【今回の記事】

子どもの問題行動は親が原因? 発達障害治療の第一人者が治りづらい子どもを分析


【記事の概要】
   皆さんは、「のび太・ジャイアン症候群」(主婦の友社)という本をご存知ですか?
   発達障害者支援法が施行された2005年(平成17年)、発達障害児への対応のために編成された特別支援教育がスタートした2007年(平成19年)らよりも約10年も前の1997年(平成9年)に発行されたもので、この世の中一般にADHD(注意欠陥・多動性障害)という発達障害の存在を初めて知らしめたと言っても過言ではありません。
   その著者であり、発達障害専門クリニックである「司馬クリニック」院長の司馬理英子氏が、20年以上の時を経て、満を持して今年、本著書「(発達障害)気持ちが伝わる“かわいがる”子育て「スマホをおいてぼくをハグして!」~を出版しました。
 
司馬理英子氏のメッセージ
   本著の中で、司馬氏は次のように指摘しています。
「親によるマルトリートメント(不適切な養育)を受けた子どもは、たとえ健常児であってもADHD(注意欠陥・多動性障害)やASD(自閉症スペクトラム障害)に似た症状を見せる」
「発達障害の症状にばかり気を取られず、養育上の課題にもしっかりと目を向ける必要がある」
その上で司馬氏は、本著のタイトルにも掲げられている「かわいがる」の意味について、次のように述べています。
「親は子どものことを心からかわいがり大切に思っています。それが子どもに伝わっていれば、子どもはいつも安心して過ごせ、心の安定が保たれます。」
 
 これらのことから、司馬氏の次のような考え方が見えてきます。
健常児であっても発達障害のような症状を見せる今の子ども達と関わりを持つには、子どもを安心させ心を安定させるための『かわいがる』養育が必要
 
そのうえで、氏は本著の目的を次のように捉えています。
「心を育てる『かわいがる子育て』とはどのように行えばいいのかについて、徹底的に、具体的に分かりやすく伝える」
つまり、
「子どもを安心させ心を安定させるための『かわいがる』養育とは、具体的どのように子どもと関わることなのかを世の中の親御さんに伝えたい」、
それこそが、この本を通した司馬氏のメッセージなのだと思います。

「かわいがる子育て」の具体的な方法
   さて、その「かわいがる子育て」の方法は、本著の第二章に書かれてあります。以下にその項目をそのまま列挙します。
1. 無条件の愛情、無償の愛
2. アイコンタクト 子どもにあたたかいまなざしを向ける
3. 子どもに大好きだと伝える
4. 待つこと 子どもを信じる
5. 子どもをハグしよう スキンシップのすすめ
6. 子どもと遊ぶ
7. 子どもがあなたとやりたいと思っていることをいっしょにする
8. 子どもをほめる
9. 子どもの好きなもの、がんばりを認める
10. 子どもを励ます
11. 子どもが傷ついているとき、不安なときに慰める
12. 友達と遊ぶ時間を確保する
13. 一人で自由に遊ぶ時間を大事にする
14. 子どもの話を聞く
15. 体罰でなく穏やかな言葉で大切なことを伝える
16. 子どもに語りかける
17. 子どもの生活の基本を整える
18. プライバシーを尊重する
19. 子どもにしてほしいことを親もやる
20. ネットとの節度ある付き合い方 スマホは王様?
21. 少しずつやってみよう
 
 私はこれらを見て、「全部で21項目もあって、実践するには大変そう…。どうにか整理できないか?」と頭を悩ませていたとき、これらの中に聞き覚えのあるものがいくつもあることに気がつきました。

◯“母親”と“父親”の働きに整理する
   それは、「安心7支援」と「見守り4支援」に関係するものです。「安心7支援」は主に母親の働き、「見守り4支援」は主に父親の働きです。先の21をこの二つの働きに当てはめてみましょう。
 
◇「安心7支援」(母親の働き)に当てはまるもの
1、2、3、5、6、7、8、9、
14、16、21
◇「見守り4支援」(父親の働き)に当てはまるもの
  4、101112131518
 
   因みに、「3.子どもに大好きだと伝える」は、具体的な言葉にしなくても、日常的に「安心7支援」の行為で接することによってその気持ちが伝わるので、「安心7支援」に含めました。また、「6.子どもと遊ぶ」は、行為そのものは子どもを母親から分離し社会化を図る父親の働きですが、子どもと遊ぶことによって無意識のうちに「安心7支援」の行為がなされるという意味で「安心7支援」に含めました。「7.子どもがあなたとやりたいと思っていることをいっしょにする」も親子が子どもと体験活動を共にすることで、自ずと「安心7支援」の行為がなされるという意味で同様です。更に、「12. 友達と遊ぶ時間を確保する」は、親が過干渉せずに子どもに任せる、という意味で「見守り4支援」に、「21. 少しずつやってみよう」は、できるものから実行するという意味で「安心7支援」の「やると決めたものは、気分でやったりやらなかったりしない」に、それぞれ含めました。

   以上のように、先の11項目を「安心7支援」に、7項目を「見守り4支援」に、それぞれ整理すると、大きな2つのグループに分けることができます。更に、この2つのグループはただのグループではなく、私達にとって、「子供を受容する母親」「子供に自立を促す父親」というイメージが既に定着しているグループですから、初めはバラバラだった11項目と7項目が、それぞれ馴染みのあるイメージにくっついて私達の記憶に収納されることになり、新たに覚える量が節約されるのです。
 
   一方で、これらに当てはまらない「17. 子どもの生活の基本を整える」「19. 子どもにしてほしいことを親もやる」「20. ネットとの節度ある付き合い方」は、子どもの“望ましい生活習慣づくり”に関わることであり、また別のグループに収納されます。
 
 なお、「安心7支援」にある「子どもに微笑む」は、先の21項目にはっきりとは明記されていませんでした。
   敢えて当てはまりそうなものを挙げると、「2.アイコンタクト 子どもにあたたかいまなざしを向ける」の「あたたかい」がそれにあたると言えるかも知れません。しかし、その詳細を見ると、「ママには赤ちゃんの目をじっくりと見ていてほしいのです。(中略)日常のなにげない行動に、ちょっとまなざしを足すだけで、子どもとの関係は生き生きとしたものになります」と記述され、「じっくりと」とはありますが、「微笑み」とは具体化されていませんでした。
   ただ、子どもにまなざしを向ける時の親の気分によっては、その表情が子どもに安心感を与えない場合もあります。大人である私でも、あるスーパーのレジ店員さんの“微笑み”だけでも心を癒されます(ブログ記事「雑感ツイート70」の「ツイート⑤」参照)。また、現職時代とても厳しい指導をしていた私が、その翌年に担当した重度の自閉症スペクトラム障害の子どもに対して、徹底的に“微笑み”を意識したところ、その子の乱暴な行動は嘘のように収まりました。
   つまり、“微笑み”だけでも、意識しさえすれば、その人から“安心感オーラ”が醸し出され、確かな養育効果が生まれるので、独立させて明記する必要があると考えます。
 
母親”と“父親”の働きに整理される理由
 さて、こうしてみると、日常の子どもとの関わり合い方については、殆どが「安心7支援」か「見守り4支援」に当てはまります。つまり、この二つの働きを果たせば、自ずと司馬氏が主張する「子どもの心を育てる『かわいがる子育て』」に繋がることが分かります。
   そもそも、“子育て”とは、まず母親が子どもの一生を支える安心感としての愛着を形成し、その後、それを土台にして、父親が、子どもと遊んだり、過干渉せずに子どもに任せて見守ったりしながら世の中のルールや常識を教え、社会に通用する人間に成長させることです(もちろん、それぞれの働きをお互いに支え合いながらのうえでです)。ですから、司馬氏の子育て論が、母親と父親の働きと結びつくのは、至極当然と言えるでしょう。やはり、母親と父親の役目は大切なのですね。

◯“発達障害”という視点の大切さ
 最後に、実はこの著書のタイトルの冠には「発達障害」と謳っています。しかし、先の21項目を見て、「うちみたいな普通の子どもには当てはまらない特殊なものだ」と感じた方はいらしたでしょうか?実はあれらの支援は、発達障害以外の子どもに対しても、とても大切なものばかりです。
   特に感覚過敏である発達障害の子どもでも安心できる支援は、普段は強い刺激を我慢している他の子ども達にとって、普段は味わうことのない特別な安心感を与えられることになります。ですから、発達障害に主眼を置く司馬氏の指摘の一つ一つに“重み”が感じられるのでしょう。何よりも、子どもと愛着を形成するうえで最も重要な“スキンシップ”を求める子どものSOSの声(「スマホをおいてぼくをハグして!」)をこの本のタイトルにするあたりに、子どもの心の内を見抜く司馬氏の素晴らしさを感じます。