【今回の記事】

【記事の概要】
   2019
4月に罰則つき残業規制がスタートすることもあり、「働き方改革」は喫緊の課題となっている。そんな中、プレッシャーが増しているのがプレイングマネジャー。個人目標とチーム目標を課せられるうえに、上層部からは「残業削減」を求められ、現場からは「仕事は増えてるのに…」と反発を受ける。そこで、1000社を超える企業で「残業削減」「残業ゼロ」を実現してきた小室淑恵さんに『プレイングマネジャー「残業ゼロ」の仕事術』をまとめていただいた。本連載では、本書のなかから、プレイングマネジャーが、自分もチームも疲弊せずに成果をあげるノウハウをお伝えしていく。

「アドバイス」より「フィードバック」が効果的
「マネジメントは待つことが大事」、「メンバーの『心理的安全性』を大切にする」このようなお話をすると、多くのマネジャーの方から、「それでは、言うべきことも言えなくなってしまう。問題のあるメンバーにそれを指摘しなくていいのですか?そのほうが本人のためにならないのでは?」という質問を受けます。たしかに、「お客様への対応が不適切」「仕事のスピードが遅い」「職場でのコミュニケーションが悪い」といったメンバーの問題行動を、マネジャーとして放置するわけにはいきません。かと言って、厳しく指摘して「心理的安全性」を脅かしてしまえば、メンバーとの「関係の質」を大きく損ねてしまいかねません。皆さんも、どうすべきか苦慮されているのではないでしょうか?
   しかし、この問題に適切に対応する方法があります。放置すること」と「厳しく指摘すること」の中間に位置する、「客観的事実をフィードバックする」という方法です。フィードバックとは、もともとは軍事用語で、砲弾が目標地点からどれくらいズレていたかを射手に伝えることを指します。客観的な事実を伝えるだけで、そこに主観的な価値判断が入っていないことが重要です。アドバイスと対比するとわかりやすいでしょう。例えば「的から左に2cmズレていましたよ」と伝えるのは客観的事実に基づいたフィードバックですが、「もっと右を狙って撃ったほうがいい」というのは主観的な価値判断の入ったアドバイスです。
   そして、相手の行動を修正するのに効果的なのは「アドバイス」よりも「フィードバック」です。理由は2つあります。
   第一に、フィードバックは客観的事実を伝えるだけですから、それを聞いた相手は抵抗感なく受け入れることができます。一方、アドバイスは“上から目線”と受け取られやすいため、相手が反発を覚えて、素直に受け入れてくれないことが多いのです。
   第二に、フィードバックは「目標地点からのズレ」を伝えるだけですから、そのズレをどのように修正するかを考えるのは本人です。つまり、フィードバックには本人が自発的に行動を修正するのをうながす力があるのです。一方、「修正すべきポイント」を示すアドバイスは、本人に考える余地を与えません。そのため、たとえアドバイスを受け入れて行動を修正したとしても、それは一時的な変化にとどまるケースが多いでしょう。自発的に変わろうとしなければ人は本質的に変わることはできないのです。ましてや、「なんでそんなに左寄りに撃ったんだ!」などと厳しく叱責することは、ただただ相手を委縮させるだけで、本人の自発性を損なわせる結果を招くでしょう。具体的なシーンで考えてみましょう。
「事実のフィードバック」の例
   例えば、お客様に対してカジュアルな口調で電話対応をしている部下がいるとします。友達と話しているかのような言葉づかいなので、そばで聞いていると、「お客様に対して失礼にあたるのではないか」とハラハラします。そんなとき、つい「もっと丁寧に電話したほうがいいよ」と言いたくなりますが、これではアドバイスになってしまいます。「電話が丁寧ではなかった」とダメな点を指摘しているのと同じですから、メンバーは萎縮してしまうでしょうし、ときには憤りを感じることもあるでしょう。では、どうすればフィードバックになるのでしょうか?コツは、感じたことをそのまま伝えることです。この場合であれば、メンバーがカジュアルな口調で電話対応しているのを聞いて、「友達と話しているみたいだ」と感じたのですから、「いま、友達と電話してたの?」と尋ねればいいのです。これは、マネジャーが「私はそう感じた」という事実を伝えただけですから、決してダメな点を指摘していることにはなりません。そして、このフィードバックを受けたメンバーは、「あれ?クライアントと話していたのに、ちょっとマズかったかな?他の人はどんな言葉づかいで電話しているんだろう?他の人の電話をちゃんと聞いて参考にしたほうがよさそうだな……」などと、自分の頭で考え始めてくれるはずです。
直後に・軽く・フラットに
   また、フィードバックをするときには、「直後に・軽く・フラットに」を心がけてください。問題行動があった直後に伝えると本人も振り返りやすいですし、なるべく軽い言い方をしたほうが受け取りやすいからです。そして、「気づかせてあげる」といった“上から目線”ではなく、あくまでフラットに「不思議に思いました」と伝えるのが、感情的な反発を最小限にするコツなのです。

【感想】
「注意したいけれども、そうすると相手の機嫌を損ねるかもしれない」というジレンマ。相手が幼い子どもであれば思ったことを素直に言えるのですが、相手が大人となるとそうはいきません。
   しかし、同様のジレンマは、思春期以降の子どもに接している時にも感じることはありませんか。今回の記事は元々は大人向けの記事ですが、本ブログでは、それだけでなく、「自我(自分なりの気持ち)」が発達し始め、精神的に敏感な思春期の子どもに気づかせる方法の在り方という視点でも活用したいと思います。
 
   相手に気付かせて、しかも相手の機嫌を損ねない方法、それが「客観的事実のフィードバック」、つまり「こちらの主観を入れずに、感じたこと(事実)」をそのまま伝えるという方法が今回の記事で提案されているものです。ここで、記事の内容を整理してみたいと思います。
  1. ①「なんでそんなに左寄りに撃ったんだ!
   これは明らかに指導者側の主観、というより“個人的な感情(怒り)”が入っています。これでは、言われた方は反発するでしょう。思春期の我が子であれば、「うるさい!」といわれてそれ以上の展開は望めないでしょう。
  1. ②「もっと右を狙って撃ったほうがいい
   こう言うと、言われた方は「そんなこと言われなくても分かっている。余計なお世話だ。」と、内心では快くは思わないでしょう。
  1. ③「的から左に2cmズレていましたよ
   このように事実をフィードバックすると、「ああ、2cmだったか。」と思い、一つの情報として受け止めるでしょう。こういう言い方をすると先輩が与えたのは“注意”ではなく、後輩が判断するための一つの“情報”になるのです。
 
 電話対応の例も、同様に考えてみましょう。
  1. ①「お客様と話すのに、そんな話し方ではだめだ!」(怒りの感情)
  1. ②「お客様と話すときは、もっと言葉遣いに気をつけた方がいいよ。」(余計なお世話)
  2. ③「今、友達と話してたの?」(事実のフィードバック)
   これらのうち、①と②は「あの後輩はお客様に失礼な話し方をしている」と決めつけている言い方になります。もしも、本当に友達と話していた場合、「先輩は自分がお客様と友達のような話し方をする人間だと思ったんだ。」と反感を持つでしょう。その一方で③は、話している相手を「お客様」と決めつけず、まず相手を確認しています。その分だけ部下は「自分を信じてくれていた」と思うでしょう。それも、先輩が最初から疑うことをせず客観的な印象を伝えたおかげだと思います。
 
 もう一つ、今度は思春期真っただ中の我が子に対する場面を考えてみましょう。
  1. ①「お母さんに対してその言葉遣いは何なの!」(怒りの感情)
  2. ②「目上の人への言葉には気をつけた方がいいよ」(余計なお世話)
  3. ③「今のはお母さんへの良い話し方だった?」(事実のフィードバック)
 
   また、記事では「軽く・フラットに伝える」ことが勧められています。これは、相手の感情的な反発を最小限にするためのものですが、これは、「自立4支援」の「諭す」、「愛着7」の「④穏やかな口調で話しかける」と同じ意味を持っています。
 
   しかし、一番望ましいのは、「どのくらいずれていたのか」「では、どんなことに気をつければいいのか」について子どもに任せて考えさせることでしょう。そして、何度やっても上手くいかずに、とうとう子どもの方から助けを求めてきた時に、「何cmずれていたと思う?」「どうしたらそのズレが無くなると思う?」と穏やかな言い方で聞くとよいでしょう。それが、「自立4支援」による接し方です。この時に、仮に先の「③」以外の言い方をしてしまったとしても、子どもの方から助言を求めてきたのですから、穏やかに諭す言い方さえすれば大丈夫です。なお、「自立4支援」によって「上手くいくまで自分の力でがんばってみる」という体験をさせることも、子どもの将来に生きて働く“意思決定能力”や“問題解決能力”を伸ばすうえでとても大切です。
   ただ、「ここはすぐに気づかせてやらなければ他人に迷惑がかかる」と親御さんが判断した場合には、親の方から「事実のフィードバック」によって伝えるのが良いでしょう。しかし、やはりこの場合も、親御さんが普段から穏やかな言い方をしている場合には、「③」以外の言い方をしたとしても子どもは受け入れることができるでしょう。日常的に穏やかな物言いをする親の子どもは、第二反抗期の反抗もそれほど激しくならないと言われるのもそのためだと思います。
 
   なお、大人の場合は、「限られた納期」等のような制限があると思いますから、先輩の方から声をかけざるを得ない場合もあるでしょう。その際はぜひ「事実のフィードバック」方式で。ただ、もし時間的な余裕があるなら、先のように自分で考えさせる指導も後輩を育てるという意味では必要だと思います。