現在、お笑い芸人「チュートリアル」の徳井義実さんが、納税義務等に関わる問題でニュースで取り上げられています。


   実は、彼については「締め切りを守れない」等の理由から、発達障害であるADHD(注意欠陥多動性障害)ではないか?と指摘する声がネット上で上がっています。
 
   そこで、今回の記事では、以下のことを目的としてADHDについて取り上げてみたいと思います。
徳井さんのケースを一つの例として、ADHDに関わる症状が私達の日常生活のどのような場面で現れるのか、また、どのような手順で障害の有無を検討するのか、等について理解を深めてもらう
 
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日常生活に現れる場面
   さて、アメリカ精神医学会によって出版された精神障害の診断と統計マニュアル第5版(最新版)「DSM–Ⅴ」(資料「ADHDにおける診断の実際」より)によれば、ADHDの診断基準について、次のように規定されています。
 
「以下の『不注意』と『多動性および衝動性』の症状のうち、それぞれ6つ以上、少なくとも6か月以上持続したことがあり、その程度が発達水準に不相応で、社会的・学業的・職業的な活動に直接悪影響を及ぼす程である。」
(1)「不注意」に関わる症状
(a)学業、仕事、またはその他の活動中に、しばしば綿密に注意をすることができない、または不注意な間違いをする。(例:細部を見過ごしたり見逃したりしてしまう、作業が不正確である、等)
(b)課題または遊びの活動中に、しばしば注意を持続することが困難である。(例:講義や会話や長時間の読書に集中し続けることが難しい、等)
(c)直接話しかけられたときに、しばしば聞いていないように見える。(例:講義や会話や長時間の読書に集中し続けることが難しい、等)
(d)しばしば指示に従えず学業や用事や職場での義務をやり遂げることができない。(例:課題を始めるが、すぐに集中できなくなる、また容易に脱線する)
(e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である(例:一連の課題を遂行することが難しい、作業が乱雑でまとまりがない、時間の管理が苦手、締め切りを守れない、等)
(f)精神的努力の持続(例:学業や宿題、青年期後期および成人では報告書の作成や書類にもれなく記入すること、長い文章を見直すこと、等)に従事することをしばしば避ける嫌う、またはイヤイヤ行う
(g)課題や活動に必要な(例:学校教材、鉛筆、本、道具、財布、鍵、書類、眼鏡、携帯電話、等)をしばしば失くしてしまう
(h)しばしば外からの刺激(青年期後期および成人では、無関係な考えも含まれる)によってすぐに気が散ってしまう
(i)しばしば日々の活動(例:用事を足すこと、お使いをすること、青年期後期及び成人では、電話を折り返しかけること、お金の支払い、会合の約束を守ること)忘れっぽい
 
※(b)と(d)は、“集中性”という点では同じだが、(b)が日常生活の中での課題、(d)が社会的責任のある学業や職場での課題、という違いによるものであると考えられる。
※(d)と(f)は、“社会的責任のある学業や職場での課題”という点では同じだが、(d)が集中力、(f)が“怠け”的な態度面、という違いによるものであると考えられる。
 
(2)「多動性および衝動性に関わる症状(省略)
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   今回の徳井さんのケースではこの「多動性および衝動性」に当てはまるものは少ないと思われるので、ここでは省略します。
   ただ、皆さんの周りで、お子さんはもちろんのこと、大人の方でも、「動いてはいけない場面で動き回ってしまう」「しゃべるのが止められない」「活動性が異常に高い」等の多動性や、「我慢が聞かない」「危険な行為でも思い付きで行動してしまう」「欲求をすぐに満たそうとする」等の衝動性が見られる場合は、上記資料「ADHDにおける診断の実際」をご参照ください。
 
 なお、ADHDと言うと、「落ち着きのない多動性の症状」という印象があるかも知れません。もちろん、「多動性および衝動性」だけの場合もありますが、「不注意」だけの場合もありますし、双方を併発している場合もあります。更に、自閉症スペクトラム障害(ASD)と併発しているケースも多くあります。
 
障害の有無の検討の手順
   さて、当該人が「不注意」によるADHDであるかどうかを考える場合、先ず、(a)~(i)の項目の中で、本人に当てはまるものが6つ以上あるかどうかを調べ、更に、当てはまるそれぞれの項目が「少なくとも6か月以上持続したことがある」「その程度が、発達水準(年齢等)に不相応」「その程度が、社会的・学業的・職業的な活動に直接悪影響を及ぼす程」の全てを満たしているかを検討します。
 
 では、先ず(a)~(i)の項目の中で、徳井さん本人に当てはまると思われるものを考えます(あくまで推測です)。
   真っ先に思い当たるのは、「締め切りを守れない」「お金の支払いを忘れやすい」が含まれる(e)と(i)でしょうか。また、税務署や役所等から郵送されてくる連絡や督促などの活字の多い文書を目の前にした時に、その内容を読み取ることが面倒くさかったり苦手だったりする場合も考えられます(私はこれに当てはまります)。仮にその場合であればf)も当てはまるでしょう。
 また、今回の申告漏れなどの問題は、2009年に株式会社「チューリップ」を設立した時から見られていた件であったことが報道されているので、これらの行動特徴は、当然「6か月以上持続」しているものと考えられます。
   また、ご本人が会見で「こんないい年したおっさんが、…」と自身のルーズさについて語っているので、これらの行動特徴は「(44歳という)年齢に対して不相応である」と判断できると思います。
   更に、今回は1億円以上の追徴課税があったことが報道されているので、これらの行動特徴の程度が「社会的・学業的・職業的な活動に直接悪影響を及ぼすほど」であると考えられます。
   よって、(e)と(i)、場合によっては(f)も、本人の中に明らかに見られる行動特徴であると言えるかもしれません。
 
徳井さんはADHDと言えるか?
   しかし、それ以外の項目が更に当てはまるかどうかは、徳井さんの日常の行動特徴によるものであり、ネットニュース等で報道されている内容では、ここまでが限界です。実は、私自身、徳井さんと相方の福田さんが2006年に「M–1グランプリ」で優勝して以来、彼らのファンの一人なので、心の中では、徳井さんの中に“意図的悪意”は無かったという結論に至りたかったのですが、これ以上は他人が軽々に判断できるものではありません。
 一方で、ネットでは「締め切りを守れない(診断項目で言うと(e)に該当)」という理由から「徳井はADHDではないか?」とする意見が見られるようですが、単に一つの項目だけ当てはまっても、6つ以上の該当がなければ正式な診断はできないので、明確な根拠のある意見が求められるところです。
   更に、このDSM–Ⅴ自体は、専門医も使用している診断基準ですが、それでも一般の方が自己診断した場合は、正式な診断ではありません。あくまでも参考情報として捉え、最終的な判断は精神科や心療内科の医師の診断を受ける必要があります。
 
発達障害は“スペクトラム”
   最後に補足です。
   ADHDは「不注意」「多動性および衝動性」それぞれ9項目あります。定義上はそれぞれ6つ以上の項目が当てはまる場合に正式な「注意欠陥多動性障害」という診断が下されますが、人によっては、5つ当てはまる場合もあれば、4つ当てはまる場合、3つ、2つ、1つ、というように、一般の方が連続して分布しているだろうということが容易に推測できます。つまり、自閉症スペクトラム障害も含め、発達障害はその人達だけが特別な人、特殊な人なのではなく、それに準ずる人達が連なっている「スペクトラム(連続)性」を持っている、“大なり小なり”の程度の差に過ぎないのです。