2. ②子どもが話したら、「そうか、おもちゃを取られたのが嫌だったんだね」等と共感する。
  3. ③更に「自分の気持ちをきちんと言えたね」と褒めて、正しいスキルの学習に繋げる。
  4. ④「あの時なんて言えばよかったのかな?」と投げかけて、子ども自身に振り返りの機会を与える。
  5. ⑤嫌だった気持ちを相手に伝えるための具体的な言い方を教えて「④」での子どもの反省を補う。

       私の経験上、始めに①と②が出来さえすれば、その後の指導はうまくいくと感じています。とにかく大切なのは、子どもの心が開かれることなのです。
 

   昨今、元農水省次官が自らの手で我が子を殺した事件のような「8050問題」(高齢の親が、壮年期にある引きこもりの子どもを抱える問題)が取りざたされています。最近の調査では、子どもが引きこもりに陥る理由として、退職や学校や職場での人間関係が挙げられていますが、2020年を目前にした今急増している「8050問題」のそもそもの発端は、戦後の高度経済成長期(1954年から1973年まで)に始まった核家族化でした。その状況下での “母親による子どもに対する否定的な支配”がもたらした愛着の崩壊現象、それこそが「8050問題」の始まりと考えられます。
   つまり、今回のテーマである「親がキレて子どもを叱る」ことこそが、この「否定的な支配」であり、親野先生が指摘された子どもの愛情不足感や他者不信感、自己否定感(自己肯定感の逆)こそが、愛着の崩壊状態であったと思います。全ての人間関係の基礎となる親子間での信頼感と、「自分はできる」という自信を失ってしまえば、子どもが家庭の外に向かおうという気持ちを失ってしまうのは当然のことと言えるのではないでしょうか。

   今、子どもがキレる背景に親がキレる状況があるとすれば、そこからまた新たな「8050問題」が始まると言えるかも知れません。