以下本記事目次】
1. 子どもをほめる意味
2. 子どもの“中”の良さをほめる
3. “結果”ばかりほめていると、消極的な子どもになる
4.「自己肯定感」ばかりでは社会では通用しない

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1. 子どもをほめる意味
「うるさい!」「はやくしなさい!」「何回同じことを言わせるの!」
   親がこのような言葉で子どもを叱りつけること、ありがちではないでしょうか?実は、このような場面は、ある専門家が、「今の家庭で特に『(子どもの人格に影響を与える)愛着障害』に陥りやすい場面」としたうえで、親からいつも自分を否定されて育った子どもは、大人になった時に、人との関わりを避け、他人への怒りの感情を抱きがちな『回避型』と呼ばれる愛着タイプになる可能性が高いと警鐘を鳴らしているものです。この傾向は、将来子どもが人間社会を拒絶し、場合によっては引きこもりに陥るリスクがあることを物語っています。
 
   一方で、“ほめる”ことは、親子間の「愛着(愛の絆)」を深めるうえで、とても重要な愛情行為です。愛着が形成されることによって、親は子どもにとって失敗しても“やり直し”が許される「安全基地」となるため、失敗体験が減ると同時に成功体験が増え、その結果、「自分はできる子なんだ」という自信、つまり「自己肯定感」が育まれます。これは、子どもの全ての活動の意欲・エネルギーの源になるものです。

   子どもを叱る回数を減らして、ほめる回数を増やす、そのことこそが、子どもの健全な成長を図るうえで重要なのです。
 
2. 子どもの“中”の良さをほめる
   ほめる際には、「このくらいは出来ないと、ほめるには値しない」という“親の基準”に従っていると、子どもが褒められる場面はなかなか登場しません。そのうちに「どうしてできないんだ!」という小言が口を突いて出てくるでしょう。
   子どもを褒めるためには、親の中にある基準ではなく、子どもの“中”にある良さを見つけてほめることが望ましいのです。
   その場合の基本は2つです。
  1. ①日頃からその子なりの良さをほめる
「さすがは○○、生き物に詳しいね」
「さすがは○○、やさしいね」
  1. ②その子どもの“以前”と比べて良くなった点を見つけてほめる
「テストの点数が前よりも○点良くなったね」「先週よりも忘れ物が○回減ったね」

 また、失敗体験の多い子どもに対しては、「小さなことから褒める」ことも大切です。例えば、次のようなほめ方も考えられます。
できていないところがあっても、できていることを見つけて褒める
(徒競走でビリでも)一生懸命走っていたね
(通信票の中で良くなかったところがあっても、先ずは)国語が良くなったね」等
普段、当たり前の事を当たり前にできない子どもに対しては、そのことができた時に褒める
「ドアをきちんと閉めてえらいね」「使ったものをきちんと片付けてえらいね」「『おはよう』がきちんと言えてえらいね」
普段、教えられたり注意されたりしても素直に行動できない子どもに対しては、言われたことができた時に褒める
「お母さん見てるから、もう一度やってごらん」⇨「ほら、できたじゃない!」
いきなり課題全体をやらせるのではなく、スモールステップで少しずつ褒める例えば「部屋を片付けようね」ではなく、
「先ずは机の上だけでいいから片付けようね」⇨「ほら、できたじゃない!」⇨「明日は使ったオモチャも片付けてみようか」
普段、すぐにやる気が無くなることが多い子どもに対しては、子どもが何かをやり始めたら、できるだけ早く褒めるつまずいて子どものやる気が崩れてしまう前にほめる事ができれば、子どもの意欲は上がります。
「さっそくがんばってるね!」「(ドリルなど)始めの◯問、全部できてる!」
 
3. “結果”ばかりほめていると、消極的な子どもになる
 アメリカのスタンフォード大学の教授が、小学生を二つのグループに分けて次のような実験を行いました。
Aのグループの子ども達には、「上手くできたね」と “結果”をほめました。
Bのグループの子ども達には、「よくがんばったね」と“努力”をほめました。

 その結果、“結果”をほめられたAグループの子ども達は、「せっかく“結果”をほめられたのに、次にいい結果を出せないと自分の能力を疑われるかも知れない」と思い、その後、新しい課題を避け、同じ課題を解こうとする消極的な傾向が強くなりました。反対に、“努力”をほめられたBグループの子ども達は、「“努力”する様子をもっと認めてもらいたい」と思い、更に新しい課題にチャレンジしようとする積極的な傾向が見られるようになりました。
 
   子ども達の日常生活でも同様です。子どもが一定基準をクリアした時だけほめ、それに届かなければ残念そうな顔をしていると、子どもは先のAグループと同じように、「親が願う基準に達しないと、親の愛を受けることができない」と思うようになり、親の顔色ばかりをうかがい、「失敗しないように」、そればかりを考えて、常にプレッシャーに悩まされながら生活するようになるでしょう。一方で、努力をほめられる子どもは、先のBグループと同じように、失敗を恐れず、積極的に行動するようになります。
 
   ところで、「結果」と「努力」、褒める対象によって、なぜこれほど子どもの生活の様子に違いが生まれるのでしょうか。それは、
結果をコントロールすることはできないが、努力はコントロールすることができる
からです。
   コントロールできない“結果”は、次はどんな結果になるか予測がつかないため、いざ新しいことに挑戦しようという段になった時に、不安感に襲われてしまいます(「どんなにバットを振って練習しても、明日の試合で親が望むヒットを打てるか分からない…」)。一方で、“努力”は自分の心がけ次第でコントロールすることができるので、“努力”をほめる親からの評価を失う心配がありません(「バットを振っただけ、親が望む“努力”を示すことができる!」)。

 
4.「自己肯定感」ばかりでは社会では通用しない
   ところで、先の「自己肯定感」というのは、あくまでも自分に対する自信です。
   しかし私達は、友人や同僚をはじめとして、数多くの人達と関わり合いながら生活をしています。その中では、誰かの役に立ってこそ充実感を感じるものですし、将来は、誰かのためになる活動として仕事に就き、その対価として収入を得ることになります。そのため、自分は誰かの役に立っている」という“人への貢献面”での自信こそが、自分自身の社会生活を支えることになります。その自信が「自己有用感」と呼ばれるものです。
   
   なお、この「自己有用感」の基本を身に付ける場所は家庭です。家族の役に立つ喜びを学ぶことができた子どもが、家庭の外に出た時に、他者の役に立つことをしようという意欲を持つことができるのです。逆に、「自己肯定感」しか身に付けられなかった子どもは、「自分さえ良ければそれでいい」という自分中心の考え方で社会を生きていかなければならなくなり、早晩、周囲からの信頼を失うことになるでしょう。
 
 では、自己有用感が持てる子どもに育てるには、どうすればいいのでしょうか。
   それは、誰かの役に立っている我が子をほめてやること、それに限ります。
   実は、家庭の中で「自己有用感」を育むことができる場面はたくさんあります。それは、子どもが家族の誰かから“ちょっとした頼みごと”をされる場面です。例えば、家族での食事中に、親が子どもの近くに置いてあるお醤油を使いたい、というような場面。この時に親が子どもに対して
お醤油とってくれる?
と聞きます。「お醤油とって!」という“指示”や“命令”でなければ、子どもは素直にお醤油をとって渡してくれるはずです。その時に、すかさず
ありがとう
と返すのです。他にも、同じような場面は家族生活の中にはたくさんあるでしょう。
   そのような経験を繰り返しているうちに、子どもは、「『ありがとう』と言われるとうれしいな」と思うようになり、いつしか、親が何かで困っている様子を見かけた時に、親から頼まなれなくても、助けの手を差し伸べることでしょう。

   繰り返しになりますが、このように家族内で「自己有用感」を感じる経験を積み重ねることによって、子どもは独り立ちして社会に出た時に、困っている同僚のために力になってあげたいと思うようになるのです。